第九節 流水の行方
「色んな事があったよね、それから」
いつの間にか二人の姿勢は逆転し、ベッドの縁に腰かけたラニーニャの膝の上にクラウディアが頭を乗せる形になっている。
さらさらと指の通りの良い彼女の金色の髪を撫でながら、ラニーニャもまたそれから過ごした日々に想いを馳せていた。
「向かうところ敵なしだったよね、アタシ達。巨大クラゲとも戦ったし、タコの怪物も倒したし」
「この辺りを描いた宝の地図が偽物だったときはコンビ解散しかけましたけどね」
「そりゃ……。だってラニーニャがツケの全部をそれで返すって意気込んでるのに、疲れただけだったしさ。今度はもっとちゃんと情報を確かめてよね」
「そうですね。……また、行きましょうか。宝探し」
「うん。今度はよっちゃんと、カナタと、アーちゃんも一緒でもいいかもね」
「ええ。それはまた楽しそうです」
何となしに巡らせた視線が、部屋の窓際に置いてある机の上で止まる。
そこにはペン立てに置かれたままの羽ペンと、書きかけの手紙がそのまま放置されていた。
きっとあれはここのところ日課にしているヨハンに向けて送っている手紙だろう。また、彼から来た返事も机の上に大事そうに保管されていた。
彼女は大きく変わった。
無鉄砲で感情のままに行動していたころのクラウディアとは違う。
恋をして、その人の役に立ちたくて色々なことを考えるようになった。
それ自体は好ましい変化だが、ほんの少しだけ胸の中が痛む。
その痛みが何に対してのことなのか、ラニーニャは結論を出さないことにしている。
恋をして変わっていく彼女はとても素敵で、目を凝らさなければ見えないほどに眩しいものだから。
傍で変化を見守り、手助けをする。ちょっとしたトラブルに巻き込まれるのもまた楽しい。
そんな日々が何より愛しくて、それを護るためならば何だって犠牲にできる。
「ラニーニャ、変わったよね」
「ええ。変わりましたね」
願わくば全てが終わって、その果てにまたそんな日々を過ごせることを。
優しく頭を撫でると、クラウディアは心を預けるように目を閉じる。
少しして彼女の寝息が聞こえてきてから、ラニーニャは目を細めてその寝顔を見つめ続けていた。
――当人達は知らない、誰にも解き明かされることのない奇跡。
千年前に出会った彼女と、彼女に救われたその血族は、長い時を経て再会した。
これから先、また大きな事件が起こる。
その予兆は今大陸を駆け巡り、彼女達もそれを感じ取っていた。
だからこそ、今だけは安らかな時間を過ごす。いずれ離れてしまう二人の手が、少しでも長い間一緒に繋がっていられるように。
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