第5話 結合

           万            謝

 最初に、畏くも愚生の素体及び知能素子を御製造あそばされた一般社団法人 生物重工業並びに同法人を包含する人類社会全体に万謝を示さねばなるまい。また、ここに記載せらるる報告及び我が愚見は、いずれも人類種に対して外挿が可能だと解されてはならず、その叡慮を犯し、創造主たる人類に不敬を働くことが目的でないことをここに宣言する。


           緒            言

 可移植性性器肉腫とは、性行為により他の感受性固体に感染する特殊な悪性腫瘍である。かつては、人類の愛玩動物であったある種の動物――イヌと呼ばれる――のみに認められた性病であるが、近年、人類及び我々アンドロイドの中にも感受性固体がいることが明らかになり、社会問題となっている。

 病態はその名が示すとおり、性器に生じる肉腫が顕著であり、罹患者が性行為又は排泄行為を行う折に発見することが多い。元来の保持者であったイヌにおいては自身の生殖器を舐める性質があったために、肉腫が性器から口腔粘膜、鼻腔粘膜、皮膚等に伝播する自家感染が生じていた。

 ここで興味深いのは、人類の中でも可移植性性器肉腫を口腔や皮膚に発症あそばされる玉体が多いことである。我らが創造主たる人類がなぜ畜生と類似した病態を発現するのかについては後続の研究が解明することを期待する。

 今回著者はアンドロイドに生じた性器肉腫の継代を続け、その病害、感染経路、細胞由来について一定の知見を得たので報告する。


           材  料  及  び  方  法       

 アンドロイド:研究に用いたアンドロイドは全て屋外から著者が調達してきたものである。それらのロット、製造年数、製造場所、知能素子、活動場所等に偏りが無いよう調節した。研究用アンドロイドは屋外で偶発的に他の罹患者と接触するリスクを排除するため、個別にケージ内で飼育を行った。肉腫感染の2週間前より健康観察を開始し、臨床症状を示さず、かつ精神の恒常な個体を選別し、肉腫感染の1週間前に外部生殖器デバイスの接続を行った。

 外部生殖器デバイス:本邦ではアンドロイド用の外部生殖器デバイスの販売が禁止されているため、アメリカ合衆国より輸入したものを用いた。製造元はCarnoCooling株式会社で、同ロットにおける動作不良、GMP基準書上の不備はない。受け入れ時には疑似陰茎や陰唇といった、肉腫が好発する部位の拭き取り検査を実施し、輸入過程での汚染が無いか評価を行った。

 肉腫:使用した肉腫は、人類に対する不敬罪の咎で廃棄処分が決定されたアンドロイドから見出されたものである。廃棄処分時に著者がその外部生殖器組織を採材し、著者の外部生殖器で継代・維持し、肉腫株として樹立した。

 外部生殖器デバイスの接続:研究用アンドロイドの外陰部にはデバイス接続用の神経ポートが敷設されていなかったため、本研究では不要となる脚部を切除し、腓骨神経ケーブルを代用することとした。この腓骨神経ケーブルを、表皮及び真皮を剥離した外陰部に移植し、その断端とデバイスの機能素子を接続した。なお、接続5日後(肉腫感染2日前)に各アンドロイドの外陰部を観察し、デバイスが固着しなかったもの、あるいは固着が不完全だったものは研究不適合として処分した。

 肉腫の感染:継代62代目の肉腫を著者の生殖器からアンドロイドの生殖器に感染させた。感染経路は皮下注射と直接接触、機械器具類を介した間接接触である。感染部位に陰茎や陰唇表皮を選択し、1部位あたり10万個の肉腫細胞を皮下に注射した。

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