第九節 夜が明けて
戦いは終わり、夜が明けた。
アシュタの村の惨状は思わず目を逸らしたくなるほどに凄惨なものになっていた。
村のあちこちから木霊する家族の死を嘆く声、その責任の所在は誰にもなく、しかし人の心はそれを納得することはできない。
村人達の憎悪の行方は、余所者であるヨハン達に向けられ始めていた。
ヨハンは今、教会の居住ように宛がわれた部屋の一室で、ベッドの上で寝息を立てているアーデルハイトを見下ろしている。
御使い、悪性のウァラゼル。
アレクセイによって顕現した彼女の攻撃からラニーニャを庇った結果、アーデルハイトは傷を負った。命に別状はないが、すぐに動けるというものでもない。
ヨハンの持っていた治療薬と、医学の心得があるアンナが治療を施すことで、どうにか今は落ち着いて眠っている。
「失礼します」
できるだけ音を立てないように扉を開けて、アンナが部屋の中に入って来た。
「……アンナ」
「アーデルハイトさんの状態はどうでしょうか?」
「……特に何も。痛み止めのおかげで眠っている」
「そうですか。……これでは今日中に村を出ていくことはできそうにありませんね」
まだ周囲に魔物がいるかも知れない。そう判断すれば、できるだけ万全の状態でここを離れたかった。
イシュトナル、オルタリア両方にも伝令を放ちたいところだが、この村で元気な者はもう、誰もヨハンの言葉を聞こうとはしていない。
「イブキの様子は?」
「疲れて眠っています。傷はそれほどでもないのですが、その……」
村人達に教会の外に放り出されたこと。
ワイバーンを正面から見た恐怖。
そして、一度は自分の心を壊した御使いを再び見てしまったことからイブキの精神は再び壊れてしまいそうになっていた。
「今は深い眠りにつくことで自分をどうにか護っている状態でしょう。申し訳ございません、わたくしの行動が少し軽率過ぎました」
そう言ってアンナは深々と頭を下げる。
「顔を上げてくれ。俺は村人を犠牲にして自分達だけが生き残る選択をした。そう言う判断があっても当然のことだ」
半ば賭けであっただろうが、アンナはヨハン達や非戦闘員だけでなく村で戦っている男達、そしてシュン達のことも助けるためにその判断をした。それを責める権利はヨハンにはない。
「……だが、大丈夫なのか?」
懸念はもう一つある。
アンナが村を救う代わりに差し出したものの話だ。
「……はい。この身一つで村の人が救われるのならばそれが一番でしょう」
アンナはアレクセイのものとなる。それが彼が村を救いに来る条件だった。
アレクセイは頭を地にこすりつけて懇願するアンナにそう条件を提示して、彼女はそれを二つ返事を了承した。
背後でアーデルハイトが苦しげに唸り声を上げる。
それを聞いたヨハンはアンナに目配せをして、二人は静かに部屋から出ていく。
廊下で向かい合って、改めてその話を続ける。
「イブキさんをヨハン様が引き取ってくれるのなら、わたくしがもうこの村でできることはありません。ならばせめてその安寧のために身を捧げることこそが喜びとなりましょう」
「それだって一時的なことだ。奴の気まぐれでいつまたこの村が略奪にあうかも判らないんだぞ?」
「ですが少なくとも、わたくしが傍で懇願し続ける限り、魔物の襲撃からは護れましょう?」
「それはそうかも知れないが……!」
その保証はない。アレクセイがいつアンナに飽きて、その約束を反故にするかも判らないのだから。
「ここは小さな村、貴方様のような大義を掲げ、大局を見る人からすれば取るに足らない場所かも知れません。ですがそこにエイス・イーリーネの愛した生命が生きているのです。わたくし如きの小さな命は、そのほんの僅かな人々を救うのに使うものでしょう」
開け放たれた窓から、雨上がりの湿った風が流れ込んできて、カーテンを揺らしながら二人の間に見えない壁を形作る。
