第十節 それは異端であり真理でもある

 登場と同時に二人。

 そのまま呆気に取られるオルタリアの兵士が、ヴェスターの魔剣の餌食となって血霧と消えた。

 そうして去りゆく背中を見送った一匹の獣――『ネフシルの悪魔』と渾名された男は動揺一つ見せずにそこに立つ男を鋭く睨む。

「ふむ。拙の勝手な想像だったのだが、ネフシルの悪魔は随分と人情に溢れた人物だな」

「……あん?」

「仲間を逃がすための自己犠牲とは。……噂に聞いていた魔剣使いヴェスターに対する想像と乖離がある。これは認識を改める必要があるな」

 しみじみと言ってのけて、コテツは顎に手を当てた。

「人情ねぇ……。ないとは言わねえさ。ヨハンとはそれなりの付き合いだし、坊主のことは嫌いじゃねえ。でもな、んなことは二の次三の次なんだよ」

 剥き出しの刃は、黒い輝きを放つ魔剣。その禍々しさに、コテツ以外の兵士は息を呑んで後退る。

 そしてコテツの手には、抜身の刀。相手を確実に仕留めるための上段から、正眼へと構えを変えるそれこそが、ヴェスターを強敵と認めた証でもあった。

 その輝きは雨の中でも曇ることなく、圧倒的な存在感を放っている。

「面白そうな相手が目の間にいる。それ以外に俺がここにいる理由が必要か?」

「愚問。そうでなくては。……名乗る必要もないな。では、存分に死合おうぞ」

 その言葉を合図に、二人は一斉に踏み込む。

 先に届いたのはコテツの剣。音もなく、自然過ぎる動きでその切っ先がヴェスターの首を狙う。

 だが、ヴェスターとてそれを受けるほど未熟ではない。紙一重、目の前を通過する距離で急停止すると、刃が通り過ぎたのを見腹からって一気に懐に飛び込む。

 振るわれる魔剣。

 一度触れれば魂ごと肉体を削り取る無慈悲な刃が、コテツの肌を掠める。

 それでも、一歩たりとも臆した様子もなく、コテツは返す刀でその魔剣を受け止めて、弾き返した。

「ハッ……!」

「くくっ……!」

 同時に笑いが零れる。

 受けた一太刀が、重い。

 弾く剣が、戦いの中にあるとは思えないほどに冷静で的確。

 たった一度斬りあっただけで、二人の中にあった予感は確信へと変わっていた。

「いや、見事。荒々しい中にある確かな技量。果たして、単なる獣に出せる技ではない」

「てめぇもな。お綺麗なサムライかと思ったらな、こいつは……」

 石床が割れるほどの勢いでコテツが踏み込む。

 まずは一刀。小手調べの横薙ぎは、雨の粒を弾き飛ばし、ヴェスターへと肉薄する。

 そこにオブディシアン製の魔剣の腹がぶつかって火花を散らした。

 もしそれが並の剣ならば、その刀身ごとヴェスターの身体は両断されていただろう。

 そう思えるほどに鋭い斬撃。

 これほどの強敵と巡り合えることは滅多にあるものではない。

 この世界に来てから戦いに明け暮れたヴェスターでも、五本の指で数えるほどだ。

 だが、その度にヴェスターはそれらを打ち破ってきた。エトランゼ、魔物、この世界の人間。

 どれであろうと関係ない。最終的に勝つのは自分であると、本能が訴えている。

 コテツが流れるような動作で側面から背後に回り込む。

 正面から打ち合う時間は終わった。

 そう言外に語った。

 即座に反応して、後ろに飛んで迎撃。

 その隙をついたのは、愚かにも周囲に集まっていたオルタリアの兵達。

 いつの間にか、共にヨハンを逃がした彼等は打ち倒されていた。数の不利がある、仕方がないことだ。

「コテツ殿! 助太刀します!」

「邪魔すんじゃねえよ!」

 魔剣が三人を纏めて両断する。即死だった。

 彼等の死によって肉体から流れ出た魂が、ヴェスターの身体へと染みわたっていく。

 人を斬ることで活力を漲らせるその姿は、まさしく悪魔そのものだった。

「余計なことを召させるな! この男は悪魔、おぬし達の敵う相手ではない!」

 鋭い刃が、遠方からヴェスターを狙った。

