第十二節 蠢く者

「馬鹿を言ってはいけないよ。学院長がそんなことをするはずがないだろう」

 その翌日。魔法学院のブルーノ教授の研究室に、再びカナタとアーデルハイトは訪れていた。

 あれから家に戻ったカナタはヨハンに事の次第を報告した。それを加味したうえでヨハンは調査を進めるつもりのようだが、カナタはカナタでじっとしていられない。

 早朝からアーデルハイトを叩き起こし、憎まれ口を言われながらもブルーノ教授の研究室に飛び込んできた次第だったのだが。

「で、でも、昨日の夜確かにボク達見たんです! ね、アーデルハイト?」

「……それは事実だけど、あの時も言ったように、それが悪事に繋がるわけではないわ。ただ」

 一度アーデルハイトは言葉を切る。

「その二人が夜に密会していたのは事実です。ブルーノ教授は、どうお考えですか?」

「どうもこうもなぁ」

 困ったように頭を掻きながら。

「学院長と陛下が会うことはあるだろうね。なんといっても陛下が即位してからこの学院への寄付金が倍近くにまで増えたのだから、それだけここに抱く期待も大きいだろうし。でも二人とも忙しいのだから、夜に会うのはある意味当たり前なんじゃないかな?」

「見るからに怪しい護衛の人とか連れてましたよ?」

「いや、それは護衛なんだから武装してるし。夜にそんな人を見れば怪しいって思ってしまうかも知れないだろう? 二人とも立場あるんだから、護衛を連れていることも何もおかしくないじゃないか」

 あくまでも穏やかに、まさかそんなことは夢にも思わないブルーノ教授は、やんわりとカナタの言葉を否定した。

「もしその二人がキメラの件に関わってたら、ブルーノ教授の折角の結果が悪用されちゃうんですよ? 誰かを助けるために始めたことが、人を傷つけちゃうかもしれないんですよ!」

