第四節 イブキ

 アンナを先頭にして一行が向かった先は、エイスナハルの教会だった。

 石造りの建物の中は広々としていて、幾つもの椅子が並び、その奥には祭壇が置かれていて、その上には美しい彩色のステンドグラスが飾られていた。

「地上を見下ろすエイスナハル、ね」

 隣を歩くアーデルハイトが何となしにそう呟いたのが、カナタの耳に届いた。

「どーしたの?」

「いいえ。ただ、御使いと戦った後だとあの絵から感じられるものも違ってくるわね」

 カナタもそれに習って見上げてみる。

 色鮮やかに彩色された硝子には、白い衣を纏った神が地上から伸ばされた手に、自らも手を伸ばしている姿が描かれていた。

 アーデルハイトは子供の頃からそれを見てきたのだろうが、ここ数ヶ月の思い出しかないカナタには、何も思うところはない。

 アンナは礼拝堂を通り抜けてその奥、教会の裏側へと進んでいく。

「教会の居住スペースを間借りしてるんです。それにしてもなんというか、タイミングが悪いですね、お二人とも」

 そう横合いからラニーニャが言いだしてくる。そう言えば、彼女にも尋ねたいことがあったのだ。

「なんでラニーニャさんがここにいるの?」

「浮気旅行です。……冗談ですよ、睨まないでください、アーちゃんさん。偶然よっちゃんさんと出会って、楽しそうだから付いてきただけですよ。ただ、ちょっとね」

 ラニーニャは何かを言い辛そうに、前を歩く二人を見た。

「ですがおかげさまで助かりました。ラニーニャさん一人ではなかなか難しい状態にあったもので」

「難しいって、何が?」

「それは行ってみてのお楽しみです」

 礼拝堂の裏側に回ると、その先には廊下が伸びていて幾つかの部屋に分かれていた。

 アンナはその中の一つの前で立ち止まり、扉を開ける。

 するとそこから、一人の女性が勢いよく飛び出してきた。

「おかえり、よーくん! お仕事もう終わったの?」

 彼女はそのまま、他の人物など全く目に触れていないかのようにヨハンの胸に飛び込んで頭を擦りつけると、流れるようにその腕を引いて部屋の中へと招き入れた。

「……イブキ?」

 アーデルハイトがその名を呼ぶ。

「今のが? エトランゼの英雄?」

 カナタが確認すると、ラニーニャは呆れ顔で頷いた。

 遅れて四人が部屋の中に入ると、備え付けのベッドの上にヨハンが腰かけ、そこにイブキが何かとちょっかいを掛けるように纏わりついている。

 テーブルとセットになっている椅子にアンナが座り、何処から持って来たのか来客用の椅子三つにそれぞれカナタ達が腰かける。

 これでようやく人心地が付いたと、少女達三人は同時に溜息をついた。

 さて、まずは何から確認すべきか。

 カナタが頭の中を整理している間にも、視界の端でイブキはヨハンに対して身体を擦りつけたり、膝の上に座ったりを繰り返している。

「イブキ。少し落ち着いてくれ」

「やーだ! だってよーくん捕まえてないとすぐどっか行っちゃうんだもん」

「来客中だぞ」

「あたしは気にしないよ!」

「昨日からずっとアレを見せつけられてるんですよ」

 ラニーニャが疲れた声で、そう耳打ちしてくる。

 それにしても、イブキは本当に父親に甘える子供のようにヨハンにくっついているが、当然身体は大人なので見た目が非常によろしくない。

 それなりに育った胸がヨハンの身体の色々な場所に触れて、柔らかそうに形を変えている。当人は全く気にしている様子はないが、だからと言ってあれはどうなのだろうか。

 どうやら気に入る態勢を求めているらしい。しばらく試行錯誤した後に、ヨハンの背中に自分の背中をくっつけて座るという形に落ち着いた。

 ちなみにカナタの横ではアーデルハイトの纏う空気が氷点下まで落ちている。怖くて顔も見れないほどだった。

「ん、こほん。まずわたしから質問させてもらうわ」

 アーデルハイトが挙手をする。

「なんだ?」

「さっきラニーニャから軽く話は聞いたけど、まさか彼女が生きていたなんて、驚いたわ」

「……そうだな。北の大地で御使いに敗れ、命からがら逃げだした時、気が付いたイブキはこの状態になっていた。自分の力が及ばなかったことか、もしくは仲間が全て殺されたことか……なんにせよ、心を壊すには充分な出来事だっただろう」