 魔法でもなくギフトでもない、まさか斬撃が飛んだということもあるまい。

 その驚異的な腕の伸びと踏み込みで、そう感じただけのことだ。

 そう一瞬の勘違いが生まれるほどに、卓越した技術だった。

 そのまま二人は打ち合う。

 一度、二度、三度。

 金属同士のぶつかり合う音が響き、それは衝撃となって周囲の雨粒を弾けさせる。

 誰もが戦いを忘れ、固唾を飲んでそれを見守っていた。

 二人の打ち合いが止まる。

 ヴェスターは剣を肩に担ぎ、コテツは刀を持った腕をだらりと下げた。

「いや、実に……。これほどの使い手とは思ってもみなかった」

「てめぇもな。まさか元の世界でもサムライだったのか?」

「残念ながら、違う。これは全てふりに過ぎぬ。元の世界ではつまらぬ、男だった。武道を嗜んではいたが、精々が人前の腕」

「つまり、この世界に来て人殺しの魅力に目覚めちまったってことか?」

 凶暴な笑みを浮かべるヴェスター。

 お前もそうであろうと。

 この世界に来て、ギフトと言う武器を持たされて、理不尽に晒され。

 本来ならば芽生えることがなかった何かが、心の中で育ってしまったのだろうと。

「……そうだな。剣の才はなかった。だが、人斬りの才能はあった。真剣で人が斬れるこの世界は、実に刺激的だ」

「奇遇だな。俺もだ。この世界はシンプルで生きやすい。どっちが強いかで決まることが多いってのは楽でいい」

「ほう。ならば問うぞ、魔剣使い。おぬしより強い者が現れたらどうする? 素直にそれに従うのか?」

「んなわけねえだろ。全力で抵抗して、力が及ばなかったら素直に死ぬだけだ」

「それがおぬしの信念か。ならば何故、イシュトナルに従う? おぬしから見れば弱者の群れにしか過ぎぬはずだが」

「言ったろ、この世界はシンプルでいいってよ。――それなりに気に入ってんだよ、あそこを。世界が変わろうとしてんだ、あそこを中心に」

 そこに確信などはない。

 単なる気まぐれ、その延長線上。

 それでもヴェスターは、その気になればすぐに去れるであろうイシュトナルに残る道を選択した。

「そうか。で、あればここで拙とおぬしが斬りあうのは必定であったか。こう見えて拙もな、今の居場所にはそれなりの愛着がある」

「そう言うこった」

 もうすぐ決着がつく。

 二人の間には予感めいた確信があった。

 楽しい時間が終わるのは、少しばかり物悲しい。

 しかしそれでも、時計の針は先に進み続ける。子供であろうと大人であろうと、その両者の都合を巻き込んで。

 では、果たしてこの二人はどうなのだろうか。

 コテツがヴェスターの目の前に瞬時に現れる。

 繰り出される清流の如き刃を、濁流の剣が押し流すように弾き返した。

「ぬぅ」

「へっ」

 高速で剣撃同士が激突する。

 受け止めきれなかった衝撃が互いの身体を痺れとなって駆け抜けた。

 今は、それが心地よい。

 強敵との戦いが、火花を散らす激戦が、一寸先には命を失うかも知れない緊張感が、この上なく高揚をもたらす。

 彼等はこの世界に来て悟った、命の軽さを。

 剣を振れば人が死ぬ、ギフトや魔法と呼ばれる超常の力でいとも容易く数人が命を落とす。

 そんな世界なのだ、ここは。安心と安全に守られた元の世界とは違う。

 そして二人は、恐らくいち早くそれに適合した。

 嘆くわけでも、哀しむわけでもない。生きるために――否。

 この世界を、楽しもうと決めた。

「紫電!」

 コテツの刃が紫色の稲妻を纏う。

 それが降り注ぐ雨に反射して、一見すれば陽炎のようなコテツの動きと相まって幻想的な光景を生み出していた。

「それがてめぇのギフトかよ」

「ギフトは、その持ち主が如何に使うか、どう鍛錬するかでその在り様を変える。あの少年は炎を巻き上げ、武器に纏わせることに熟練しようとしていた。――拙は、剣術を極めることに必死になり過ぎてな、ついぞできたのはこれだけだ」