緩やかに、アンナはヨハンを拒絶した。
彼女にそのつもりはなくても、アンナはヨハンによってではなく自分の力で救うことを選んだ。
「……そう、言われてはな」
ヨハンができることなどありはしない。
ここでどれだけ喚いたところでウァラゼルを従えるアレクセイに勝つことはできないのだから。
「ですが、ヨハン様には他にやることがあるのでしょう? わたくしなどでは到底不可能な大きなことが」
優しくアンナの白い両手が、垂れさがったヨハンの手を握る。
「わたくしは一人でたった百人を、僅かな期間しか救えません。ですがヨハン様はもっと多くの人を動かし、沢山の人を救えるお方ではないでしょうか?」
「……それは……」
その言葉でヨハンはようやく理解した。
アンナはヨハンを頼るのをやめたわけではない。自分を犠牲にして、アレクセイの目がヨハン達に向くことを遮ったのだった。
やらなければならないことがある。
イシュトナルに戻り、エレオノーラに事の次第を報告する。規模が規模なので既に何処からは話は行っているだろうが、つぶさに見た状況を説明して具体的な対策を立てる必要があった。
今後あの規模のことが起こり、またそれ以上があるのならばオルタリアと戦っている場合でもない。どうにか早急に講和して、共に立ち向かわなければならない。
「すまない」
「謝らないでくださいませ。わたくしは後悔していません」
彼女は笑っていた。
アレクセイのものになるということがどんな未来を意味するのか、判らないわけではないだろうに。
その表情は暖かで、聖母と呼ぶに相応しく見える。
「それでは、わたくしはこれで一度失礼いたします。村の方達に挨拶をしてきますので」
その言葉を最後に、アンナは修道服の裾を翻してその場から去っていった。
彼女の気配が消えてから、ヨハンは近くの椅子に脱力するように腰かける。
「……無力だな、俺は」
▽
教会の外部分、花壇が並び小さな庭園となっているその場所は昨晩のワイバーンの襲撃によって見る影もないほどに荒れ果てていた。
今この場にはラニーニャを除いて誰もおらず、村人達は村の復興をすることもなくただ昨晩の悲劇に嘆きの声を上げている。
軽く村を見回って来たラニーニャはそんな村人達の姿を見て悪態を付きたくなるほどに苛立っていた。
家族が死んで哀しい、畑や家が破壊されて辛い、その気持ちは判る。だからと言って嘆くばかりでどうしてなにもしようとしないのか。
「……ラニーニャさん?」
教会の扉が小さく開き、そこからひょこりとカナタが顔を出す。
目の前まで歩いてくると、ラニーニャの情譲歩見て身を竦めた。どうやらそこまで怖い顔をしていたらしい。
「うわっ、どうしたの? 口内炎?」
「違います。ちょっと、この村の人々の軟弱さに嫌気がさしてきたところで」
「仕方ないよ。自分の住んでる村が急にこんな風になっちゃったら」
「ハーフェンの人々はそうではありませんでした。海賊が沿岸い現れ商船や漁船が襲われたとき、確かに一度は絶望しましたけど……。でも、クラウディアさんの一言で立ち上がったんです。少なくともこんな風に誰かの所為にすることはなかった!」
村を歩いていて、彼等がラニーニャのことを見る目は明らかに変わっていた。
イブキのことを隠していたことが悪い方向に作用したのか、それとも他の要因があるのかは判らないが、魔物の襲撃に際して有効な手段を取れなかったのは全てヨハンの責任と言うことになったようだった。
カナタも心当たりがあるのか、それには暗い顔をする。
「だいたい、それを言ったらラニーニャさん達の方が大変ですよ。家族とも、友達とももう会えないんですから。なのにわたし達には悲しむ権利がなくて、彼等ばっかりめそめそと!」
「ラニーニャさん! ちょっと落ち着いてよ。様子が変だよ?」
「……はぁ、確かに。ごめんなさい、取り乱しました」
