間奏 祭りの灯と鋼の王  第一節 現れたるは変人

 オルタリア南部、イシュトナル地方にある小さな村落。

 木造りの家々が立ち並び、それ以外は周囲に広がる畑ぐらいしか見るものもないような長閑な田舎町の広場。

 そこで、イシュトナルに仕える一兵士となった少年トウヤは、目の前に並んだ村人達に一斉に頭を下げられて困惑の表情を隠せないでいた。

 村を治める長老も、その息子であるトウヤよりも年上の男性も、またその妻や子供達に至るまでが一斉に感謝の意を込めてこちらを見つめている。

「本当に、本当に助かりました」

「い、いや、俺達は……その、仕事でやっただけで」

「だとしても貴方達がいなければ、下手をすればこの村は滅びて、家族達はばらばらになっていたかも知れない。それがこんなに早く救ってもらえるなんて……」

「頭を上げてくださいよ。それよりも、お祭りに間にあったみたいでよかったです」

 見れば、村の中には準備の途中で打ち捨てられたのだろう飾りが幾つも転がっていた。

 事の起こりは数日前、この辺りに駐屯する同僚から近くに大規模な賊が出現したとの報告があった。

 どうやら祭りの開催に浮かれた隙を狙って、警備が薄くなった村を略奪しようとしていたようで、直ちに連絡を受けたイシュトナルの軍は狙われている村落に部隊を派遣し、相手が襲い掛かってきたところを返り討ちにすることに成功した。

 構成員の大半を失った賊は壊滅し、当分は悪さをすることはできないだろう。

「はい! これから大急ぎで準備をすれば間に合いそうです! 子供達もイシュトナルに連れて行けます!」

 村長の息子がそう言うと、その横に控えた少年と少女の兄妹はトウヤを見上げて、花が咲くような明るい笑顔を見せてくれた。

 それにはつられてトウヤも笑い、しゃがみこんで少年達と視線を合わせる。

「イシュトナルはいいところだからさ、もし来たら沢山楽しんでくれよな」

「うん!」

 子供達の元気のいい返事を受けて、トウヤは立ち上がる。

「それでは、俺達はこれで」

「ええ。本当に、エレオノーラ様がイシュトナルに来てから助かることばかりです。これまでは賊が出れば周囲の村落で協力し、命を落とすことを覚悟して戦わなければならなかった……。それに」

