第10話

止まない雨はない。

明けない夜はない。

覚めない夢はない。


◆◇◆◇◆


「この世界がわたしの創造物である以上、夢である以上、わたしは目覚めなければなりません。覚めない夢などないのですから。わたしは本来の世界で王子様のキスを待っているのです。だから、あなたがわたしにどんな感情を抱いていようと、王子様の役割を果たすのは、決して、あなたではない。起きて一時間もすれば、その日に見た夢の内容をきれいさっぱり忘れているように、きっと目を覚ましたわたしは、このKAIのことなど存在すら覚えていないでしょう。そんなものです。わたしにとって、あなた含めKAIはその程度の価値でしかない」

 女良がわたしに好意を抱いていることは知っている。だが、根本的にわたしと女良はその存在概念を違えているのだ。間違いなど起こるはずもなく、ただ、そこにはわたしが女良に好かれているという、単純な事実があるのみだった。

女良は顔を伏せている。彼の表情は見えない。

「わたしは、今夜目覚めます。ここではなく、リブヌの外にある本物の世界で。そのために、あなたにお願いしたいことがあります」

 いい加減、夢から覚めるときなのだ。覚めて、醒めて、冷めるべきなのだ。でなければ、この世界の誰かが心に傷を負うのは明白なのだから。

「わたしが完全にこの夢を忘れ去るまでは、KAIもかろうじて存続します。夢の欠片、残滓のようなものでしょうか。残された寿命は、この世界で十年から三十年といったところでしょう。それまでは、KAIが滅ぶ時までは、わたしはあなたに精一杯生きて欲しいのです」

 だから、目覚める直前に、最後の最後にわたしは世界を変革しよう。

 夢よ、愛よ、熱よ。みんなまとめてさめてしまえ。


◆◇◆◇◆


覚めない夢はない。

醒めない愛はない。

冷めない熱はない。

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