無意識のうちに胸の中に蟠っていた泥を吐きだしかけて、慌ててラニーニャはそれを飲み込んだ。少なくともそれは、ここでするべきではない。
「それから、その。上手く言えないけど、自分の方が辛いからって他の人の悲しみとか痛みを軽く扱うのは、えっと……駄目だと思う。ごめん」
「……いいえ。判ってます。判っています」
一度はカナタに、もう一度は自分の言い聞かせるように頷く。
自分達の方が大変だからと無暗に力を振るえば、それはアレクセイが言っていたことと変わらない。畜生のようなものに墜ちてしまう。
「すー、はー」
調子を整えるべく、一先ずは深呼吸。
そうして昨晩の傷を癒すために両腕に巻かれていた包帯を取り払った。
白い布が風に流れて飛んでいく。カナタはそれを追いかけて拾おうとしたが、それをラニーニャの声が制する。
「カナタさん」
「は、はい?」
「お手合わせ願います」
両腰の鞘からカトラスを抜く。
「へぇ!?」
「まずはお互いギフトなしの勝負で。十数えたら行きますから、準備を宜しくお願いします」
有無を言わせずそう言って、カトラスの一本をカナタの前へと放り投げる。
「十、九、八、七、六……」
足元に突き刺さったカトラスを見てカナタは戸惑っていたが、ラニーニャのカウントが止まらないことから本気であると判断して、それを地面から引き抜く。
「……怪我は大丈夫なの?」
「よっちゃんさん印の治療薬のおかげでね。軽傷でしたし」
「な、なら……。うん、いいよ。ボクも、剣の腕磨きたかったし」
「はい。では」
同時にラニーニャはカナタの目の前に立っていた。
まずは一太刀。金属の刃が噛みあわさる甲高い音が教会の庭に強く響く。
「ちょ、と……! 速いっ!」
「以前も味わったでしょう?」
二度ほど刃が打ち交わされると、カナタは堪えきれずにその手に持ったカトラスを高く天へと跳ね上げられる。
その首筋にラニーニャがカトラスの刃を当てて、勝負は付いた。
「勝負ありですね。ではもう一度しましょう」
「へ?」
ラニーニャは歩いて自分が弾き飛ばしたカトラスを拾うと、再度カナタに手渡す。
それから距離を取ってもう一度、「では、行きますよ!」と、地面を蹴った。
結果はまたしてもラニーニャの圧勝。カナタは構えてから身動きを取ることもできずに武器を取られてしまった。
「ふむ。……では今度はカナタさんから打ってきてください」
「う、うん。行くよ!」
距離を取った状態からカナタが走りだし、正面からカトラスを振り上げる。
「見え見えですね」
ラニーニャはがら空きのカナタの腹に軽く掌底を打ち込んで、彼女が態勢を崩したところで手首を掴んで捻り上げる。
「いたたたたっ!」
そのままぽいと彼女の身体を地面に放り投げて一言。
「弱すぎません?」
「酷い」
「以前戦った時はもっと苦戦した気がしたんですけど?」
「ギフト使わなかったらこんなもんだよ! 剣の使い方だってろくに教えてもらったことないしなんとなくやって来ただけだもん!」
拗ねて喚くカナタを無視して、ラニーニャは地面に落ちたカトラスを二本とも拾って鞘に納めた。
そして今度は鞘を地面に投げ捨てて、膝を曲げて水たまりに手を伸ばす。
「では今度はギフト有りで行きましょう」
「……うん、判った」
拗ねながらも、それならば勝負になると思ったのかカナタも立ち上がる。
そうして二人はまた同じように距離を取って構えた。
「では行きますか!」
ラニーニャがまた最初と同じように一瞬でカナタの目の前に躍り出る。
そのまま水の剣で斬りかかるも、目の前に広がった極光の壁により難なく弾かれた。
「くっ」
「今度はこっちから!」
壁はすぐにカナタの手に収束し剣となる。
光の軌跡を残して舞う極光の刃を、ラニーニャは交差させた水の刃で受け止めるが、彼女の光の前には単なる水など難なく掻き消されて消滅してしまった。
「そんなっ!」
そこから更に踏み込んでカナタの手首を掴む。
