第2話 【タケシ】9月27日(月)
僕たちは部屋交換をするにあたってルールを決めた。前例があるわけじゃないので、二人でああだこうだ言いながら二人だけのルールを作り上げていった。
僕たち限定のルールは以下の五箇条だ。
1・見られたくないものはしっかりと隠しておく。
2・覗き見目的で部屋を物色してはダメ。
3・勝手に第三者を部屋に招き入れない。
4・毎晩9時に電話で連絡をとる。その際にはお互いの家の固定電話を利用すること
5・お互いの家を行き来しない。会うこともしない。期間内は別々の生活を保つ。
4番と5番はサリナが特にこだわったところだ。きっと過去の経験から導き出されたものだろう。
もちろん僕に異論はなかった。正直、九時に仕事を切り上げて帰宅するのは難しいかもしれないけど、絶対に守ろうと誓い、僕は今日、その誓いを守ってなんとか九時前に帰宅した。
「それじゃあ、明日もお互いがんばろうね」
その声を最後に電話を切ったのは九時二十分を回ったところだった。となると、僕たちは二十分も話していたことになる。
ラインやSNS系のやりとりがほとんどの今、いつしかだらだらと電話で話すのは苦手になっていたけれど、不思議とサリナとはそれができた。会話のリズムがあう。これは非常に重要な条件だろう。
受話器を置いて高校生のようにベッドにダイブする。ふかふかの枕に顔を押し付けるとミキとは別種の甘い匂いがした。
こんなにもうまく事が運んでいいのだろうか。いや、いいに決まっている。ミキにはそれほどの嫌な思いをさせられた。サリナだって、同等の苦労を強いられてきたのだ。
「もうがっかりするのはたくさんなんだ。人って本当に見た目じゃわからないし、タケシくんにもそれは言える。だからその部屋でありのままの私と向き合ってほしい」
本当に納得だ。人は見た目じゃわからない。
ミキは小学生くらいの身長で、守ってあげなきゃと思わせる雰囲気を醸し出していた。まさか出会い系で寝床を漁っている女だなんて誰もわからないだろう。そんな見た目と裏腹に、実際は相手に対する配慮に欠けた人間で、サリナとは正反対だ。
一方のサリナは見た目で損をするタイプだろう。ぱっと見は錦糸町あたりのホステスのようにしか見えない。でもサリナから香るのは酒やたばこの匂いじゃない。とろっとした南国のフルーツのような匂いがするのを僕は全身で感じている。
僕はキャリーバックから自分の下着を取り出し、ユニットバスへ向かう。途中、サリナのクローゼットに目が留まるけど、当然、僕はルールを守りあさったりしない。
ミキとのことから一週間、僕は安眠とは程遠いところにいたけれど、今日もよく眠られそうだ。
はっきりと言葉にはしないけど、僕とサリナは分かり合えている。
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