聖霊の顕現した人間が力を得て勇者となり魔族との戦いから人類を守っているこの世界……。
少女エリスは勇者となった両親と幼馴染を魔族との戦いで失っている。幼い頃は就寝前に母から読んでもらう勇者物語が大好きだった彼女だが、今では聖霊も勇者も忌むべき存在。
そんな彼女の元にもある日聖霊が現れた。
望むと望まざるに関わらず顕現する聖霊はあたかも召集令状のよう。エリスと祖父母の間で交わされる会話は、いわゆる出征前のそれだ。
エリスの心情を描写する文章は、彼女の葛藤と苛立ちを表しているかのごとく過剰なまでに執拗で、多少読むのにパワーが必要だが、それを乗り越えて後半に入ると世界はガラリと変わる。
アニメか漫画のように痛快な描写に切り替わった文章からは、勇者となったことを受け入れ、与えられた力に多少なりともワクワクしている少女の心が伝わってくる。
聖霊から力を得る勇者の物語は数多くあるが、この物語の聖霊と勇者の関係は新鮮で興味深い。
そして多少我慢してでも前半を乗り切り、世界観のガラリと変わる後半まで読み進めれば、この物語を読んで間違いはなかったと思えるはず。
たまにはとっつきにくいファンタジーがあってもいいじゃない。後半はちょっと近未来戦闘SFものみたいな要素まであるんだから乞うご期待ですよ!
あ、プロローグで母がエリスに読み聞かせる「絵本」が、とても絵本とは思えない難しい言葉のオンパレードなのは、世界観の説明を兼ねたためのご愛嬌、かな?