 彼等の視線が、また違う方を向く。

 そこには畑仕事に精を出すエトランゼ達がいた。

 彼等は元の世界の知識を使ってより効率的な農作物の収穫方法や農地の広げ方を模索し続けている。

 例えギフトがなくても、そうやってこの世界の生活に溶け込んでいるエトランゼ達だった。

 その姿を少しだけ、トウヤは眩しく思う。

「エトランゼの方たちも、こうやって一緒に過ごしてみれば親切な人ばかりで。やはり我々と同じ人間なのですな」

「そりゃ……そうですよ」

 その言葉は嬉しいが、それを引きだすまでにかかった時間は長かった。そして未だ、誰もがその考えに至ったわけではない。

 ぺこりと一度頭を下げて、トウヤは小走りでその場を後にする。

 広がった農地を抜けて村から離れたところに行くと、そこには今回の件で活躍したイシュトナル軍の一個小隊合計十名と、捕らえられた賊達が待機していた。

 その中でも一際目立つ金髪の男に駆け寄って、トウヤは不機嫌そうに報告する。

「連絡終わったよ。ったく、このぐらい自分で行けよ」

「あん? 俺が楽するために雑用をするのが部下の存在意味だろ?」

「んなわけないだろ!」

「冗談だよ、冗談。まあ、俺が行くよりも子供のお前さんが行った方が受けもいいだろ。俺はこんなんだしな」

 今回の部隊の小隊長として任命されたヴェスターは、そう言って自分を親指で指さす。

 それを見て周囲の隊員達も苦笑を漏らした。

「確かに、隊長の人相じゃ新しい賊が来たと勘違いされちゃいますよね」

「お、言ったなてめぇ! 生意気いう奴には今夜の酒はなしだぞ!」

「えぇー! そりゃ勘弁してくださいよ! おれ、今日ようやく一人捕まえたんですから」

「あぁ? そういやそうだったな。よし、じゃあ今夜は祝杯だな!」

 上機嫌そうにそう言って、小隊は引き上げの準備を整える。

 元々大規模な遠征と言うわけでもないので、ほぼ手荷物に加えて部下達が捕まえた賊達を引っ立てて歩き始める。

 最前列を兵達が進み、その後ろに賊、ヴェスターとトウヤは最後列に並ぶ。

「この国……いや、イシュトナルって少しずつ変わって来てるんだよな」

「あん?」

 トウヤのそんな一言に、両手を後頭部で組んだままヴェスターは尋ね返す。

「さっきの村の人達がさ、エレオノーラ姫が来てからよくなったって言ってたんだ。俺達がやったことって、少しずつ効果が現れてるんだなって、思ったよ」

「……へっ。そりゃ俺達が日夜切った張ったで命駆けてんだ。少しでも変わってもらわなきゃ意味ねえだろ」

「それはそうだけど……。今まであんまり実感なかったからさ。俺達がやってること、あいつがやってることってなんか意味あるのかなって思ってた」

 あいつとは、今ここにはおらず、イシュトナルにある執務室で仕事をしている男のことだ。

「意味がなきゃやんねえよ、こんな馬鹿なこと。なんで他人のために命駆けて、自分の生活削ってやらなきゃらならねえんだ。阿呆か」

 言いながら、ヴェスターは空を見上げる。

 トウヤもそれに習うと、二羽の鳥が声を上げながら青い空を自由に駆けていくのが見えた。

「ヴェスターも他人のためにやってるって自覚があるんだな」

「お前、俺を何だと思ってんだよ。人間は一人じゃ生きていけないってことぐらい判ってんだろ?」

「……ヴェスター」

 意外な答えが返ってきたものだ。

 トウヤの中でのヴェスターは、その強さの代わりに何かを置いてきた人物、勝手にそんな評価を下していた。

 そんな彼が少しでも人間らしく、他の誰のために何かをすることに充実感を覚えていたことは、小さな感動だった。

「武勇伝が増えれば増えるほど、俺の名前が売れれば売れるほど、抱ける女の数も増えるってもんよ! 今じゃネフシルの悪魔って言えば向こうから金を払いたいって女までいやがる!」

「結局それかよ!」

 トウヤの関心は、一瞬にして破壊された。

「それだって他の誰かのことだろうが! 第一、我欲がない人間なんて不気味過ぎるだろ。そんなんじゃいつか潰れちまうぞ。おら、お前の我欲を言ってみろ、カナタに格好いいところ見せたいって言え!」

