episode18 「西の男」
ドガイ共和国は、隣国からの侵攻を防ぐため、五つの小さな国が同盟を結んでできた国だ。
クドは流通の盛んな北の玄関口。
レブンは自然豊かな少数民族の国。ドレイドに似ている。
ヒズリアは首都国で、他の四つの国の恩恵を受けて裕福。王族が多い。
トナスは、国土は広いが、ほとんどが砂漠で、昼夜の寒暖差が大きい国。
最南のフィニカはほとんど人が住んでおらず、何百年も前の建物、遺跡がそのまま残っている。
当初は治安の良い平和な国だったが、ルコスと西国の大戦後、仕事を失った兵士、傭兵たちが流れてきて、大陸一の無法地帯となった。
そのなかでも北側にあるクドは、数年前のイーゴル、プーゴルの戦争後、ならず者たちの溜まり場になっていた
クドを治めている首相は、平和的治安維持のため、ある娯楽施設を建設した。
見事成功。
争い事は減り、治安は前より良くなった。
国民たちは七日に一回行われるある娯楽行事に夢中になっていた。
「やられた!」
キースが振り返ってすぐ、クラナが叫んだ。
「まさか、全額持ってきたんですか?」
スミが問う。
周りを見回すが、この人混みだ。子供たちの姿など見つけられるはずがない。頭を抱えるクラナ。
「まさか、あんな可愛い子供たちが泥棒するなんて・・・」
嘆息するスミ。
「だから気をつけて下さいと言ったでしょ? 街の治安は良くなっても、住んでる人は変わっていない。
返す言葉がない。
旅費の管理はクラナがしていた。久しぶりの街で、少し浮かれ気分だったし、集まってきた子供たちは、本当に無邪気で可愛いかった。
まんまと旅費を盗まれてしまった。
普段なら、幾らか宿屋に預けて出掛けるのに、今日に限っては全額持っていた。
呆然とするクラナを引きずるように連れていく。市場の出店の裏に隠れる。スミが身体のあちこちから、金の入った袋を取り出して、勘定を始める。
「私の手持ちで数日は大丈夫ですが、イナハンまでは無理ですね」
「お前のお金を使うわけにはいかない」
キースが言った。
その場にしゃがみ、落ち込むクラナ。
「こうなったら、女の武器を使って、男どもを惑わして、金を巻き上げるか」
街の環境のせいなのか。クラナの発想が悪過ぎる。
嘆息するスミ。
「クラナさん。キース様ならまだしも、クラナさんでは、男たちが寄ってきませんよ」
いつもなら食ってかかるところだが、違う世界に入り込んだクラナに反応はない。
「何か稼げる方法はないのか?」
キースがスミに問う。
金の入った袋を戻しながら思案する。
そうですねぇ・・・
手持ちの武器を売っても、大して金になりそうもない。働いて稼ぐのは時間がかかり過ぎる。
ふと、先程道端で耳にした事を思い出す。
「そう言えば、近くを歩いていた方が話していたのですが、今日こそ当てて、家族に楽をさせてやる、とか言ってましたが・・・」
ちょっと聞いてきます。
スミは通りに出て、出店の店主に話しかけた。
「幻覚魔法であたしに金を渡すように仕向けるか・・・いや、いっそ火をつけて・・・」
悪どい計画がどんどん出てくる。
キースはしゃがんでいるクラナの頭に手をおいた。
ようやく我に返り、キースを見上げた。
「落ち着け、クラナ」
キースの笑顔を見て、今度は泣き出した。
「ゴメンねキース。ゴメンよぉぉ~」
足に抱きつく。
頭を撫でるキース。どっちが年上か分からない。
スミが帰ってきた。
怪しい魔よけの首飾りを身につけ、両手には、細い管が刺さった木の実の飲み物。
「聞いてきました」
店主の話術にはまり買わされたようだ。
こっちはこっちで、放っておくと破産しそうだ。
「この街では七日に一回、『武闘会』が開催されるそうです」
スミが言った。
武闘会。
ルコスで参加した戦士育成が目的の競技か。
「ルコスの『武闘会』と違うのは、参加者に観客がお金を賭けて、勝敗によって配当金をもらう、という仕組みがあって、上手く賭ければ大金が入ってくるようです」
出店が両脇に並ぶ道から離れた。
道幅は細くなり、酒場が増え始める。客の殆どが武器を携帯しており、喧嘩が始まると、大抵最後は殺し合いになる。
酒場も多いが、武器屋も多い。鍛治屋もある。客は元兵士や傭兵たち。武器を買い、自分好みに加工して、酒を飲んで、殺し合い。
この通りだけで、かなりの相乗効果だ。
時代を感じさせる石畳の道の先に、まだ新しい建物が見えてきた。
石を積み上げてできた四角い建物。道の横に水路があり、その建物に繋がっている。
キースたちの方から見える出入口は二ヵ所。参加者用と観客用だと思われる。
その前で派手な服を着た男が大声を上げていた。
「只今掛け金は大変な事になっております!」
人だかりの後ろで止まる。
「半月前に現れた謎の男。伝説の剣士、ガガルを倒したと豪語する鉄仮面の男が、連勝記録を伸ばしており、彼を倒せば掛け金は二十倍です!」
挑戦者はいないか?!