「……カナタ……」

 そんなことは許されない。人を救うための研究が人を殺すための道具に成り下がるなど、カナタには我慢できなかった。

 その必死の訴えに、ブルーノ教授は顔の皺を深くして微笑んだ。

「研究資料の時といい、君は本当に優しいエトランゼだね。君のような人がいると多くの人に伝われば、差別だってすぐに消えてしまうのだろうけどね」

 ブルーノ教授はそう言って、席を立つ。

「判った。僕の方からもそれとなく学院長に掛け合ってみるとするよ。立場もあるから無茶はできないけどね」

「本当ですか!」

「ああ。それに僕だって我慢できないよ。自分の研究結果がいいように利用されて、人を殺す道具になるなんてね。もっとも僕の場合は、自業自得な部分もあるけど」

 そうやって、彼は自嘲する。

 彼の過去に何があったかは、カナタは知らない。ただそれを後悔しているし、踏み越えたうえでより良い可能性に至ろうとしていることだけは伝わってきた。

「それで、すまないがもういいかな? 今日は来客が……」

 言い終える前に、研究室の扉をノックする音が響いた。

 そしてブルーノ教授が何かを言う前に、勝手に扉が開く。

 顔を覗かせたのは、一人の女性と少年だった。

「あれ、君……?」

「姉ちゃん達? あれ、なんでここにいるの?」

 その後ろに控える母親と少年は、あの時エトランゼ地区で知り合った親子だった。

 杖を突きながら、シノは難儀そうに部屋の中に入ってくる。

「シノ君。なんでここに?」

 ブルーノ教授の方に顔を向けると、最初こそ驚いていたものの、すぐににこやかな態度で説明を返してくれた。

「シノ君とそのお母さんのヨウコさんには僕の研究の手助けをしてもらっていてね。彼の不自由な足を魔物の細胞を移植することで再生させる研究なんだが」

「手助けだなんて、そんな……。おかげで歩けなかったシノも、杖を突けるまでになりましたし」

 エトランゼの女性、ヨウコは申し訳なさそうに顔を伏せた。

「姉ちゃん! 約束通りギフト見せてよ、ギフト!」

「こら、シノ!」

 怒られることも構わずにカナタに纏わりつくシノに、困ったようにカナタは視線を泳がせる。

「いいんじゃないか? 僕もエトランゼのギフトに興味があるし……いや、まさかこの研究室を壊しちゃうようなやつじゃないよね?」

「あ、それは大丈夫です。……それじゃあ」

 力を込めて、ギフトを発動させる。

 カナタの手の中に極光が生まれ、それは意志によって思い通りに姿を変えていく。

 勿論、危険がないように切れ味は生まれないように、まずは小さな盾から、今度は棒状のものへと。

「うっわー、凄い! これであの化け物を倒したんだ?」

「う、うん。そうだね」

「触ってもいい? 危ない?」

「大丈夫だよ。ほら」

 差し出された極光を、シノは憧れの何かを見るような目で見つめて、両手で触れていく。

「すっげー!」

 やがて時間切れとなって、カナタの極光は霧散する。

「あれを剣とかにして戦うんでしょ? おれ、見てたんだ! 凄い格好良かった!」

「ふむ。やっぱりエトランゼのギフトは興味深いね」

 ブルーノ教授も感心したように頷いている。

 どことなく照れくさくて、カナタが居心地が悪そうにしていると、シノは目を光らせてこちらを見上げた。

「母さんのギフト、弱っちいんだよ。何もできないし、だからいっぱい苦労してるんだ。でも、姉ちゃんみたいなギフトがあれば色々な人を助けられるでしょ? 母さんだって、苦労しなくてもよくしてよ!」