「おぉ! トウヤ殿はあの小さな英雄に惚れ込んでいるのですか?」

 ヴェスターの声が大きすぎて、前を歩ている兵士の一人が面白そうに囃したてる。

「うるさいな! 俺のことはどうでもいいだろ!」

「どうでもよくねえよ! 俺はカナタを取られて吠え面を書くヨハンの野郎が見てえんだ。そのためにもお前にゃ頑張ってもらう必要があるんだよ!」

 首を腕で抱え込み、そんな無茶苦茶を言いだすヴェスター。

 そこから抜け出そうともがいていると、不意に前の方から戸惑った声がヴェスター達に向けて掛けられた。

「ヴェ、ヴェスター隊長! 前方に、その、何やら怪しい者が」

「あん?」

 トウヤの拘束を解いて、ヴェスターが視線を前方に向ける。

 同じようにトウヤも前を見ると、確かに兵の戸惑いも納得がいく奇妙な光景が広がっていた。

 立っているのは男女一組。両方ともこの辺りの生まれではないのか褐色の肌で、長身であるところが共通している。

 女の方は軽装鎧に身を包み、頭部には一本の髪の毛もない。年齢によるものではなく、自分の意思で剃っているのだろう。

 その横に立つのは黒い長髪を首もとで束ねた鋭い眼つきの男だった。その威容は堂々たるもので、小規模とはいえ武装した兵士達の前で仁王立ちをしている。

「……なんだありゃ?」

 先頭を歩く兵士が立ち止り、声を掛けようとすると、それよりも早くその怪しげな男は口を開いた。

「ほう。こやつ等がそうか。……そこな道を行く者達よ。貴様達をイシュトナルの兵と見受けるが、どうか?」

 地を揺るがすようなよく通る声だった。

 それに気圧されながらも、どうにか先頭の兵士は言葉を返して行く。

「如何にも我々はイシュトナルの兵だ。そちらは何者か? 見ての通り今は賊を引っ立てている最中でな、急ぎの用事でなければ直接イシュトナルに伝えてもらえると助かるのだが」

「ふむ。トゥラベカ、どう思う?」

 横に立つ女性、トゥラベカに男がそう尋ねる。

 トゥラベカは目を細めて、トウヤ達の一団を値踏みするように眺める。

「その立ち振る舞い、練度共に申し分なき強者でしょう。ですが私達の相手をするとなればそれが叶うのは一人、いえ二人程度かと」

「二人もか。それは実に面白い」

 男は手に持っていた鋼の杖を、地面に突き立てる。

 そして大きく息を吸い込んで、大声で言い放った。

「イシュトナルの兵よ。これより貴様達に、余と刃を交えることを許そう。その力を示し、見事余の関心を買って見せよ」

 呆然と彼の言葉を聞きいる一同などには目もくれず、男は言葉を続けていく。

「来るがいい!」

 そう言って鋼の杖を振るい、目の前の兵士に突き付ける。

「き、貴様! 何のつもりだ!?」

「二度は言わぬ。貴様達が見掛け倒しの臆病者でないのならば掛かってくるがいい」

 咄嗟に兵士は剣を抜いて、男に向けて斬りかかる。

「そうでなくてはな!」

 言いながら男は素早く鋼の杖でその剣を絡め捕り、上空へと弾き飛ばしてしまう。

「トゥラベカ! 露払いは任せたぞ、いつものようにせよ!」

「畏まりました」

 取り囲む兵士達の前に、男の正面に立ちはだかったトゥラベカが対峙する。

 一斉に攻撃を仕掛けるイシュトナルの兵達の武器は全くトゥラベカを捉えることはできず、あっという間にその手から武器を離されて誰もが尻餅を付いていた。

「おい、トウヤ! お前はあっちのハゲ女をやれ、イカれ野郎は俺がやる!」

 そう言ってヴェスターが魔剣を携えて飛び出す。

 咄嗟に男を庇おうとしたトゥラベカだが、そちらにはトウヤが斬りかかっていった。


 ▽


「おぉー。強ええ強ええ。ありゃ長くは持たなさそうだな」

 手でひさしを作るようにして、ヴェスターは離れたところで戦うトゥラベカとトウヤを見ながら感嘆の声を上げた。

 訓練した兵士数名を瞬く間に叩き伏せたトゥラベカの武術は並大抵の腕ではない。事実、彼等はヴェスターにこそ遠く及ばないものの、精鋭と呼んで過言ではない実力者達であった。

 禿頭の女性は素手でありながらトウヤの斬撃を軽くいなし、そのうえでなお様子見のような立ち回りを見せている。もっとも戦っている本人にそれに気が付く余裕はなさそうではあるが。

「じゃあその間に俺は大将をやるとするか。いいのかい? あの女を俺に当てなくて?」

「構わぬ。貴様がこの一団での最大の実力者であろう? いや、皆まで言うな。その傍若無人な立ち振る舞い、立ち上る覇気。それを見せつけられてなお理解できぬとすれば、それは余程の凡愚であろう」