 コテツが自嘲の笑みを浮かべる。

「この雷撃が飛ばせでもすれば、多少は芸があるところを見せられたのだがな」

 だが、それでも。

 紫電を纏っただけの刀でも、彼の技量を合わされば充分な脅威となる。

 そしてコテツがそのギフトを解放するということは、相手を強敵と、この上ない相手と認めたということだ。

 掠めた刃がそこから稲妻を走らせ、ヴェスターの全身を打ち抜く。

 ついさっきとは打って変わった荒々しさは、振り落とした刀の勢いで、地面に広がる石畳すら切り裂き砕いて見せた。

 背後に回ったコテツに即座に反撃するために、ヴェスターが身体を回す。

 だが、既にその時には彼の放つ突きが、ヴェスターの脇腹に食い込んでいた。

「ぐふ」

 稲妻が身体を走る。

 痛みと、痺れと、出血による身体の重みが一斉にヴェスターに圧し掛かった。

「がっ……!」

 ――だが、悪魔は止まらない。

「つ、かまえたぜ」

 片手で腹に刺さったままの刀を掴んで相手の動きを止める。

「おぬし……!」

 初めてコテツの顔に驚愕が浮かんだ。

 力を籠め、今度こそ勢いよく刀が引き抜かれる。

 そこからまた大量に出血したが、それでも彼が動きを止めることはなかった。

 魔剣、穢れた剣。

 神が唱え、御使いがもたらすこの世界の秩序を破壊しうる、忌まわしき刃。

 そこに込められた呪いは、例え肉体の限界を超えたとしてもヴェスターを生かし続ける。

 ギフトが鍛錬によって研かれるものならば。

 ヴェスターはずっと、それを使い続けてきたのだ。

 何の応用も効かない、魔剣と言う触媒がなければ役に立たないその力を。

 ならば、彼が悪魔と呼ばれるのは必然。

 戦いによる命のやり取りが好きだが、死んでやるわけにはいかない。

 数年前、ヴェスターはイブキと名乗るエトランゼに誘いを受けたことがある。人々を救うため、元の世界に戻れる手掛かりを探すために北へ旅立とうと。

 それをにべもなく断った。

 この世界をそれなりに気に入っているヴェスターに取って、嘆くだけで自ら動こうとしない大多数のエトランゼにも、それをほいほいと助けてしまう救世主気取りの女にも虫唾が走るのだ。