しかし今度は左手の持ったセレスティアルの短剣が振るわれて、ラニーニャは慌ててカナタの膝を蹴るようにしてその場から退避する。
「痛い!」
「洒落になってませんね。以前はあんなに簡単に斬られることはなかったと思っていたのですけど」
彼女の力が上がっている、と考えるのが妥当だろう。
つまりはラニーニャがあのウァラゼルに挑めば同じ結果になるということだ。
「はいそうですかと、諦められませんよね」
「まだやるの?」
「ええ。全然、負けてませんから!」
幸いにあちこちに水たまりはある。武器の補充には事欠かない。
再び両手に水の剣を持ち、カナタの正面まで駆けていく。
彼女が再度壁を展開したところで、ラニーニャは手に持っていた剣の片方を放り投げる。
それはセレスティアルの壁に阻まれて容易く消えたが、カナタの注意を逸らすことには成功した。
思った通り、彼女は戦いの駆け引きにはなれていない。絡め手を用いれば付け入る隙はある。
側面の死角に回り込んで一太刀。
例え一撃でその壁を破ることができなくても、連続した攻撃は極光の守りに確かに歪を生んでいく。
事実、物理的な力がセレスティアルを貫くところをラニーニャは海上で見ているのだ。お互いにあれよりも規模は小さいが、やってできないことはないだろう。
水の剣の突きがセレスティアルを貫通して、カナタの目の前で止まる。
カナタは慌てて壁を解除して、その切っ先を避けるようにして光の剣で反撃を試みた。
光と水、克ちあえば不利になると判っているラニーニャはそれを受けない。上手に身体を動かして、カナタの極光の剣に触れないように彼女の空振りを誘う。
「なんで当たんないの!」
「見え見えですからね!」
至近距離にまで一気に詰めたラニーニャは、お互いの額が触れあうほどの距離でその頭と頭をぶつけあう。
「いっ……!」
仰け反るカナタ。
逆手に持った水の剣を叩きつけようとしたところで、カナタの左手に広がる極光の盾がラニーニャの身体ごとそれを弾き飛ばした。
空中で回転して受け身を取ったラニーニャは地面に付くやすぐ傍の水たまりから水をつかみ取り、投げナイフのようにして投擲する。
カナタはここに来て初めてそれを壁で防ぐのではなく、回避行動を取った。
それでも掠めそうになった数本は、盾で防御したのだが。
今度はカナタが攻勢に出ようとしたところで、ラニーニャは掌を前に差し出してそれを制する。
「……どうしたの?」
攻撃姿勢を解いて、カナタが近付いてくる。
すぐ目の前まで来たところで、ラニーニャはその胸倉に手を伸ばして、自分の方へと思ひっきり引き寄せた。
「隙あり!」
その手には水でできた短剣が握られていて、それはカナタの首筋に触れていた。
「ず、ズルいよ!」
「はい。まぁ」
ぱっとカナタから手を離す。
二、三歩よろけるように後退してから、カナタは恨めし気な目で改めてラニーニャを睨んだ。
「……今のはズルくない?」
「はい。そうですね。ちょっと悔しくて」
「悔しいって何が?」
「何がって……」
あのまま戦いを続けていれいばお互いに攻め手に欠ける。決着がつかないと言いたいが、実際のところはラニーニャの負けになるだろう。何せ、カナタは護ったままこちらの体力が尽きて動きが鈍るのを待てばいいのだから。
「ボク全然ラニーニャさんの動きに付いていけなかったし、多分あのまま何回かやれば何処かで失敗すると思うんだけど」
「失敗?」
「うん。失敗。ずっと戦ってたら剣が短くなったり、バリア出そうとしても全部を囲いきれなかったり」
「なるほど」
どうやら、ラニーニャが思っていたほどに完全無欠と言うわけではないようだった。少なくとも、カナタの場合は。
そこで幾つか思い当たることがあって、ラニーニャは尋ねてみることにした。
「そう言えば。先日あの御使いがやっていたように広範囲を攻撃することはできるんですか?」
「無理無理」と、首を横に振る。