「……お、おぅ。まあどっちでもいいけどよ」

 傍若無人な立ち振る舞い、についてはお互い様なのではないかと、ヴェスターにしては珍しく内心で突っ込みを入れた。

「もしこれが戦場であるのであれば、余が貴様と戦うことはない。しかし、ここは戯れの場、即ち誰にでも王たる余と戯れる権利があるということだ」

「王ってなんだよ? 馬鹿の王様か?」

「この威光を前にしてもその物言い。部下の前ならば余の威厳のために即座に縊り殺してしまっていたところだが、今ここにいるのは信頼できる部下のみ。余は貴様を許すぞ!」

「……何が言いてえんだよてめえ! 話が長いんだよ! やりあうのかどうなのか、はっきりしろ!」

「……ほう」

 王を名乗るその男は、ヴェスターの怒鳴り声に全く臆した様子もなく、むしろ感心したかのような表情で持っている鋼の杖を構え、その切っ先をヴェスターに向ける。

「余としては貴様に先手を取らせてやろうとした気遣いなのだが……。いや、すまぬな。滅多に叶うことではない王との対面を堪能させてやろうかと」

「なに言って……!」

 その一瞬の動きに、ヴェスターは二の句を継ぐことができなかった。

 鋭い踏み込みから放たれた突きが、ヴェスターの顔面の真横を通過する。

 遅れて頬から流れた血と、正面にある男の不敵な笑みが、それを敢えて外したものだと言外に伝えている。

「て、めえ!」

「フハハッ、よいぞ!」

 怒りに任せて叩きつけた魔剣が、横倒しにした鋼の杖によって受け止められる。

「うおぉ!」

 次の瞬間その棒は凹むようにぐにゃりと曲がり、その両端がヴェスターの腕に絡み付くように伸びた。

 咄嗟にその場から飛び退いてそれを回避するが、伸びた金属の棒はヴェスターを追撃するように襲い掛かってくる。

「なんだそりゃ!」

 魔剣と金属の棒が弾きあう。

「やるではないか!」

 男は今度は下段に構え、ヴェスターの足を鞭のように変化したそれで薙ぎ払う。

 飛翔してそれを避けたヴェスターはそのまま男の目の前に着地。

 再びお互いの持つ武器が交差するときには、それは元の固い鋼の杖へと戻っていた。

「おかしな武器を使うじゃねえか!」

 次々と繰り出されるヴェスターの剣撃を、男はその棒で持って防ぎ、受け止めて捌いていく。

 例えその奇妙な棒が動かなくてもその動きは達人と呼べるほどに洗練されている。

「だがな!」

 ヴェスターの蹴りが、男の腹に突き刺さる。。

「ちょっとばっかし動けるだけじゃ、このヴェスター様には勝てねえんだよ!」

「やるではないか!」

 体術ならばヴェスターが上を行く。

 更なる追撃を掛けようと地面を蹴ったヴェスターだが、咄嗟のところで嫌な予感がして急制動を掛ける。

 男が鋼の杖を地面に突き立てると、地響きが鳴り、草原が裂けてそこから何かが飛び出した。

 鈍色の液体にも見えるそれは、意志を持った生き物のようにヴェスターを敵と判断して、その先端を鋭利な刃へと変えて次々と襲い掛かる。

「ちっ、子供騙しが!」

 その全てを弾き返すと、男の眉根が大きく動いた。

「ほう! あれを全て避けきるか! 貴様、今どのような術を使って地面からの襲来を防いだ?」

「あん? 知るか! 勘だよ、勘!」

 一気に目の前まで躍り出て、魔剣で薙ぎ払う。

 地面から伸びた鈍色の何か、恐らくは金属であろうそれがヴェスターの斬撃を受け止めた。

「……魔剣か。古代の破壊者達により生み出された忌まわしき人を喰らう刃。その武器を持って狂わぬのが貴様の天賦か?」

「テンプラだぁ? なんで日本料理の話が出てくるんだよ、今!」

「ニホンリョ……? 言葉が通じぬ蛮族と言うわけではあるまいに!」

「てめえが喧嘩売って来たんだろうが、なんでそいつと仲良くお喋りしてやらなきゃならねえんだよ!」

 伸びる金属の棒を弾き、それが絡み付いて剣を抑え込みに掛かるやヴェスターは躊躇なく魔剣を捨て去る。

