火山噴火予知連
地下深くに潜むマグマ。
活火山であれば、マグマがたまり続ける限り、いつかは噴火し黒煙をあげ、まわりのものを溶岩流や土石流で押しながす日が来る。
つねに煙をあげている火山よりも、普段はおとなしい火山の方が、噴火した時のまわりへのダメージは大きい。
マグマは地中深くで、何かのきっかけを与えられるのを待っているのかもしれないのだ。
『火山噴火予知連』
それは、奥深く眠るマグマの動向を、できる限りチェックし、危険が迫ると、その近くにいる人に、避難勧告を出す組織である。
これは、知られざる火山噴火予知連を、予知から噴火までを、克明に記録したドキュメンタリーである。
予知連本部。
「鹿児島観測所から入電。E6050火山が、噴火の予兆を示したそうです」
噴火の頻度によって、AからFまでランク付けされている。DからFまでの火山は、回数は少ないが、噴火した時の規模は大きい。
「潜在マグマ量76054。ストレス指数98」
「なぜ、ストレス指数が98になるまで放っておいたんだ?」
「今までがあまりにも静かだったもので。異常が観測されたのは、ちょうど一時間前、民間人の報告によるものだそうです」
「マグマ量76054なんて、そのすべてが噴火したら、まわりのものはひとたまりもない。すぐに噴火時刻を予測し、予測でき次第該当区域付近の住民に避難勧告を」
「わかりました」
噴火予測員が、鹿児島の地図を中央画面に表示させる。映ったのは、鹿児島市の中央付近だった。
「予想通り市街地中心部か。あそこには、EからFランクの火山が、人知れずにたくさんあるからな。GPS使用。E6050の場所を特定しろ」
地図は一度縮小されてから、一気に拡大された。その中心には、赤い三角印がある。赤は明滅し、その火山のストレス指数が80を超えていることを示している。
「過去の噴火データを表示しろ」
「知りうる限り過去には、噴火のデータはありません」
「これに似たような火山のケースと比較し、歴史的条件と地理的条件を加味して、噴火条件の予測をたてろ」
予測員は、手元の機器を操作する。
「分析完了しました。噴火条件は外的要因です。歴史的条件、地理的条件、ともにA4373と酷似しています」
「そのデータと、典型的Eランク火山の過去の噴火時間、地区の天候を利用し、噴火予想時間をたてろ」
予測員は指示に従って機器を操作する。画面には、青や黄色のグラフが乱舞し、デジタル表示の数字が目まぐるしく回転している。
「予測完了。あと五分後に噴火します。規模はレベル5」
レベル5とは、もし誰も避難しなければ、その噴火による死傷者が1000人をこえるということを示している。
「E6050の半径1キロにいるすべての住民の、全情報端末に回線をつなげ」
「了解」
連絡員がすべてのプロバイダーに回線を開かせた。
「OKです。どうぞ」
「この通信が聞こえた全住民に告ぐ。今から3分以内に、今あなた方に送った場所の火山から離れて下さい。規模はレベル5です。火山予知連が勧告します」
本部長の言った言葉は、電波、電気信号、光、音波となって付近住民の情報端末に届いた。画面に現われている鹿児島市の、住民をあらわす青い輝点が赤い三角印から、蜘蛛の子を散らすように離れていった。
鹿児島市。
一人の男が、予知された場所にいた。
彼は温和な人物で、今まで前科もなかった。
しかし、今日はあまりにも理不尽な出来事のせいで、気持ちが乱れていた。その理不尽さは、どんな言語でも表せないものだった。
彼は、まわりの人が次々と逃げていくのを不思議がった。彼の端末には、勧告は表示されていなかった。
一人の顔の黒い女が、彼の事を指をさしながら逃げていったのが引き金だった。
彼は今日の草野球に使ったバットで、その女を殴り殺した。血が飛び散る中、次の獲物を探したが、まわりには、誰もいなかった。
彼の怒りは行き場をなくして消滅した。
.
「噴火しました。死傷者は一人です」
「良かった。予知は当たったな」
『火山噴火予知連』
それは、キレる若者を予測する組織である。
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7/16/2000
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