 辛そうな表情でヨハンはそう語る。

 力が及ばず、全てを失ったのはヨハンだって一緒だった。多分、思い返すだけでも辛いのだろう。

「で、確認なんですけど。よっちゃんさんがここに来た目的はそのイブキさんを保護するってことで間違いありませんか?」

「半分はそうだな。いや、正確にはそのつもりだったんだが……。どうやら事態は俺が思っているよりも厄介なことになっているようだ」

 ヨハンの視線がアンナを見る。

「レジェスからこの場所に暁風の本隊があると聞いたとき、連中がイブキのことを発見して自分達の仲間に加えようとすることを危ぶんだ。カナタにそうしたようにな」

 確かに、彼等は強引とも呼べるやり方を取ることがある。カナタは黙って頷いて、続きを促す。

「だが、ここに来て事情が変わった。アンナ。あの連中はいったい何なんだ? 本当に暁風なのか?」

「……最初は、暁風を名乗る人々がこの村にやってきました。彼等はエトランゼで、粗暴な振る舞いこそすることがありましたが、村人に危害を加えることはありませんでした。そのリーダーをしていた方が、シュンさんなのです」

 彼等はこの村を拠点として活動を始めた。

 村人との多少の軋轢はあったものの、エトランゼは金払いはそれなりによく、傷を治した傷病施設のエトランゼ達の受け入れ先にもなっていたため、お互いに共生は成功していた。

「ですが、先日から魔物の襲撃が増え、遂にシュンさん達の力だけでは支えきれなくなってしまったのです。先代が倒れたのも、その時でした」

 そう言ってアンナは目を伏せる。

「そこ現れて、凄まじい力で魔物を撃退したのがあの方、アレクセイ様なのです」

「あんな変態エロ親父が強いとは思いたくないですけどね」

 ラニーニャが履き捨てるように言った。

「その力は本物です。シュンさん達エトランゼが苦戦していた魔物の群れを、あの方は瞬く間に倒してしまいました」

 アンナが嘘を言っているようには見えない。

 恐らくはそれだけの力を持っているのだろう、あのアレクセイと言う男は。

「それによってシュンさん達の暁風は二分され、力を求めてアレクセイさんに付いていく人も現れました。そしていつの間にか彼等が暁風の後継と言うことになって、シュンさんもその傘下に入ることになったのです」

「……なるほどな」

 その理由を想像するのは難しくない。

 暁風を名乗ったのは、その名前を使ってエトランゼを集めやすくするため。まだ決して大きな組織ではないが、それでもその名に惹かれるエトランゼも決して少なくはない。

「あのなめくじエトランゼのシュンさんがわたしとかカナタさんを必死になって仲間に引き入れようとしていたのも、変態エロ親父の心象をよくするためですか。ますます救えませんね」