賭ける者はいないか?!
「キース、あれって・・・」
キースを見るクラナ。
表情は変わっていないが雰囲気で分かった。かなり怒っている。
「とりあえず見学しませんか? 途中参加出来ますし」
スミが観客席へ導く。
薄暗い通路を進むと、広い空間に出た。円形の観客席。百人くらいは収容出来る。それが階段状になっており、地下の中心にやはり円形の競技場。高い石の壁に覆われている。
床に薄く水が張られている。先程道の横にあった水路から取り込み、新しい水が循環するように排水口もある。
何のための水か。
スミが聞いてきた話によると、大量の出血、死体の処理を迅速に行うため、流してしまうための水らしい。
試合が始まった。
武装した兵士が二人、直刀の剣で戦っている。ほぼ同じ実力のため、決め手の一打が出ない。
観戦だけの者もいる。声援したり、野次を飛ばしたり。金を賭けたい者は、通路に立っている係の者から、競技参加者の番号札をもらい、掛け金を払う。対戦が始まるまで金を賭ける事ができる。殆どの試合が実力差の無い、僅差のものなので配当は少ない。掛け金が二倍になれば大儲けだ。
ひとりの係員が五、六人の相手をする。
試合は膠着状態だ。
疲労で二人の動きは鈍く、火花を散らした剣は、刃こぼれして致命傷を与えられない。
力尽きて倒れる。
これ以上の結果は望めない。
「引き分け! 」
進行役の男が叫んだ。
高い壁に空いた穴から、大量の水が吹き出した。水位が戻った時、そこに兵士はいない。
なんというか、合理的な仕組みだが、参加者は人扱いでなく、物扱いだ。
均衡した試合がいくつか続いた。どちらが勝ってもおかしくない内容で、大金狙いでなければ、それなりに稼げるし、試合を観る方としては面白いかもしれない。
進行役の男が変わった。先程出入口に立っていた派手な服の男だ。流暢な言葉で口上を語り、未だ不敗の男を紹介した。
「本日最後の試合となりました。連勝記録を伸ばしております、謎の男。伝説の剣士、ガガルを葬った鉄仮面の戦士の登場です!」
登場口の鉄柵が上がって、高い壁から男が出てきた。身長が二メートルを超える大男だ。本当に鉄の仮面を付けていて、顔は分からない。上半身は裸で、筋肉質。特に腕まわりが異常に太い。
革製のベルトで携帯した背中の得物は、剣でなく槍でなく。鉄の塊に木製の棒がついた鉄槌だ。
歓声が上がる。
今日一番の盛り上がり。
キースに呼ばれていた。
慌てて隣の彼女に顔を近づける。
「あの男に挑戦する。お前の全額私に賭けろ」
お願い、ではなく命令。
ガガルのことを侮辱されたと感じているのだろう。目つきが鋭い。キースの実戦力はルコスで見た。あの大男に負けるとは思わなかった。
「分かりました」
断る理由もなく、手続きをするために係員を探す。
帰ってきてすぐ、またキースに呼ばれた。
「用意して欲しい物がある」
・・・え?
聞いた途端、スミは驚く。
「キース様、まさかそれで対戦するのですか?」
返事の代わりに、のけ反る程の殺気が押し寄せた。
「その首飾りと交換してこい」
急げよ。
はい!