 だから彼等は失敗したのだと、勝手に考えている。

 ――今は違う。

 止まった時計のエトランゼは、少年や少女と出会って少しずつ変わろうとしている。

 痛みの中に、無意識に笑っていた。

「……俺もな、こっから先が見てぇんだよ」

「なに……?」

「だからてめぇは邪魔だ。くたばれ」

 黒い輝きを放つ剣が、振り上げられる。

 コテツはそれを防ぐべく、多少無茶な姿勢ではあるが刀を横に構えた。

「――遅せぇ」

 バキンと、子気味のいい音が響いた。

 両断された刃が、きらきらと輝く金属の欠片を飛び散らせる。

 そして魔剣は、御使いすらも怯えさせるその悪魔の刃は、コテツの身体に深々と食い込んでいた。

「お前の、勝ちだ。……こんなことならば、もう少しギフトの鍛錬をしておくのだった」

「……別にいいんじゃねえの。ギフトに頼った生き方をしなきゃいけないって話もねえだろ」

 自分のギフトを気に入っているヴェスターが、そう語るのも、おかしな話ではあるが。それは本心だ。

 ばしゃりと水たまりの中に、コテツの身体が崩れ落ちる。

 しばしの静寂の後、その広場を満たしたのは大勢の敵兵の悲鳴のような声だった。

 口々に悪魔と叫ぶ、ヴェスターの一挙一動が彼等にとっては恐ろしくて仕方がない。

「これで終わりか? 別にもっとやりあってもいいが……まぁ、掛かってこないなら俺は帰るぜ」

 何でもないように、勤め一つ終えただけとでも言いたげな言葉を放ってから、悪魔は剣を担いで悠々とその場を後にした。


 ▽


 ヨハンはディオウルを制圧すると同時に、エレオノーラに対して手紙をしたためた。

 その内容は急ぎ使者を派遣し、奪った都市と捕虜の返還を条件としてヘルフリートとの間に和平を結ぶこと。

 エレオノーラはそれを受け、急ぎオル・フェーズへと使いを出し、和平交渉を行った。

 ヘルフリートはそれに難色を示すかと思われたが、流石に王宮に仕える貴族の息子やその親類までもが何人も捕虜になっていること、そして何よりも彼等の無事と奪われた都市の無傷での返還と言う破格の条件に、下からの突き上げを受けてそれを了承せざるを得なかった。

 エレオノーラは知らないことだが、未だ頑なに好戦的な態度を崩さないヘルフリートがそれを受け入れたのは、五大貴族のうちの二人、モーリッツとエーリヒの口添えがあったからだった。流石の暴君と言えど、その二人を誅してまで戦いを続けることはできなかったのだ。

 そして、一先ずではあるが無事に戦いは終結するだろう。

ディオウルで防衛戦が起こり、イシュトナルの軍は敗走、ヨハンが行方不明となった知らせが届いたのは、それとほぼ紙一重のタイミングだった。

 エレオノーラの執務室でその知らせを受けて、膝から崩れ落ちそうなほどの衝撃を受けた。

「……ヨハン殿、が?」

 傍に仕えるディッカーは腕を組んで黙考する。

 他にもエレオノーラに仕える貴族達は多いが、彼女が何故そんな反応をしているのか理解を示したのは、それなりの付き合いになったディッカーだけだった。

「行方不明ですか。死体が確認されていないところから考えれば、ディオウル西の森に逃げおおせたと考えるのが妥当ですが。……恐らくはホーガン卿の部下が捜索を続けているでしょうな」

 戦いは一先ずの終結に向かって動いているが、今はまだ終わったわけではない。

 ヨハンを発見したエーリヒの部下が攻撃をしない理由は何処にもなかった。

「……すぐに、直ちに捜索隊を! ヨハン殿を救出するのだ!」

「それはできませぬ! 今ここで再びオルタリア領にこちらの軍が入り込めば、折角纏まりかけていた話が無になりかねませぬ!」

 答えたのはディッカーではなく、新たにエレオノーラの側近として仕える一人の貴族だった。

「それに、いいではありませぬか。エトランゼ一人の命如き。確かに有能な者ではあったのでしょう。ですが、死んでしまえばそれまでのこと。……大勢に影響はありませぬ。むしろバーナー卿を初めとした名のある貴族が犠牲にならなかっただけマシというもの。だいたいにして姫様は……」

「その口を閉じよ」

彼の言葉は事実で、正しいものだった。

 それでもなお、エレオノーラの口から放たれた――それを言った本人すらも驚くほどに――冷たい、底冷えのするような声が、辺りから一切の発現を奪う。

 今彼女は激高している。まともな精神ではない。

 そう判っていてもなお放たれたその迫力は、やはり王家の血を引く者、暴君であるヘルフリートと半分は同じ血を分けていると思わざるを得ないものだった。

「ヨハン殿はこのイシュトナルを手に入れ、そして発展に大きく貢献してくれたお方。単身のエレオノーラ様を保護しその道を指し示してくれたことは忘れていい恩ではない。……姫様は少々お疲れのようですし、諸侯には下がっていただいていいでしょう」

