第四節 嘆きながら伸ばした救いの手
その答えは、程なくして発見された。
同じ部屋に、多くの日誌に囲まれたその奥に会った書き殴られた何枚もの紙にそのヒントは記されていた。
きっとこれを書いた彼女はこれを余所に持ち出すつもりもなかったのだろう。誰かに読ませることもなく、自分の中で全て完結している資料。
それでも一部の油断もないように、その全てがそこに書き記されている。元は丁寧だが、急いで書かれて所々が繋がってしまった字で。
「エトランゼは、滅ぼされた?」
事の始まりは、虚界の使者と呼ばれる異形達の侵略だった。
今にして神と呼ばれる何者かは、それらに対抗するためにエトランゼをこの世界へと呼び出した。
エトランゼと御使いは協力して、人を護りながら彼等と戦った。だが、その戦いは長く続き、何度も世代を変えながら数百年に及んだ。
その中で多くのエトランゼがこの世界に訪れて、帰還を願ったまま死んでいった。
そして、最後のエトランゼ達を残して戦いは終わった。
虚界の使者達は全滅し、この世界から争いの種は消えた。
後はエトランゼがどのようにしてこの世界に溶け込んでいくかと言うところまで、彼等の中では話が進んでいたらしい。一節にはギフトを封印する技術を生み出して、それを使うことを受け入れたエトランゼもいたようだった。
だが、そこから先の未来は暗転した。
御使いとこの世界の住人はエトランゼを危険なものとして強襲、その住処を尽く破壊し尽くした。
先進的な技術やギフトを持つエトランゼだったが、虚界の使者達との戦いで疲弊していたことと、御使いとの正面対決に敵わなかったことが原因で次々と打ち取られていった。
その中で、全てが終わる直前。
一人のエトランゼが行動を起こした。
戦いの中で力を目覚めさせ、人を捨てた魔人となった女がある計画を断行する。
「輪廻回帰……」
それはこの世界全体を揺るがすほどの大魔法。
彼女はそれを、『世界魔法、輪廻回帰』と記していた。
強大な魔力を持って紅い月を生み出し、そこに時を操る力を加えることで全てのエトランゼの魂を集めて時を戻す。
そうして回帰が済んだ者達からこの世界へと排出されると言う仕組みを作り上げたのだった。
彼女は認めなかった。その余りにも残酷な終わりに納得することができなかった。
その結果が紅い月。神に等しい力を持ったエトランゼを生贄に、その魔力を大半を注ぎ込んで生み出された禁断の大魔法。
ある女の妄念とも呼べる意思の塊。
つまりこの世界に現れるエトランゼは、全員が一度死に、そして同じ姿で生まれ変わらせられた者達と言うことだった。
しかし、何故か彼女はそれで全てを良しとしなかった。
紅い月は成功していたのだ。そのやり方が正しいかは別として、多くのエトランゼは神話の時代よりも生きることを謳歌出来ていると言ってもいいだろう。
だと言うのに何故、再び紅い月を起動させる必要があるのか。
それは何処にも書かれていない。その真意は彼女本人に問いただすしかないのかも知れない。
その資料を掴み取って、ヨハンは部屋を後にする。これ以上この部屋で得られる物があるとは思えない。
時間を掛ければ話は別だが、それならばまずはアルスノヴァをどうにかする方が先決となる。
次はもう一つの目的を果たして、一刻も早くカナタに合流しなければならないのだから。
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