「……努力、するよ」

 何気なく少年が放った言葉の重みを理解していないのは本人だけで、その場に奇妙な沈黙が訪れる。

 その空気を壊すように、ブルーノ教授はシノに歩み寄ると、その頭の上に優しいが、少し強めに掌を置いた。

「そんな言い方をするものじゃないよ。母さんはギフトなんか関係なしに、君を育ててくれてるじゃないか」

「うん! だからおれも先生のところで足を治して、母さんに楽させてやるんだ!」

「はははっ。それはいい目標だ。それじゃあ、今日も治療に移ろうか。それではヨウコさん、息子さんをお預かりします」

「はい。よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げて、ヨウコは部屋を出ていく。

「君達も。すまないが今日はここまでだ。例の件はこちらで多少探りを入れておくよ」

 その後に続いて、やんわりとカナタとアーデルハイトも部屋を追いだされた。


 ▽


 部屋を追いだされた二人は、その扉の外で手持無沙汰にしていたヨウコを連れて、人気のない中庭にやって来ていた。

 アーデルハイトの案内で訪れたのその場所は学内でも外れの方にあり、特に整備もされていない芝生が伸びっぱなしになっている。

 恐らくはエトランゼであるために居心地が悪そうにしているヨウコに気を遣って、アーデルハイトはわざわざこの場所を選んでくれたのだろう。

「それじゃあ、わたしは一度戻るわ。何処かの誰かさんに朝早くに叩き起こされたんだもの。もう一眠りしたいわ」

 カナタが何かを言う前に、不機嫌そうにアーデルハイトはその場から立ち去っていく。

「あの、お友達はよかったんですか?」

「あはは……。ちょっと今日は朝早く起こしちゃったんで、機嫌悪かったみたいです」

 改めてヨウコの顔を見ると苦労しているのか、美人ではあるものの所々皺が刻まれ、くたびれた様子が見える。

「シノ君の足、治るといいですね。生まれつきですか?」

「エトランゼの排斥活動の時に武器を持って追い立てられた人波に潰されて。ちょっと前までは歩くこともできなかったんですよ」

 ヘルフリートが王位についてから、金も力もないエトランゼは途方に暮れるしかなかった。力による迫害を受けて、住む場所を追われていった。

 元々強いギフトを持っていなければまともに生きていくことも難しいエトランゼにとって、それがどれほどの痛みになったのか、想像もできない。

「でも、ブルーノさんが助けてくれました。エトランゼ街を見回って、身体が不自由になってしまった人にずっと手を差し伸べていたらしいです」

「……凄い、ですね」

「本人は研究のために弱者を利用しているだけで、褒められた行為ではないって言っていましたけど、彼のおかげで助かった人もいるし、シノも歩けるようになりました」

 そこで一度、会話が途切れた。

 中庭を囲う建物の各所からは、生徒達の声や教師が授業をする声が途切れ途切れにここまで聞こえてくる。

 その中にあって、カナタとヨウコは間違いなく異邦人だった。魔法を学ぶことはない、ギフトを持ったエトランゼ。

「カナタさんは、強いギフトをお持ちなのですね」

「……はい。全然、自慢できることじゃないですけど」

 そんなものは所詮、人から貰ったものだ。

 全然誇れるものではない。それも、今のブルーノ教授の話を聞いた後ならばなおさら。

「羨ましいです。そのギフトが。わたしのギフトは弱くて、何の役にも立たなくて、苦労ばかりしてきました」

 掛ける言葉もない。その苦労はカナタもよく判るが、今ここでそれを言ったところで決して納得はしてくれないだろう。

 それに、カナタにはギフトはなかったがヨハンがいた。最初に彼と出会えていなかったら、カナタもどうなっていたかは判らない。

「でも、シノ君はお母さんのことを想いやれる、優しい子だと思います」

 そんなものはただの欺瞞で、誤魔化しに過ぎないが。

 それでも、カナタはそう口にするしかなかった。

「右も左も判らない世界で、シノ君を生んで、真っ直ぐに育ててあげたことは、ギフトなんかの何倍も凄いと思いますよ」

 それは本心からの言葉だが、きっとヨウコが望むものではない。

 彼女はどうしようもないものを求めているのだから。

「そう、ですね」

「足が治ったら、あの子と一緒に遊んでもいいですか? ボク、もうすぐここを離れちゃいますけど、きっと会いに来ますから」

「ええ、お願いします。きっとあの子も喜びます」

 そう言って、ヨウコは不器用ながらも微笑んでくれた。

 ようやく彼女から笑顔を引きだすことができたと、カナタは小さな満足感を得る。

 シノはきっと足が治り、ヨウコと慎ましやかな暮らしをするだろう。もし機会があればイシュトナルに来てもらうのもいいかも知れない。

 そのためにカナタができることは何でもするつもりだった。こういうのも、何かの縁というやつなのだから。


 ▽


 それから少しして、時間が来たということでヨウコはブルーノ教授の研究室へと戻って行った。

 カナタは特にやることもなかったので、アーデルハイトに挨拶をして一度学院から去ろうと考えて、歩き出そうとしてすぐに足を止めた。

 風を切る音が耳に入って、すぐに警戒態勢を取ると、何処からともなく飛来した矢が、カナタの目の前の地面に突き刺さった。