 ディッカーがそう言うと、その場に集っていた貴族達は怪訝そうな顔を見せたが、下手なことを言って罰せられては敵わぬと、一人また一人とその場を後にして行った。

「行けませぬな、エレオノーラ様」

 二人だけになったところで、ディッカーが咎めるようにそう口にするが、当のエレオノーラはそれどころではなかった。

「……妾は……。ヨハン殿に酷いことをしてしまった……。だって、あんな……!」

 怖かった。

 あれが今生の別れとなるかも知れない。

 このイシュトナルの、エレオノーラのために力を振るってきたヨハンを罵倒し、お互いに理解することなく永遠の別れを迎えてしまうなど、想像するだけで恐ろしい。

「……ヨハン殿の手腕がお見事でした。ヘルフリート陛下が仕掛けた戦いを、最小限の犠牲で治めて見せたことは尊敬に値します」

 ディッカーが窓の方へと歩いていき、そこからイシュトナルの様子を見つめる。

 仮にも戦時中とは思えないほどに人々の間には活気があり、つい数か月前までは辺境の要塞と呼ばれていたとは思えないほどに発展した街がある。

「ですが、お二人は誤っていたのです」

 椅子に深々と腰かけたエレオノーラは、助けを求める子供のようにディッカーを見るが、それに対して投げかけるのは、冷たい言葉だけだった。

「エレオノーラ様はヨハン殿に対して無条件の信頼を寄せ過ぎた。まるで彼が万能であるかのように扱い、人であることを認めなかった。

 ヨハン殿もまた、エレオノーラ様を導として扱った。ただ象徴であれば、理想の言葉を言い続ける人形であればいいと。……恐らくは、それがこそがあの方に取っての救いだったのでしょう」

 神に等しき座から滑り落ちた哀れな男。かつて失ったものに似た何かを、彼はエレオノーラに求めた。

 普通ならばそれは何処かで破綻をきたしていた。お互いが強い違和感を覚え、全ては失敗していたことだろう。

 だが、ヨハンにはギフトの名残やそれを成すだけの能力があり、エレオノーラには人を惹きつける魅力があった。

 そして何よりも、二人の歪な依存は、善性と言う鎖で結ばれていた。

 助けを求めたエレオノーラをヨハンは救う。

 ヨハンにとっての善きと思う形を、エレオノーラは理想として語る。

 そうすることによって二人の間にあった歪さは、すっかり覆い隠されていた。

 ――大魔導師の弟子であり最強のエトランゼであったヨハンを、その肩書だけでエレオノーラは心酔し、空っぽであるという彼の真意を測ることができなかった。

 ――エトランゼの血を引く理想を語る指導者であるというエレオノーラをヨハンは空っぽになった自らを満たすために仰いだ。

 それでは行けなかったのだ。一人で考えていて、勝てるわけもない。

 これはエレオノーラだけでなく、ディッカーにも圧し掛かる現実。どうして皆で話しあい、結論を出すことができなかったのか。

 答えは一つ。エレオノーラもディッカーも、ヨハンも。

 お互いのことを何一つ知らず、信じることができないでいたからに他ならない。

 そのツケが今支払われ、ヨハンは行方知れずとなった。

「……例え彼が戻る戻らないに関わらず、変わっていかねばならないのでしょう」

 そこに答える言葉はないが、それも無理もないこと。

 たった一人で投げ出され、カナタと言う少女に救われたものの、その手に何もないエレオノーラを助け、一緒にいてくれたのがあの青年なのだ。

 そんな彼に対して特別な情を抱くなと言う方が無理というもの。

 そして以前のように共に彼の無事を信じ、鼓舞してくれた少女は今はいない。

 だが、それでもディッカーの中には小さな希望があった。

 エトランゼとは、ギフトを持っているだけではない。

 彼等に関わり魅せられたエトランゼは、時にこちらが思いもよらないような行動を取って、驚きの結果をもたらすことがある。

 例えば、かつて一緒に御使いの大軍に立ち向かった一人の少年のように。

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