スミは走った。
今まで感じたことのない威圧感。強制されることに反抗心など無い。むしろ嬉しいくらい。キースには、剣術だけでなく、人を従わせる特別な力があるのかもしれない。
「魔力を使う?」
クラナが問う。
「いや。あの程度の男に必要ない」
両腰の刀を革製のベルトから外して、クラナに渡す。
「え、なになに。 刀使わないの?」
立ち上がるキース。見上げるクラナ。
「あの男には、相応しい得物がある」
笑みを浮かべる。
背中の悪寒と顔の火照りが同時にやって来た。
「格好良すぎ。惚れ直しちゃった」
恍惚とするクラナ。
今すぐにでも抱き締めて、口づけしたい気持ちを、必死で抑え込んだ。
大男の対応は特別だった。
対戦は一人でなくてもよく、三人、五人と挑戦した。身体は大きく、使う武器は鉄槌。誰もが思う。動きは鈍く、懐に入れば傷を負わせられる、と。
誤算だった。
鉄仮面の大男は、俊敏に動き回り、鉄槌を剣のごとく振り回した。
鉄槌を受けた者は、高い壁まで飛ばされ、見事なくらい潰れた。
分厚い盾で防ごうとした者がいたが、身体ごと飛ばされ、全く意味が無かった。
大男の膝くらいまで水が入り、引いた時には死体は無い。
「さて、本日の挑戦者は全て終了しました。会場で、彼に挑戦したい方はいませんかー?」
ざわつく会場。
目の前の光景を見て、挑む気力など消え失せていた。
進行役の男に係員が近づいた。何か言葉を交わす。一瞬笑顔が消えたが、顔を上げると満面の笑みになった。
「なんと、会場から勇気ある挑戦者が現れましたー!!」
どよめく会場。
呼び出す前に、壁の通路からキースが出てきた。
またどよめく会場。
ドガイの南、レブン地方の民族衣装に似た服。緑色の髪を後ろでひとつに束ねた若い女だった。背も低い。
勝敗の行方より、本当に対戦するのか、という疑問が充満した。
キースは大男を見向きもせず、進行役の男に近づいた。
「私が勝ったら、あの男にかかった掛け金、全額もらう。それでいいな?」
この小娘は本気で言っているのか。
内では冷めた顔だが、表は笑顔のままだ。
「もちろんです。そういう決まりですから」
ですが・・・
小娘は武器を持っていなかった。
笑みを浮かべるキース。
何故か背筋が寒くなる進行役の男。
「心配ない。あの男にふさわしい得物を用意する」
振り返った。
「キース様!」
ほぼ同時に、会場に戻ったスミが叫んだ。手には布にくるまれた細長い物がある。
円形競技場の端から端へ。
スミの真下で立ち止まった。
「あのぅ、本当にこれで戦うのですか?」
「負けると思うか?」
逆にキースから問われる。
「いいえ。何故か微塵も思いません」
根拠はない。
キースが勝つ、という確信はある。
布を開き、壁から身を乗り出してそれを下ろす。受け取る。暫く眺めて、何度か振ってみる。
「良い目をしているな。丁度いい」
最高の誉め言葉。
キースの手にある得物は木刀だった。
鉄仮面の大男に歩み寄る。適度な距離で立ち止まり、初めて彼を見る。
「いつでもいいぞ。かかってこい」
キースが言った。
大男は鉄槌を床に叩きつけた。
水しぶきがあがる。
「おい、クソ餓鬼。なめてるのか?」
言葉に怒りが混じっている。
キースは動じない。
「ガガルを倒した実力を見せてみろ」
それとも、ただのはったりか?
大男は鉄槌を振り上げた。
「俺は女だからって手加減しないぞ」
飛び出した。
身体に似合わぬ素早さ。
横殴りの鉄槌を横移動してかわす。
なるほど。
薄く水が張っているので分からないが、床には苔のようなものがあって、足の踏ん張りが効かない。
大男が目の前にいる。
真上から鉄槌を振り下ろす。地鳴りがする程の衝撃。
ぎりぎりでかわし、木刀で腕を叩く。
身体ごとぶつかりにきた。
片足を支点にして回転する。大男の背後から膝の裏側を叩く。虫に刺された程度のもの。
横殴りの鉄槌。
摺り足で後退。目の前を鉄槌が通過して、風圧がキースの髪を揺らす。
「相変わらず《《》》力任せな攻撃だな」
キースが言った。
大男は特殊な靴を履いているのだろう。踏ん張っても苔で滑ったりしない。
キースの動きは良く見えている。だが、振り回す鉄槌はかすりもしない。
大男は鉄槌を振り上げた。
キースは素早く前進して、木刀を突き下ろした。
大男の足先。右足の指が数本潰れた。
呻く。
少し前かがみになった。
ゆっくり回転して、首の後ろを叩く。よろけたが手は出さない。間合いをとる。
「鉄の仮面は何のためだ?」
問う。
「クソ餓鬼にやられた額の傷を隠すためか?」
コイツはさっきから何を言っている?