 憮然としてラニーニャは腕を組む。

「いえ、それは……」

 アンナが何かを言いかけたところで、教会の聖堂の方から物音が聞こえてきた。

 一同はそれぞれ警戒し、いつでも戦える態勢を整える。唯一ヨハンだけが、驚いて飛びついてきたイブキの所為で身動きが取れなかった。

「……見ての通り、よっちゃんさんは役に立たないのでラニーニャさんが様子を見てきますね」

 何故だか冷たい声でラニーニャがそう言って立ち上がる。

「いえ、恐らく今の音は……」

 アンナがそれを制して一人、扉を開けて出ていってしまう。

「いやいや、危険ですって!」

 ラニーニャは慌ててその後を追いかけていった。

「アーデルハイトはヨハンさんを見てて」

「……この空間に残されるのは嫌なのだけど」

「我慢してよ」

 カナタもアーデルハイトに苦笑いを向けながら、ラニーニャを追いかけて入り口の扉に手を掛ける。

 それから一度ヨハンを振り返って、

「……むっつりスケベ」

 と、言い残して出ていった。


 ▽


 先程通り過ぎた、椅子が大量に並んだ礼拝堂までカナタが戻ると、そこには先行していたアンナとラニーニャ、それから何故かシュンと、もう一人カナタは知らない男性がいた。

 三人は中央に引かれた赤い絨毯の上で、剣呑な様子で話している。

「なんでお前達がここにいる!」

「それはこっちの台詞です。ラニーニャさん達は許可を得てここにいるんですから、何処にいようと勝手ですよ」

「ちっ。おい、シスター!」

「シスター・アンナです、シュンさん。もう何度言っても直してくれないのですから」

 アンナが困ったように微笑むと、シュンは毒気を抜かれたのか、怒りの形相が少しばかり和らいだ。

「ああ、ほら。怪我をしているではありませんか。シュンさん、どうぞこちらにお掛けください」

 アンナが言う通り、冒険者としての仕事帰りだろうか、シュンの身体には傷が幾つもあり、中でも右腕の傷は深くまだ血が止まりきっていなかった。

「構うな。俺はエトランゼだぞ」

「エトランゼも同じ人間でしょう? そしてわたくしは怪我をしている人を放っておけるほど、冷酷ではないつもりです」

「……お前達の教えじゃ、俺達エトランゼは人間じゃないらしいじゃないか」

「それは以前も言いましたでしょう」

 腕を引いてシュンを無理矢理座らせると、アンナは小走りでその場を後にして、奥の部屋から治療道具一式を持って来た。

 そして有無を言わせず、流れるような仕草でシュンの怪我をした腕へと布に浸した消毒液を塗していく。

「シスター・アンナに掛かればシュンさんも形無しですね」

「黙ってろ、テオフィル」

 叱られて、テオフィルは肩を落とす。

「それを語るのは一部の過激な方のみです。どうしてこの世界を創造し、地の底より出でたる悪魔から人々を護った神が、そのような無慈悲を行えるのでしょう」

「だからと言って……!」

「それに、シュンさんはアレクセイ様がここに来たと聞いて、わざわざ様子を見に来てくださったのでしょう? 怪我を治療することも惜しんで」

「ばれちゃってますよ、シュンさん?」

 にやにやと笑いながら、テオフィルがそう言った。

「あいつに好き放題やられるのが癪なだけだ。ここはもともと、俺が拠点にしていた場所なんだからな」

「……なんだか、大分様子が違いますね。以前会った時は喧しいくそ雑魚エトランゼでしたのに」

「お前が俺を嫌ってるのはよく判った。それで、英雄までなんでいるんだ?」

 カナタとラニーニャに対してはもう仲間に加えることを諦めているのか、以前会った時のように猫を被っているような態度はなく、粗暴さを前面に押し出してきている。

 もっとも不思議なことに、態度としては悪いこちらの方がカナタとしても話しやすかった。

「ヨハンさんが来てるからね。それはともかく、シュンさんとアンナさんは友達なの?」

「だ、誰が友達だ!」

「ふふっ。お友達、確かにそうなれたら素敵ですね」

 二人は全く真逆の対応をする。

「あれだけエトランゼがどうの言ってたのに、美人を見たらこれですか。だからなめくじくそ雑魚エトランゼなんですよ」

 けっ、とラニーニャは悪態をつく。最早言いたい放題だった。

「まー、まー、お姉さん。多分昔シュンさんが失礼なことしたみたいですけど、ここは僕に免じて許してやってくださいな。ここのところ、アレクセイさんに対抗するために必死だったんですから」