 カナタの目の前に、二つの影がゆらりと揺れる。

 黒装束に、顔には仮面。男と女の二人組の怪しい影は、言葉を発することもなくカナタへと近付いてくる。

「……誰? って聞いて答えてくれる感じじゃないよね」

 その雰囲気は異様で、間違ってもグレンのようなチンピラではない。

 ゆっくりと、音もなく影が踊る。

 気付けばカナタの目の前に一人。

 上から下に振るわれた短剣を極光の盾で弾いてから、反撃に極光の剣を振るう。

 しかし、それはもう一方の女の方が放り投げたダガーによって弾かれた。そのままもう一撃、投擲されたダガーに結ばれた縄がカナタの手首へと器用に巻きつく。

「うえぇ!」

 そのまま引っ張られ、地面に引き倒されるカナタ。

 左手で作りだした剣でもう縄を斬り落とし、すぐに自由を取り戻す。

 すぐさま攻勢に出た男の方と、剣で数度打ち合い、距離を取る。

 相手が次の行動に出る前に、先に動いたのはカナタだった。

 まずはセレスティアルをダガーの形にして、奥にいる女へと投擲する。

 まさかそんなことができるとは思ってもみなかったのか、女の方の動きが一瞬だけ鈍った。

 その隙に背中にセレスティアルを展開して全力で加速。一気に男の方の懐へと飛び込んだ。

 再度剣を生み出して、それを下から上に振り上げる。

 しかし、男の方も大したもので、一瞬のうちにその動作に反応して避けて見せた。

「うそっ、今の避けるの……?」

「殺気のない攻撃など」

 男に足を引っかけられて、カナタは転倒する。

 その間に再び縄付きのダガーが、今度はカナタの両腕に絡み付いた。

「このっ……!」

 そのまま一度黙らせようとカナタの身体を引っ張ろうとした女だったが、急にカナタを引く力が弱まる。

 それどころか全く力が消えたことを疑問に思い顔を上げると、女は胸を矢に貫かれ、血を流していた。

「はいはいそこまで。何度も邪魔して悪いが、こっちも仕事でね」

「……貴様」

 男の方が、忌々しげな声を上げる。

 ぐらりと女の身体が倒れ、その背後から立ち上がる姿があった。

 外套を脱ぎ捨てたその男に、カナタは見覚えがある。アツキ達と一緒にいた、あのアサシンだった。

「雇い主からの命令でね、その子は無事に連れて帰らんと行かんのよ」

「……味方?」

「そうそう。ボスの命令でね、あんた達の味方をすることになった」

 軽口を叩きながら、ゼクスはボウガンを向けると、黒装束の男は一瞬にしてその場から消え去った。

「また逃げたか……。逃げ足だけは速いなー、あいつ」

「超銀河なんとか団の人だよね?」

「そっからヨハンのところに出向ってところだな。で、奴さんの命令であんたの護衛に来たってとこだ」

「……そうなんだ。取り敢えず、ありがと」

 言いたいことや聞きたいことはあるが、今は取り敢えず助けられたことに対する感謝の言葉を口にする。

 ゼクスはそれを聞きながらしながら、倒れている女の死体を探っていた。

「ああ、こりゃルムーロのところの連中だなー。王室付になって羽振りがいいって噂はあったけど、本当だったんだな」

「王室付きって。王様がボクに差し向けたってこと?」

「そうとは限らないけど、関係者なのは確かだろうよ。それにあの動きからしても殺すんじゃなくて捕まえるのが目的だったみたいだし」

「……ピンチになるまで見てたの?」

「そりゃ、うん。そもそも最初に矢を撃ってあいつらを気付かせたの俺だし。俺だって助けたかったけどさ、連中の目的とか正確な人数とか把握するのにちょっと時間が掛かるわけよ。その点あんたから簡単には倒されることもないだろうし……」

 ジト目で見られて、気まずそうにゼクスは言い訳をする。

 それを聞きながら、カナタの頭の中には違和感があった。

 この暗殺者のような連中はカナタを狙った。恐らくその裏にはヘルフリートがいる。そしてカナタは昨日、ヘルフリートと学院長の繋がりを目撃している。

 そして、今日になってカナタが狙われた理由。それはつまり。

「アーデルハイトは!」

「びっくりしたぁ! もう一人の嬢ちゃんのことなら知らないよ。俺の仕事の管轄外だからな」

 もしブルーノ教授に接触したことを知って来たというのならば、その狙いはアーデルハイトにも及ぶかも知れない。

 そう結論を出したカナタは、ゼクスが次の言葉を言う前に、その場から駆けだしていた。


 ▽


「ヨハンさん、大変だよ! アーデルハイトが!」

 そう言いながらヨハンが借りている部屋にカナタが飛び込んできたのは、日が高くなるぐらいの時間帯だった。

 ローブの首もとを掴み、容赦なくがくがくと揺さぶりを掛けるカナタを、一先ずは落ち着けと制する。

「アーデルハイトがどうした?」

「部屋にいなくて……。それで、ボクもなんか変な人達に襲われて……それからえっと……」

「落ち着け。大方の報告はゼクスから聞いている」

 カナタがアーデルハイトの部屋に向かってからゼクスはすぐにヨハンの元に帰還し、事の報告は済ませていた。

「お前から昨日聞いた話も合わせれば、十中八九ヘルフリートとその学院長が裏で手を引いているだろう。だとすればアーデルハイトは一応は学院の側だ。そう簡単に害されるとは思えない」

