Beni aka

彼に会ってから、どうやら僕の心は落ち着かなくなってしまったようだ。


 勉学には支障が出るわ、暇があれば同じ空を見上げることで繋がっていようとするわ、我ながら拘泥しているのが少し面白い。

 もう駄目だなと思ったのが、寒くて白い部屋の中だった。

 冷たい陶磁器のような肌の質感に指先を触れさせる、表面を撫でるように、人差し指と中指がいやらしく往復する。あぁ、彼の腕は冷たくざらついていた、何度か指先を滑らせ、やがて優しく陵辱するように囁く。

 ――こんなものではない!

 切り刻む、何も出やしなかった、それもそうだ、魂と一緒でこの人形からは血も心も抜け落ちているのだから。まるで蝋人形であった、死体は沙石のようにバラバラになって、後は消えていくだけだ。


 中紅色の髪、藍白の肌、僕が陶酔し、彼を際立たせているとしても、彼の存在は確かにあったものであり、数ヶ月前の、あの女みたいにこの世になかったものではない。


 机の上のものがバラバラと床に落ちた、それは僕の腕が暴れるからで、引っ掻いて、机を平らな状態に戻すかのように道具を全て弾いた。頭を抱える、どうやら普通ではないらしい、笑える、だって会いたいのだ、あんなに好きだった彼と離れて数ヶ月、もう会えないだなんて耐えられない。

 くだらない仲間とのやり取りにうんざりしているように、早く決断しなければ、僕はだめになってしまうかもしれない。

 記憶が錆びつく前に会いに行こう。

 会いに行けばいいのだ。

 そう思うだけで幸せになれた、赤い色は出ないけれど、切り刻んだ腕にもう一度刃物を入れた。

 さっきはごめんね。笑えていた、単純だ。

 笑顔の顔の僕の中で、死体は解体された。



 こんにちは。

 生きたまま皮を剥がれると噂される、黒い屋敷へようこそ。

 赤い髪の男性が僕を取り囲んだ、こんなところへ来て何用だい? ただの学生で、喧嘩も弱そうだし、こんな儚そうな顔だ、舐められたって仕方ない。だって僕は、舐められる為にこの姿で居るのだから、術中に嵌っているのは既に目の前の彼らなのだ。


「――という特徴の、彼を知りませんか?」


 困ったように、悲しそうな表情をしてみせると、ほら、何の危害も加えなさそうなひよっこが人探しをしているなんて風に、彼らは相談し始めた。


「ああそれなら――」


 該当した。

 そう気付かされた瞬間、僕は少々恥ずかしいことに

 いきかけたのだ。



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