第8話

「ま、待ってください! じゃあ何ですか、結城さんは、この世界があなたによって作られたとでも言うんですか?」

「そう言ったつもりですが?」

 ある程度予想はしていたことだったが、女良は今さっきわたしの説明したことを、まだ完全に信じられてはいないようだった。わたしとてその事実は納得するに値するものだったけれど、どこか当初は違和感を拭えなかったのもまた事実だ。無理もない。彼に考える時間を与えるため、少し待つ。TVでは、未だに阪神淡路大震災についての特集が流れていた。

 わたしは、考え込んでいるのか何やら小さな声で呟いている女良を見る。彼はこの山奥に住む大学生で、たまにここまでやって来てはわたしに講義の真似事をさせる、そんな好奇心旺盛な若者だ。面と向かって直接会話をする相手といえば女良くらいしかいない最近のわたしにとって、女良はわたしという神様が触れるただ一人の人間ということになる。扱いとしては天使のようなものだろうか。

「……仮に結城さんの言ったことが本当だったとして、いつそのことに気づいたんですか?」

 女良はようやく口を開いた。まだ口調はいつも通りとはいかないようで、声が薄い。

「三年前くらいですかね。当時は何の証拠もない、ただの思考実験の結果に過ぎませんでしたが。それから色々と実験をして、少しずつ確かめていきました。――かの阪神淡路大震災、あれを引き起こした原因がわたしであるとしたら、どうしますか?」

 簡単なことだ。わたしが一月十七日に関西で地震が起きると思い込めば、世界はそうあるように変革する。

「は……?」

 女良の開いた口がさらに大きくなる。徐々に、女良から表情が消えていった。

「どうして……」

 女良の震える声には、何故だかは分からないが困惑と混乱が含まれているように感じた。

 わたしは、わざと冷たく聞こえるように答えた。

「わたしが自分で作った人間を殺して、何が悪いのです?」

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