十分に腰の入ったひと振り。軽くかわされ、腕が伸びきったところで手の指を叩かれる。木刀でもかなり痛い。
記憶は薄れていたが、痛みには覚えがあった。
五年程前。
ガガルがドレイドにいるという噂を聞き、西国から赴いた。特殊な結界があったが、効果を弱める方法を知っていた。
小さな集落にガガルはいた。
対戦を申し込んだが、木刀を持った餓鬼に邪魔された。
相変わらず・・・
額の傷・・・
大男の動きが急に止まった。
「おおお、お前!!」
キースを指差す手が震えた。
「まま、まさか。あの時の餓鬼か!」
目の前のクソ餓鬼は笑みを浮かべていた。
「さあ、ガガルを倒した実力、早く見せてみろ」
知っている。
この女は真実を知っている。
当たり前だ。ガガルと戦う前に、コイツにやられたのだから。
血の気が引く。
まさかこんな所で再会するとは。
気持ちが折れそうになるが、歯を食いしばって留める。
これは最悪ではなく好機だ。この餓鬼を葬れば、忌まわしい過去が払拭出来る。
ガガルを倒した、という嘘を知る者はいなくなる。大丈夫だ。あの頃より動けるし、もっと早く鉄槌を振り回せる。
大男は腕に力を込めた。
「ガガルの剣術の基本は単純だ」
姿勢と集中力。
気迫のこもったひと振り。
遠心力で加速した鉄の塊。キースは木刀で受ける。まともに受ければ木刀は折れる。軽く当てるだけ。ほんの少し力を加えるだけで、鉄槌の軌道が変わる。
衝撃と水しぶき。
大男の姿勢が崩れて前かがみになる。
キースは片足を軸に回転。首の後ろ、膝の裏側、背中も叩く。
致命傷になる攻撃はしない。
踏み出した足を踏ん張り、鉄槌を横に振る。
二歩後退しただけ。
あと少し届かない。
力任せに鉄槌を止めて、横殴り。振り抜いた先にキースはいない。伸びきった腕のすぐ横、木刀で手の甲を叩く。
間合いをとる。
「どんな姿勢でも、軸を通し、集中して、一撃を繰り出す」
大男が突進してきた。
鉄槌を振り上げる。同時に大男の懐に入る。踏み出した足を突く。一瞬だけ力を込めて、足の指を潰す。
呻く大男。
踏ん張りが効かず、前のめりになる。
キースはその場で回転。遠心力を加えた木刀で喉元を叩く。 鈍い音。鉄槌を杖に、倒れかけた身体を支える。
キースの振り上げた木刀が足首に落とされる。何かが切れる音。
呼吸困難と激しい痛みで膝をつく。
横振りの木刀が大男の後頭部へ。振り抜く。鉄仮面が飛び、大男はそのまま倒れた。
動かない。
死んではいないが、戦える状態でないのは明らかだ。
「ガルじいは、今の私より強かった。倒したなんて言葉、次に使ったら殺すからな」
木刀を振り下ろす。
鉄槌の柄と木刀が見事に折れた。
大男の顔を見るキース。
数年前、自分が木刀でつけた傷が大男の額に残っていた。
歓声はない。
静まりかえった会場。衝撃が強すぎて声が出ない。進行役の男も驚いた顔のまま、身動きしていない。
気がつくと、キースは競技場から去っていた。
「負けるとは思っていませんでしたが、木刀一本で倒してしまうとは。折れないように力を加減してこの結果。凄いです。キース様、感動です。惚れ直しました」
同意を求めて、隣のクラナを見るスミ。
睨まれていた。
「駄目だからね。キースはあげないから」
勘違いされている。
慌てて首を振る。
「違います。誤解です。私はキース様の剣術に感動して、惚れ直したのです。そういう意味ではありません!」
口ではそう言ったが、正直不思議な感情が沸いていた。女同士の好き、とは違うもっと欲情的な気持ち。
「キースを迎えに行くよ」
クラナが言った。
立ち去る彼女を急いで追いかける。
通路の階段を上がっていると、クラナが待っていた。
「あげないからね」
念を押された。
十六才の少女が鉄仮面の大男に勝つなど、誰が予想しただろうか。
スミが番号札を持って、交換所に立っていた。傍らで待つキースとクラナ。通りすぎる観客は、視線は浴びせるがキースに近づこうとしない。好奇心より恐怖が勝っているからだ。
ここでは強い者が絶対。何をしても許される。キースの強さは人を寄せ付けないものだった。強者には服従するしかない。穏やかな日常になってきても、過去の惨状が根強く人の心に残っている。
それほど国は荒れていた。
スミが帰ってきた。何だか浮かない顔だ。
「どうしたの?」
クラナが問う。
「はい。全額総取りだと思っていたのですが、もう一組キース様に賭けた方がいたようで・・・」
いつからそこにいたのか。
キースが振り返ると、若い男女が近くに立っていた。
「久しぶりだな、キース」
男は言った。
キースは平然としているが、クラナは身構えて警戒していた。
スミは首を傾げる。
キース様の、お知り合い?