「確かにそうであるな!」

「うるせえ!」

 ヴェスターの拳が男の顔面にめり込む。

「素手での戦いか! よかろう、余は徒手空拳にも覚えがあるぞ!」

 殴り返す男の拳を身を屈めて避けて、がら空きのボディに数発打ち込む。

 これには流石に堪えたのか、小さな呻き声を上げて男は一歩後退した。

 その隙を逃さず、ヴェスターはその瞳に凶暴性を宿して更なる追撃を仕掛けようとするが、嫌な気配を感じてすぐにそこから距離を取る。

 つい一瞬前までヴェスターが立っていた場所に、飛び蹴りをするような形でトゥラベカが着地した。

 足元をしっかりと踏みしめながら、トゥラベカはヴェスターと男の間に立つ。

「ベル様。お戯れが過ぎます」

「そうであるか。だがしかし、奴の戦いが見事であることはお前も異論はないだろう、トゥラベカ。これが実戦であればお互いにこうはいかぬだろうが」

 口元から流れ出た血を拳で拭って、男はヴェスターに対して惜しみない賛辞を送る。

「ええ。戦ならばお互いに倒れていた可能性もあるでしょう」

 厳しい目を向けながら、トゥラベカはそう言った。

「ほう! 余の一番の戦士であるトゥラベカがそう評価する男か。なるほど確かに、それだけの腕はある。貴様、余からも再度称揚しようではないか」

「知るか! トウヤ、そっちのハゲ女はお前が抑えとけって……」

 ヴェスターが視線を向ければ、そこには地面に倒れ伏すトウヤの姿があった。意識はあるのか這うようにして武器に手を伸ばしているが、戦闘続行ができそうな状況にはない。

「もうやられたのかよ。だっせ。そんなんじゃカナタに幻滅されるぞ」

「あまり厳しい言葉をお掛けにならないように。彼は精一杯戦いましたし、その腕も決して悪くはない。一流とは評せませんが……精々二流と呼んで差し支えないでしょう」

「……褒めてんのか、それ?」

「私に、このトゥラベカに武器を持たせれば一流。それに打ち勝てば至上の戦士として讃えることも吝かではありません」

「はぁん? 随分と腕に自信があるみたいだな……」

 言いながら、地面に落ちている魔剣を拾い上げる。ヴェスターのその動作に、対峙する二人は一切反応することはなかった。

「トゥラベカと異界の戦士との戦いか! 実に愉快な催しになるだろう! どうか?」

「戦士として強者と戦うのことに躊躇いはなく、むしろ高揚を覚えることに間違いはありません。ですが、今はその時ではないでしょう」

「戦いにその時もくそも、関係あるかね!」

 言葉と同時に斬りかかるヴェスターを紙一重で避けたトゥラベカは、伸びた腕を取って逆にその身体を投げ返す。

 空中で受け身を取って無事に着地したヴェスターに、トゥラベカは先程ベルと呼ばれた男に向けたのと同じような厳しい視線を向けた。

「相手の力を推しはかるような無粋な攻撃は戦士の戦いを汚します。ましてやこれが戦ならば、私は貴方の首を抑えつけてそのまま骨を折っていたでしょう」

「ハッ! 言ってくれるじゃねえか」

「フハハッ、今の攻防実に見事だ! その一瞬だけでも見応えのあるものだったぞ! しかし確かに、そろそろ時間も押している」

「……逃げんのか、てめぇ!」

「いずれまたまみえることもあるであろう。それではな、異界の戦士よ!」

 彼等は背中を向けてその場から立ち去っていく。

 その背後を襲うことは決して難しいことではなかったが、余りにも突然のことに毒気を抜かれたヴェスターはそれを躊躇った。

 何よりも。

「……この後始末、俺がやんなきゃ駄目なのか? やっぱり」

 倒れたトウヤ、伸びた部下達。そして縛られたままの賊。

 彼等の世話を一人でしなければならいと思うと、自然とそのやる気も失われていくのだった。

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