「そういう問題じゃないよ! 殺されてなくても捕まってたとしたらどうするの!」

「首を絞めるな」

 ぐっとカナタの身体を両手で持ち上げて、椅子に座らせるが、勿論それで彼女が落ち着くわけもなく、座ったまま犬のように吠えたてる。

「アーデルハイトが心配じゃないの!? 早く助けに行こうよ!」

「助けにはいくが、すぐじゃない。お前も今は動くな」

「なんで!? そんなんだからモテないんだよ!」

「……モテないのは関係ないだろう」

 頭を抱えながらそれだけは反論しておく。

「アーデルハイトはずっとヨハンさんのこと待ってたんだよ! それなのにこっちにいる間もちゃんと会ってあげないし、捕まっても知らんぷりするつもりなの!? 人でなし、薄情者! メイド好き! むっつりすけべ!」

「いい加減にしろ」

「痛い!」

 ぽこんと頭を小突くと、それでようやくカナタは多少は大人しくなった。

「誰も助けに行かないとは言っていないだろう。逆に聞くが、昼間から素直に門を叩いて、アーデルハイトを捕まえてないかと聞くつもりか?」

「殴り込みだよ!」

「できるか」

 頭を両手で掴んで前後左右に振り回す。

「ゆーさーぶーらーなーいーでー」

「もし俺達が正面から突撃すれば、学生達に被害が及ぶだけでなく、その姿を見られればオルタリアへの外敵行為と見做されるだろう。もしヘルフリートが絡んでいるとしたら、それが狙いかも知れんしな」

「で、でもアーデルハイトが……」

「落ち着け。アーデルハイトは優秀な、それこそ唯一無二の魔法使いだ。それに対して危害を加えることはまずないだろう。恐らくは、俺達への人質が主な目的だ」

 嘆息して、椅子がカナタに占領されているのでベッドに腰かける。

「俺達がこのまま戻れば、恐らくはアーデルハイトが害されることはない」

 確実にそうだという保証もないが。

「でも……!」

「判ってる。例えそのつもりがないとはいえ、アーデルハイトをそのままにして置くつもりもない」

 話しながら、カナタは会話の違和感に気がついた。

 なんだかヨハンの様子がおかしい。いつもより早口だし、口調も少しばかり荒々しい。

 ひょっとしたら彼は怒っているのかも知れないが、それを確かめる勇気はカナタにはなかった。

「勝負を仕掛けるなら今夜だ。アーデルハイトを救出して、そのついでにキメラの件についても全て白日の下に知らしめる」

「さっすがヨハンさん! ……で、どうするの? 格好良く正面から攫いに行く!?」

「……お前、俺の話を聞いていたか?」

「そこで小生らの出番でござる!」

 ヨハンの部屋の扉が勢いよく開いて、そこから二人の男が飛び出してくる。

 彼等は特に理由もなく部屋の中を転がってから立ち上がり、無駄にポーズを決めた。

「そうよ! この超銀河伝説紅蓮無敵団の団長グレンと!」

「その参謀アツキに任せるでござる!」

 モヒカンと太った男は、自信満々にそう叫ぶ。

 一方のカナタは当然というかなんというか、訝しげな表情でヨハンへと顔を向ける。

「……えー……」

「言いたいことは判る。だが、戦力がないのも事実なんだ」

「あの人使えばいいじゃん。イケメンの人」

「ゼクスには別命を与えてある」

「ふひひっ、水くさいでござるよカナタちゃん。小生達は一度は背中を預け合った仲間ではござらぬか」

「そうだぜお嬢ちゃん! あの時、お前に命を救われて俺は感じたぜ! お互いの中に流れる熱い血の共鳴、そしてソウルを!」

「……ほんとに?」

 再度ヨハンを見る。

「本当だ」

 観念しろと言わんばかりにヨハンは深く、そしてどことなく本人も後悔しているような表情で頷くのだった。

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