一年近く前、ルコスの『武闘会』で対戦した男とその妹。
ウラとサラが立っていた。
良い店を知っている、と案内されてやって来た。裏路地の小さな酒場だが、元兵士もならず者もいない。地元民しか知らないような落ち着いた店だった。
店主とウラたちは知り合いのようで、注文せずとも酒と料理が運ばれてきた。
「まずは再会に乾杯」
ジョッキを上げるウラ。
全員がジョッキを当てる。
武闘会の勝利にもう一度乾杯。
ウラはジョッキを飲み干し、店員を呼んだ。
「お前に会ったら言おうと思っていた」
ウラが言った。
ありがとう。
テーブルに両手をつき、頭を下げた。
「お前のお陰で俺は生きている。お前のお陰でサラが生きている。本当に感謝の気持ちしかない。ありがとう、キース」
武闘会の決勝戦。キース対ウラ。生死を賭ける程の熱戦と高揚感。目的は剣術の師匠を殺したザギへの復讐。
それを忘れるほど、キースとの対戦は心踊った。
邪魔をしたのは師匠の仇、ザギだった。
倒せる自信はあったが、全く歯が立たなかった。背中を刺され重傷。妹のサラも瀕死状態だった。
その時、キースの迅速な対応で、二人は死なずに済んだ。
スミは思い出す。
そう言えば、兄妹で凄腕の剣士が『武闘会』に出ていた。兄は短剣に長い柄を付けたナギナタ《《》》、妹は細身の直刀剣。大陸中部では珍しい東よりの剣術。
確か決勝戦でキース様と対戦していたはずだけど、結果はどうだったか。
何故かそこからの記憶が欠落している。
「まあ、あれよ。大陸で一番の剣士は兄様ですけど、あなたは特別に一番にしてあげるわ」
兄を血縁以上の感情で慕うサラが、キースに対して言った。
彼女なりの感謝の言葉。
ウラが言った通り、そこは良い店だった。酒も料理も美味しく、雰囲気も最高だった。
「ドガイは俺たちの故郷だ。大抵の事は知っている。何でも聞いてくれ。役に立つことがあると思う」
ウラが言った。
「フィニカに行きたいのだが、出来るだけ最短で行く方法はないか?」
キースの問いに、ウラは少し驚いた顔をした。
フィニカは遺跡と岩山と荒れ地。人が定住出来る環境ではない。移動民族が少数いるらしいが、把握している者はいない。
「そこに何かあるのか?」
ウラが問う。
スミとクラナは食べることに夢中だ。
ウラは一度剣を交えただけだが、信頼出来ると思った。
「生きている人と変わらない人形を作る者が、遺跡にいるらしい。そいつを倒しに行く」
ほう、とウラ。
サラを見る。答えはいつも同じ。ウラの決めた事にサラは従うだけ。
サラは頷いた。
「面白そうだな」
ウラが言った。
「もしお前がよければ、俺たちにも手伝わせてもらえないか?」
命を救ってもらった恩がある。借りを返す好機だと思った。
キースは何か考えている様子だった。
すぐに察する。
「ザギに刺された傷はもう完治している。自分で言うのも何だが、剣術の腕も上がっている。まあ、お前程ではないが。少しは役に立てると思う」
「どんな奴か、何が待っているか。未知な部分が多い。命の保証は出来ない」
キースが言った。
微笑むウラ。
「望むところだ。そんな楽しい旅なら、是非参加したい」
戦うことにこの上ない喜びを感じる。戦闘民族の血を引く宿命、みたいなもの。強者を求め、自身の向上を計る。
キースは手を差し出した。
握手する。
「心強い。よろしく頼む」
「こちらこそ。足を引っ張らないよう精進する」
仲間が増えた。
旅の準備に一日欲しいと言われ、出発は明後日の朝となった。
翌日。
スミが、一日あるなら行きたい場所がある、と言った。このクドに、サリュゲンの元弟子が刀鍛冶をしているらしい。キースも興味があるので同伴することにした。
クラナはキースと甘い時間を過ごしたかったようで、渋い顔をしたが、結局ついて行くことにした。
大きな欠伸をするスミ。
「よく眠れなかったのか?」
キースが問う。
苦笑するスミ。
女三人だし、同室でよいと思って宿を取ったが、とんだ誤算だった。
二つの寝具で、スミはひとりで、キースとクラナは一緒に寝ていた。
まあ、姉妹みたいに仲良しなので、何も思わなかったのだが、夜遅くまで二人の寝る方から聞こえる声が、スミの寝不足の原因となった。
本当に友人以上の関係なんだと確信した。
何だかこっちまで変な気分になって、二人の行為が終わっても、興奮して寝つけなかった。
キース様が相手なら、それも有りだと思う自分が、ちょっと怖かった。
「大丈夫です」
言いたい事はあったが、その一言だけ返した。
恥ずかしそうに、すまない、とキースが小声で言った。その顔が堪らなく可愛らしかった。
昨日旅費を盗まれた通りを横切り、人通りの少ない道を進む。宿屋の店主に聞いた道筋。公共の水源地がある広場。地下から汲み上げているらしく、井戸が二つあった。その広場を越えてすぐ、鉄を叩く音が聞こえてきた。
若い女が三人、こちらを見ながら近づいてきた。
ファロイは作業の手を止める。
肌の浅黒い女があいさつした。どうやらサリュゲンの弟子らしい。彼から見れば弟弟子、いやこの場合は妹弟子と言うのか。
後ろの二人は。
ひとりは細身の病弱そうな女。魔法使いらしい。
もうひとりは・・・!!
