一等賞

 私の家には、大量のトロフィーがある。


 もう、置き場所に困るくらいだ。賞状もたくさん持っている。ついこのあいだ買ったバインダーが、もう一杯になってしまった。


 いやあ、別に自慢したいわけじゃないんだけど、もう一枚、賞を取りたいからさ。


 え?何で取るかって? そりゃあ、この文章を書いて応募するのさ。この文章はすばらしいだろ? といっても、まだちょっとしか書いてないけどね。


 思えばいろいろな賞を取ったなあ。


 小学校の時なんて、毎日もらってたよ。『給食を残さず食べたで賞』とか、『元気一杯で賞』とか。まあ、たいしたことないんだけどね。一番嬉しかったのは、『怠けずに学校に通ったで賞』かな? あれをもらうためには、小学校を精勤しなければならないんだから。


 え?精勤という言葉を知らないの?


 私の学校でいう精勤っていうのは、なんと六年間で百日しか休まなかった人に贈られるんだ。


 すごいでしょ?


 ふつうの学校の精勤賞っていったら、六年間で二百日まで対象になるのにさ。


 その半分だよ?


 厳しい学校だったな。そうそう、『身なりをきちんとしていたで賞』ももらったなあ。


 私の中学校は本当に校則が厳しくね、『制服は一週間に最低一回は着てくること』とか、平気で生徒手帳に書いてたもんさ。


 私は『二週間に一度でいいじゃんか』とか思いながらも、なんとか制服を着ていったさ。いまどき、制服があるってだけでも厳しい学校なのに、着てくる回数まで指摘してたんだ。


 まあ、ちゃんと守って、見事に賞を獲得したけどね。私にとっちゃ楽なもんだったさ。


 そうそう、高校でもいろいろな賞をもらったよ。たとえば……。


『通学定期を一年間落とさなかったで賞』をもらったな。でも、この賞は満足できなかったね。


 普通の学校なら、『定期を一ヶ月なくさなかったで賞』くらいくれるのに。


 私の人生を振り返れば、まあ、『表彰人生』っていうのが相応しいかな。


 どんなことに対しても、賞をもらったからなあ。貰ってない賞の方が少ないんじゃないかな。


 どう? この文章で賞をとれるかな?


『努力賞』くらいはもらえるかな?努力賞はもれなくもらえる賞だから、あまりありがたみがないんだよね。この文章はこのくらいでやめておくかな。




 いやあ、おかげさまで、この前投稿した文章が、みごとに賞に入ったよ。


 それも、『書き方が面白いで賞』だったよ。やっぱし、話し言葉で書くのは、インパクトがあるんだろうね。今書いているこの文章も、送ることにしてるんだ。


 世の中は表彰社会だ。


 表彰された回数が、その人のステータスになる。


 って、まあ、読んでる君も、『よくこの文章を眠らずに読んだで賞』でも狙っているんでしょ?


 いまさら書くまでもないことなんだよね。


 絶対に、君が取れないようなすばらしい賞をとってやるから。『君』っていうのは、この文章を読んでいるすべての人の事だよ?


『私のライバルはあなただけ』とは言ってないからね。まあ、『私をライバルにしてくれたで賞』くらいなら、貰ってあげてもいいかな。私も『君をライバルと認めたで賞』をあげるから。


 いやあ、この文章を読んでいる数百万人の人たちは、なんて思うんだろうな。




 今日はすごい賞を貰ったよ。『あなたの文章は誰も見ていないで賞』と、『コンピュータが自動的に読んだで賞』の二つを貰ったんだ。


 すごいでしょ?


 これをふたつ同時にもらえる人なんて、私以外にはいないんじゃないかな? もっとすごい賞をもらって、君に教えてあげるね。




「政府発表によりますと、今日で自殺者は一年で五百万人になったそうです。五百万人目の自殺者には、記念賞として、『五百万人になったで賞』が送られます。どう思います?佐藤さん」

「いやあ、政府の政策はすばらしいですね。『みんなが一等賞』政策のおかげで、国民は賞を取るためにはなんでもするようになりましたから。賞の為に自殺だってしてしまうんですから。今の若い者は考えていることが良くわかりませんよ。まあ、そのおかげで、私ら老人達のための、新鮮なドナーが毎日、いつでも手に入るのです」

「今、脳死するような自殺をしたかたには、もれなく、『佐藤さんがほめていたで賞』がもらえます。奮って御参加下さい。では、CMです」

「脳死したければ、このノウシデキールをお使い下さい。医薬部外品です」




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6/3/2000

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