「飛ばすことは?」
「一応投げられるけど」
実演して見せてくれるが、彼女の手から投擲されたセレスティアルの短剣は、大した飛距離もなく地面に落ちると霧散して消えていった。
「以前海の上で戦った奴みたいにに砲撃したり」
「だから飛ばせないんだって」
「遠隔操作とかは?」
「できたらやってるよ」
それはごもっともだ。
「えー。じゃあ殆どわたしと同じことしかできないじゃないですか」
「落胆しないでよ。同じギフトなんだし、そうでしょ」
「……まぁ、それもそうですが」
腕を組んで溜息をつく。
こうして彼女と戦ってみればあのウァラゼルに対しての対策が何か思いつくかも知れないと考えたが、それも難しそうだ。
「ラニーニャさんだって、もっと色々できないの?」
「川や海ぐらいに水量があればもっと応用は効きますけど、このぐらいの水ではこれが限界です」
「もうちょっと色々できてもいいと思うんだけどなぁ、お互いに」
カナタもその正面で腕を組んで何やら考え込んでいる。
「この前負けたときはもっと多彩な攻撃してこられたんだけど」
「負けた? 誰にですか?」
「え、なんか鋼の王とか言う人。こっちの世界の人なんだけどギフトを使えて、それで負けたの」
「いや、負けたのって……。ギフト相手に? どうやって?」
「どうって……」
「うーん」と、カナタが唸る。
簡単に言ってはいるが、ラニーニャからすればそれが欲しかった答えの一つだ。セレスティアルを貫ける、もしくは無力化できるギフト。その手掛かりがそこにあるかも知れない。
「単純に金属を操るギフトみたいだったから、それでエレクトラムで貫かれたような気もするし、いやでも……うーん。普通になんか破られたよ」
「普通に破られたって……それじゃあなにも判らないじゃないですか」
「うん。ごめん」
「いえ、お気になさらずに」
やはり完全無欠ではない。何処かに付け入る隙がある。そう思えるだけでまだ多少はマシと言うものだった。いや、厳密はそうでも思わなければやっていられたものではない。
「しかし何と言いますか……。今更なんですけど、ギフトに付いてもっと考えて、詳しく知っていかなければならない段階に来たのかも知れませんね」
果たしてこの力は何なのか。
何処から来て、何が目的でエトランゼに与えられたものなのか。
エトランゼの大半は不自然なまでにそれに疑問を抱かない。最初こそ戸惑うものの、驚くほどにその力は馴染み、使い方や特性が頭の中に刻みつけられている。
その感覚は未知を知るというよりはむしろ、忘れていたことを思いだすようなものだった。
カナタはラニーニャの言葉に頷いて、それから顔を上げてラニーニャの顔を覗き見る。
「それって、ウァラゼルと戦うため?」
「一先ずはそれですね。もっと言えば、今後も増え続けるであろう脅威に対抗するためです」
問題なのはウァラゼルだけではない。
アレクセイの持つギフト、そしてそれに匹敵する脅威が今後も現れる可能性は決して低くはない。
「……ボクがもっと強ければ」
「ほら。またそんな顔をして」
俯きそうなカナタの額に手を当てて、無理矢理上を向かせる。
それから心配させないように、ラニーニャはいつもの朗らかな笑顔で微笑みかけた。
「またうじうじするとクラウディアさんに怒られますよ。ダンジョンで言われたんでしょう?」
「……そうだね、うん」
「そうです。難しい話はやめましょう。結局できることなんてたかが知れてますし。それよりも」
両手を上に伸ばして、ぐっと伸びをする。
改めてラニーニャはギフトを発動させて、その両手に水の剣を握った。
「できることの再確認と、応用を考えましょう」
「うん!」
そうして二人はそれからしばらくの間、自分のギフトと向き合うのだった。
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