ファロイは立ち上がる。
昨日鉄仮面の男を木刀で倒した女剣士だ。
彼は昨日の『武闘会』の会場にいた。
近くで見ると、本当に小柄で、少女なのに妖艶な美しさを感じる。
この容姿であの強さ。
もし神が存在するなら言いたい。
不公平過ぎる、と。
「キース様は、あの伝説の剣士ガガル様の最後の弟子です」
スミが言った。
また驚く。
彼女の腰にある刀を見て、さらに驚く。
「ちょっと見てもいいかい?」
ガガルの使っていた刀。
刀鍛冶なら絶対見たくなる逸品。
キースは腰から抜いて手渡してくれた。
「おおおぉぉ」
言葉が出ない。
全体が艶の無い黒塗りで、鍔の彫りもそれ程凝ったものではない。なのに何だ、この存在感は。
抜いてみる。
本当にこれが五十年以上前のものなのか。手入れは良くされている。今の持ち主のキースが良い剣士だという証拠。それよりも、この見事な曲線と波紋の美しさよ。
名工と呼ばれる者の技術の高さ。神業とはまさにこの事。
ガガルの刀を返す。
キースの腰にはもうひと振りの刀がある。
ひと目で師匠の作だと分かる。
相変わらずの 偏屈者。刀身の美しさより機能を大事にする。
紅の鞘に金色の模様なんて、目立ち過ぎだろ。
「刀剣を見てもいいですか?」
スミが言った。
「勝手に見ればいい」
ありがとうごさいます。
注文を受けた刀剣が陳列してある棚に向かう。
眩しいくらい目が輝いていた。
若いな。
師匠が認めたのなら、才能があるのだろう。しかし、何故ここにいる?
振り返るとキースと目が合った。
思わず目をそらすファロイ。
今まで、こんな美しい顔の女を見たことがない。どうしていいか分からず、やりかけの作業に戻る。
スミとキースはファロイの鍛えた刀剣を見ながら、何やら話している。細身の魔法使いは、近くの椅子に座ってつまらなそうにしている。
昨日の対戦を見て、気になったことがあった。聞いてみたいが、話しかけるきっかけがない。そんな事を考えていると、キースが声をかけてきた。
「小刀が多いですね」
作業を止める。
「長刀は苦手でね。俺は小刀専門だ。ま、注文があれば、それなりに作るがな」
今なら聞けるか。
「あんた、何で二刀流じゃないんだ?」
不思議そうな顔をするキース。
「俺は師匠ほどの刀は作れないが、剣士の技量や性質は、見れば大体分かる」
勇気を出して、キースと目を合わせる。
「昨日の試合を見て思ったんだが、あんたの動きと太刀筋が釣り合っていない」
体術得意だろ?
ファロイの問いに、少し考え、うなずくキース。
「せっかく鋭敏に動けるのに、長刀ではそれを活かせない」
「そんな事。考えたことはありませんでした」
「今でも十分強い。でも、戦法の選択肢があっていいと、俺は思うがな」
腰の刀に触れるキース。
「その二本じゃあ、二刀流は無理だ。刀の性質、ていうか用途が違い過ぎる。同じ性質の刀じゃないと」
「例えば、これなんかどうですか?」
すぐ側にスミがいた。
小刀を二本持っている。ファロイがキースに見せようと思っていた刀だった。
何だ、コイツは。
妹弟子だが、ちょっとムカついた。
キースがスミから手渡された小刀は、注文品ではなく、客寄せのために鍛えたもの。持てる技術を全て注ぎ込んだ。仕上がりには自信がある。
刀身はキースの頭くらいの長さ。両刃の直刀。光の当て加減で、刀身が青くなるのは、刃の強度を高めるために、異なる鉄を加えているからだ。柄はまだ付けておらず、荒縄を巻いているだけ。
「この奥に試し斬りできる裏庭があります。そこで試してみたらどうですか?」
言い終えて、ファロイが怒っているのに気付き、
「・・・と思いますが、ファロイ兄さん、いかがでしょうか?」
と、言葉を足す。
嘆息するファロイ。
俺は師匠と反りが合わず、修行半ばでここに逃げたが、この子は合いそうだな。
キースが俺を見ている。
返事を待ってるのか。
「構わんよ」
スミが我が家のようにキースを導く。
俺も興味があるので、作業を止めて後を追う。
「深呼吸しておいたほうがいいよ」
後ろにいるクラナが言った。
「どういう意味だ?」
問うファロイ。
クラナは答えず、笑顔を返した。
死ぬかと思った。
思いっきり呼吸する。
息する事を忘れるなんて、初めての経験だった。
スミを見て、クラナを見た。虚ろな目をしているが、ちゃんと呼吸している。
「仕方ありません」
スミが言った。
「キース様の剣技を初めて見た方は、みんなそうなるんです」
そうなのか・・・
いやいや、それよりも。
「小刀を使うのは初めてだよ。今まで見たことないし」
クラナが言った。
ファロイはもう一度キースを見た。
最初は普通だった。刀の感触を確かめるように、ゆっくり、縦に横に、軽く振っていた。
軽く振っただけなのに、試し斬り用の藁が斬れる。
あんな軽く振っただけで、斬れるものなのか?
