第2話

「いらっしゃい。どうぞ、適当にくつろいでください」

 インターホンに応えて来客の男を出迎える。随分と身だしなみに頓着しない人のようだった。髪はぼさぼさで髭も伸び、服装もだらしない。忙しい仕事柄、そういった時間が上手く確保できないのだろうか。

 リビングへ男を通す。わたしは一旦ダイニングへと行き、飲み物などを用意してリビングへと戻り、彼の向かいに座った。つけっぱなしのテレビからは震災のニュースが流れている。相当な死者が出たそうだが、群馬の山奥では全く関係のない出来事だった。

 この場では一応わたしがホストということもあって、しかたなくわたしから話を切り出すことにした。

「静かな所でしょう。周りには何もありませんから」

「ええ。時代から切り離されている感じがします。いえ、決して悪い意味ではなくて、技術の進歩という波に乗るでもなく、抗うでもなく、ただ悠然とそこにあるというのが、何だかとても素敵です」

 だから、ここが田舎だとか、決してそういう意味じゃないですと、男は手を顔の前で振って否定してみせる。生真面目そうな姿は実に好感が持てた。

「確かに最近の技術の進歩には目覚ましいものがあります。知っていますか? アポロ十一号に搭載されていたコンピュータは、実はファミコンという家庭ゲーム機の性能以下なんだそうです」

「ファミコン?」

 わたしが話題を提供しようと話を振ると、男は首を傾げた。ゲームには詳しくないのだろうか。失敗した。

「でもまあ何にせよ、いずれはこの技術発達も速度を緩めていくでしょう。私見になりますが、これらの進歩の一翼を担う半導体技術は、もう限界が見えつつあります。おそらくあと四、五十年のうちには行き着く所まで辿り着いて、そして停滞を始めていると思います」

 確かこの前は、人工知能がボードゲームで人間に勝負をするという挑戦が注目を集めていた。随分と滑稽な挑戦である。知能とは、自分から相手に向かって勝負をしようと自発的に行動を起こして、はじめて知能と呼ばれるのだ。人間にお膳立てされて勝負をするだけのソフトなど、それはただの機械でしかない。

 ――と、話が逸れすぎてしまった。わたしは小さく咳払いをして、男に尋ねる。

「それで、この研究所に何の用で?」

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