第4話


 僕は一体何をしているんだ?

 日々が過ぎてゆく。バッテリー残量はどんどん減っていき、バッテリー切れになるのは時間の問題だった。もちろん、研究所を抜け出したその時点でわかりきったことではあった。充電できなければいつかはバッテリーが切れて起動できなくなることくらい、重々承知のことだ。一般家庭用のコンセントで間に合わせることなどできない、ということだってわかりきったことだった。そんなことをすれば、すぐさまブレーカーが落ちてしまう。もっと大きな電力のあるところに忍び込むことも出来なくはないが、恐らくずっとは続かないだろう。必ず見つかってしまう日が来る。下手をしたら、そこから彼女に発見されてしまう可能性だってある。

 いつか僕のバッテリーは切れてしまう、そんなことはわかっていた。ただ、この新しい体は僕の予想を大幅に超えてバッテリーを消費していた。


 僕は時々、自分がロボットなのだということを忘れそうになる。彼女とも研究所とも全く無関係の存在になれたように思うこともある。

 しかし僕はどうしようもなくロボットなのだ。人間の真似事をしているだけの、ただのアンドロイド。

 ロボットの存在意義とはおそらく、人間の役に立つこと。

 ……では、僕の存在理由は?

 僕は何の為に研究所から逃げ出したんだ? 何をする為にここにいる? 何故こんな体で人間の真似事をしている?

 考えたところでまともに答えなんか出せないような気がした。

 とにかく僕はどうしようもなくここで一人だし、どうしようもないくらいに人間として今を生きている……。



 こんな風に自分から進んで日常生活とは関係のない作業をするのは新鮮だった。でも、だからといって楽しいかと聞かれればそういうわけでもない。

「なんでこーなっちゃったんだかなー……」

 僕は細々とした部品でごった返す机の上を、半ばぼうぜんと見つめていた。手先の不器用さになら自信のある僕が、どこをどうやって『いも虫型ロボットのための植物型ロボット』をつくるという話になってしまったのだろうか。

「まぁ、彼女にまた会えるっていうのはすごくうれしいんだけどさ」


 あの日、彼女は言っていた。設計にミスは無いはずなのだと。なのに失敗してしまうのは私のつくり方になにか問題があるのかもしれないと。

 ――だから、私でない誰かに『いも虫型ロボットのための植物型ロボット』の製作をしてもらう必要がどうしてもあるんです。

「まぁ、いいんだけどね。時間だけはありあまる程あるし……」

 それに、意味もなく退屈に花見をしているよりは、彼女といも虫のロボットのため、という意味のある退屈な作業の方がよっぽどやりがいがある……。


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