キースが一度深呼吸した。
動きが変わった。
多分そこから俺は呼吸を忘れた。
円を描くような足さばき。または、地面を強く蹴って滑るように飛ぶ。小刀は腕の一部のように、キースの手の中で踊る。
藁が斬れて、藁をくくっている太い木が斬れた。
実戦さながらの殺気。恐ろしく速い剣速。
昨日の試合なんて、実力を半分も出してないじゃないか!
不思議な感覚。
ああ。あの剣技で斬られてみたい・・・
今度は過呼吸になった。
気がつくと、俺は椅子に座って、スミが背中をさすっていた。近くの水差しを取って、そのまま飲む。
「大丈夫ですか?」
スミが問う。
ファロイは片手を上げる。
キースは小刀を手先でクルクル回してもて遊んでいた。
「私の夢は、キース様が認めてくれる刀を鍛えることです。その勉強のために、いま一緒に旅をしています」
スミが言った。
なるほど。そういうことか。
「あの女剣士の近くにいれば、十年、いや、修行では得られないものがある。よく学ぶことだ」
はい、ありがとうごさいます!
生意気だがどこか憎めない。
俺は逃げたがお前は頑張れ。
キースが近づいてきた。
「良い刀です」
「当たり前だ。俺の自信作だからな」
もう一度、手元の小刀を見つめるキース。
幼児が面白い玩具に出会ったような、キラキラした瞳。
「これを売ってくれませんか?」
キースが言った。
「そんなに気に入ったんなら、あんたにやるよ・・・と、言いたいが、こっちも生活かかってるからな。でもまあ、ちょっと安くしとくよ」
キースが微笑んだ。
何だか、胸のあたりがモゾモゾする。
「少し待ってくれ。装飾は作ってあるんだ」
立ち上がって、小刀の柄を取りに行こうとする。
「これですね」
スミが言った。
手には、ファロイが取ってこようとした小刀の柄がある。
やっぱりコイツ、ムカつく。
早朝。
待ち合わせは、クドの南門前。
門といっても、形式的な簡素なもので、検閲官はいない。
ウラとサラは、既に門の前で待っていた。
「大丈夫なのか?」
ウラに聞かれる。
スミとクラナのことだ。
相手の出方が分からない状況で、二人を守りながら戦うのは、例えキースでも厳しいだろう。
「問題ない」
キースが言った。
彼女がそう言うなら、と納得するウラ。
「フィニカへの最短は、首都のヒズリアを通るのが近い。だが、あそこは検閲が厳しく、特に俺たちみたいな武装した剣士は、なかなか通してくれない」
王族や高官たちが多く住んでいるから。
「なので、東よりの、トナスを通って行こうと思う」
国土は広いが、ほとんどが砂漠の国。
「任せる。よろしく頼む」
キースが言った。
出発だ。
男ひとり、女四人の旅が始まった。
何もなく、順調に進めば、フィニカまで 三日程だ。
しばらくは平原が続く。
ドガイは大陸中央部に比べ、ノマの発生率が少ない。恐らくは、数百年前にプレ・ナが住んでいたフィニカが関係していると思われるが、それを知る者はほとんどいない。
馬は快調に走る。
青い空に地平線。心地好い風。
途中、クラナが馬上で居眠りをして落馬したが、幸い草原なので怪我はなかった。
キースと相乗りを懇願したが、サラが反対した。
「私だって、兄様と相乗りしたいのを我慢してるんです。ずるいですわ」
と、サラに小声で言われた。
クラナとサラ。
案外気が合うかもしれない。
日暮れ前。
初日は何もなく、無事トナスに入国した。
荒れた大地。
その一角に、巨大な岩山がある。大きな地殻変動があったらしく、大地には亀裂があり、起伏があった。
岩には、人の手が作った穴がいくつもあり、中は迷宮のごとく通路が交錯していた。
一番奥に、地下へと続く階段がある。
見事なほど円形の巨大な穴は、どこまでも地下へと向かっている。
その途中。
横へと続く道がある。
そこは現世と常世が繋がっている場所。
プレ・ナが残した技術。
「トナスに来たよ」
女の子の声がした。
小さな黒い塊が動く。禿頭の白い髭を伸ばした小男。
「サロワめ、裏切りおったか」
ここにいることは仲間以外知らない。時期から考えて、サロワだと断定した。
「トナスにはトセイヤがいるが、ロズを倒した女だ。念のためだ。お前も行け」
分かった。
十才くらいの女の子。振り返って走り出す。
「急がねばならんな」
作業に戻る。
小男の目の前には、祭壇のような作りのものがある。石なのか木なのか、何で造られているか分からない。
中央に大きな平板がある。鏡のようだが、光の少ないこの地下で、淡く光っているのは何故だろう。
その横に人形がある。鏡の両脇に二つ。 布のような柔らかい素材だが、それではない。
『聖地』で眠るコンサリと、見覚えのある男の人形。
小男は手元のはめ絵《《》》を必死で合わせる。何万通りもの組み合わせが解けたのは、小男の執念と奇跡。
冥界と繋がった。
特定の魂を、冥界から見つけられるのは、プレ・ナの技術だから。
「よし、成功だ」
小男が言った。
鏡の光が一点に集中して、それが光の筋となって人形と繋がる。
最初は定着に約一日必要だが、二回目はどうだ?