「対抗とは?」

「暁風。取られたままには行かないでしょ? シュンさんが憧れの人から受け継いだ組織なんですから」

「テオフィル! 余計なことは言うな。……俺は受け継いだわけじゃない」

「……その人って、ヨシツグさんだよね?」

 カナタが尋ねると、シュンは黙って首肯する。

 ヨシツグ。

 光の力を持ったエトランゼ。暁風を組織して、エトランゼを保護して回っていた青年。

 それだけならば決してヨハンと対立することはなかっただろう。しかし、彼はエトランゼだけを護ろうとして、結果的にこの世界への憎しみを募らせていった。

 その結果、御使いに対して恭順するという志に反した行動を取り、ヨハンに討たれた。

「あのヨハンさえいなければ、アレクセイなんかの好きにはさせなかったんだ! ヨシツグさんさえ生きていれば……!」

 シュンは悔しそうに拳を握りしめる。

 カナタがそこに掛ける言葉はない。

 彼等はこの世界に放り込まれた理不尽に対する憎しみを、この世界に生きる人々にぶつけようとした。

 それは間違っていることだと判っていながら、言葉で止めることができなかった。

「あー、いえ。別になめくじさんのことはどうでもいいんですけど。確認しておきたいことがあります」

 シュンの事情など全く興味なさげに、ラニーニャが手を上げた。

「シュンさんはあの変態エロ親父に対して好意的ではないということでよろしいですか?」

「なんでそれを貴様達に!」

「もうそう言うのいいですから。さっさと答えてください。でないと愛しのシスター・アンナの目の前でみっともない姿を見せることになりますよ」

「なんだと!」

「行けません、シュンさん!」

 怒りに任せて立ち上がろうとしたシュンだったが、アンナに強く腕を掴まれてそれを振りほどくこともできずに大人しく座りなおす。

 それを見てにやにやしていたテオフィルだったが、急に真剣な表情になってラニーニャの方を見た。

「まー。僕から簡単に説明すると、シュンさんはアレクセイさんに完全に服従してるわけじゃないですね。変態エロ親父呼ばわりするってことは会ったんですよね?」

 カナタとラニーニャは首肯で答える。

「あんな人ですから。でも力があるからみんな従ってる。だからシュンさんはより大きな力を手にいれて、暁風を解放しようとしてるんです」

「ひょっとして、だからボクとかラニーニャさんをしつこく誘ったの?」

 シュンは目を逸らして口を噤むが、逆にそれが答えになっていた。

「ならもっと事情を説明すればよかったのに。あんな言い方じゃ誰も手伝ってくれないよ」

「アレクセイを何とかすれば終わりって話じゃない。暁風にはもっと戦力が必要なんだ」

「その辺りの妄言は置いておくとして」

 何処までも辛辣に、ラニーニャは話を戻していく。

「うちのボスはそのアレクセイさんに用があるみたいですよ。ね?」

 言いながら、ラニーニャは部屋の奥へと視線を向ける。

 いつの間にかそこにはヨハンが一人で立っていた。

「……貴様!」

「これで三度目だ。俺はお前と争う理由はない。何度言えば理解するんだ、お前は?」

 言いながら、ヨハンはシュンに近付いていく。

 途端に殺気立つシュンに、ラニーニャが何があっても良いようにとカトラスの柄に手を掛ける。

 カナタも一応は、いつでもセレスティアルを展開できるように態勢を整えた。

「アレクセイとやらに用がある。案内を頼めるか?」

「断る!」

「取りつく島もなしか? この村を護りたい気持ちがあるなら、決して悪い話ではないと思うが」

「だからと言ってお前に借りを作るのは御免だ! ヨシツグさんを殺したお前なんかに!」

「よっちゃんさーん。この人絶対折れませんよ? ここは一つ身体に判らせてあげた方がよくないですか?」

「カナタ。ラニーニャが暴れないように見張っておいてくれ」

「うわ、ラニーニャさんってば信用なさすぎ」

 冗談めかして言ったものの、ラニーニャ本人に暴れる意思はない。シュンが危害を加えることがなければカトラスを抜くこともないだろう。

 ヨハンがどう説得したものかと悩んでいると、シュンの横に立っていたテオフィルが一歩前に歩み出る。

「じゃあ、僕が案内しましょ」

「テオフィル!」

「いやだって、申し訳ないですけどシュンさんのやり方じゃ無理ありますよ。この人、イシュトナルのお偉いさんなんでしょ? だったら利用させてもらった方がいいじゃないですか」 

敢えて利用と言う言葉を使う辺り、掴みどころのない人物だった。

 シュンは答えず、俯いたままでいる。

「問題はそれだけじゃないですしね。ここのところ、魔物の襲撃も増えてるし」

「魔物の襲撃が増えている?」

「ええ、はい。イシュトナルの偉い人なのに、知らないんですか?」

「魔物の群れが見つかったという話は何度か聞いたことがあるが」

 群れを成した魔物が人間の生活圏に入り込む話は決して珍しくない。加えて今はアルゴータ渓谷の魔物を掃討したためにそこから追い出された群れもいるはずなので、その案件がヨハンにまで上がって来ることもなかった。

「折角イシュトナルの偉い人と喋る機会ができたんだし、力を借りてもいいんじゃないですかね?」

「お前は黙っていろ! 俺達は暁風だぞ。どうしてヨシツグさんを殺した男と協力できるんだ!」

 シュンの怒鳴り声を受けて、テオフィルはやれやれと言った風に肩を竦める。

 一先ずシュンのことは無視してテオフィルと話をすることにする。アレクセイと言う男にしても、魔物の襲撃にしてもそれはイシュトナルが請け負うべき案件だと、ヨハンは考えている。

「お前の目的はシュンと一緒と言うことでいいのか?」

「だいたいそんな感じです。実は僕って蝙蝠でして、シュンさんのところとアレクセイさんのところを行ったり来たり、美味い汁を啜って生きてます」

 何の悪びれもなく、テオフィルは言いきった。シュンもその事情は理解しているのか、別段大仰な反応を返すこともない。

「でも流石に最近のアレクセイさんはやり過ぎかなって思うんです。このままじゃ近い将来破滅するって。僕としてそれは望まなくて、程々にしてもらえるのが一番っていうか」

「話し合いの結果次第ではアレクセイを討つことになるかも知れんぞ?」

「そうなったらそうなったで、シュンさんのところでやらせてもらうまでですから」

「……とんだ仲間を連れてるんだな」

 呆れたように、ヨハンがシュンに言った。

「こいつは特殊だ!」

「……正直なところ今一つ信用はできんが」

「でしょうねー」

「だが、他に方法もなさそうだな。正面から乗り込むよりは現実的そうだ」

 ヨハンはテオフィルの提案を受けることにして、その日は解散となった。

 シュン達は別の寝床があるらしく、アンナからの傷の手当てが終わると慌ただしく教会を去っていこうとする。

「シュンさん、無理はしてはいけませんよ。貴方が傷ついたら、わたしはとても悲しいですから」

「……何度も言わせるな。俺はエトランゼだぞ」

「そんなこと関係ありません。わたくしはシュンさんと言う一人の人間を見ているのです」

「……ちっ」

 舌打ちをして、シュンはアンナに背を向ける。そこにある感情が悪意ではなく、照れ隠しのようなものであることは、本人以外のこの場の全員に伝わっているだろう。

「あの、シュンさん」

「今度はなんだ?」

 シュンが出入り口の両開きの扉を開けようとしたところで、今度はカナタが声を掛けた。

「何か困ったことがあったら、力になるから。だから今度はちゃんと言ってくれると助かるかも」

「……お前は……!」

 何かを言いかけて、それ以上言葉にならずに乱暴に扉を開ける。

「かないませんね、カナタさんには」

 ラニーニャが小声でそう言うのと、二人が出ていった教会の扉が閉じるのはほぼ同時だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る