「・・・あれ?」
即可動した。
「僕、生きてる?」
男の言葉を、小男は鼻で笑った。
「お前は始めから死んでる」
男は下を見た。
「あ、カマツだ。久しぶり」
「手足はちゃんと動くか、ロズ?」
小男、カマツに言われ、手足を動かす紅い髪の男、ロズ。
「うんうん。大丈夫みたい」
手のひらを見て首を傾げる。
「魔法陣はない。今のお前は、アイツの魔力を使っていないからな」
へぇ~、そうなんだぁ。
祭壇から飛び降りる。
「で、何でまた呼んだの?」
ロズが問う。
「あの女、キースがここに向かっている。私の護衛をしろ」
ロズの顔が明るくなった。
「キースが来るの?」
嬉しそうだ。
「またキースと戦えるんだ。うわー、楽しみだなぁ」
「魔法は使えん。剣術のみだ」
えー、つまんないよ。
その代わり・・・
ロズの顔がまた明るくなる。
「いいじゃん、それ。気に入った」
コイツとは一生馬が合いそうにない。はしゃぐロズを見ながら思う。
「早く来ないかなぁ」
陽気なロズを放置して、カマツは作業に戻る。
何度失敗しても、これは成功するまでやるしかない。
プレ・ナの魂が定着出来る人形を作ること。
最後の課題。
成功するまで母国には帰れない。
人形は完璧だ。問題は魂の定着。何百年とかけて自分たちの身体を変えてしまったプレ・ナ。そして、プレ・ナの魂は脆く、すぐに自覚が消えてノマへと変貌してしまう。
タイミングが全て。
この定着実験が成功しないと、コンサリの魂を人形に移すことは出来ない。
大陸に渡って二十年。コンサリの人形を作って十年。そろそろ終わりにしたい。
もう少し、もう少しなんだ。何かが掴めそうなんだ。
誰にも邪魔されたくない。
カマツは手元のはめ絵《《》》を、必死で動かした。
遥か東。
海に面した窓。
長くて真っ白な髪をなびかせる妖艶な女性。額には『威』に似た文字が浮かび、目に見えぬ誰かと話をしていた。
「ねえ、最近カマツと連絡取れないけど、放っておいていいの?」
問う。
『心配ないよ。彼は人見知りだからね。人形が成功すれば、向こうから連絡してくるよ。それまで待つさ』
頭の中に響く声に嘆息する。
「呑気ね。サロワは最後に裏切った。カマツも分からないよ」
『もし裏切っても大丈夫。君がいるからね、イリリ』
微笑む女、イリリ。
「あのキースって
声の主が笑った。
『君を倒せないようでは、生きていても仕方ない。いいよ、好きにすればいい』
声の主の気配が消えた。額の文字がゆっくり消えていく。
「このあたしを倒そうなんて、百万年早いわ」
髪をなびかせ、振り返る。
部屋を出て、目の前の護衛の兵士に近づく。
「イリリ様、どうかされました・・・?」
指を一本。兵士の額につける。
頭の後ろから、何かが吹き出した。
兵士は直立したまま後ろ向きに倒れた。
立ち去ろうとして、足を止める。回廊の向こう、中庭から若い男が現れる。
「何人殺せば気が済むんだ?」
嘆息するイリリ。
「コルバン、あたしに護衛はいらない」
何度も言ってるでしょ。
「一応決まりだからな。お前は大事な官僚のひとりだ」
中庭に入って、若い男、コルバンに近づく。
「さっさと戦争を始めましょうよ。早く人の血を全身に浴びたいわ」
「そのための準備をしている。もう少し待て」
コルバンを睨むイリリ。
「なんなら、あの二人を殺してきてもいいのよ」
本気だ。
「メラスとファウザか。あの二人は私が何とかする。それなりに利用価値がある」
何度も聞いた言葉。
イリリは振り返って、回廊へ戻った。
「たまには会議に出席しろ」
彼女の返事はなかった。
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