第4話 ママ友会
「また会ったな」
「しかし、お前は地味な服装をしているな。今日はパーティーだろ? おしゃれしてこいよ」
「普段の格好でいいだろ。パーティーなんて上品な言い方しているけど、ママ友会だろ? ママの集まりじゃないか」
「そういう小さなことからしっかりと身だしなみを考えないといけないんだ。僕のママと君のママは仲がいいけど、価値観は違いすぎるな」
「価値観だと? 急に難しい言葉を使ってきたな」
「価値観もわからないのか。近頃多いだろ? 価値観の違いで離婚だなんて話がさ」
「離婚というのはわかるぞ。ママとパパが別々に暮らすことだろ?」
「お前の世界は狭いな。離婚っていうのはな、婚姻を解消するってことだ。実際に別々で暮らしていても、離婚していない夫婦もいるだろ。例えば、単身赴任だ。俺のところもそうなんだぜ。パパは出張で遠くにひとりで暮らしてるんだ」
「単身赴任? じゃあ、君はパパと一緒に暮らしてないのか?」
「ああそうさ。ママひとりでなんでもできるんだ。羨ましいだろ」
「……それはどうかな。僕は、いつもパパといっしょなんだ」
「どうせ、ケンカばかりしてるんだろ?」
「そりゃあたまにはケンカするさ。でも、いつのまにか仲直りしてる」
「仲直り? そんなことができるものなのか?」
「だって、ケンカする理由なんて、テレビ番組をどれ見るかとか、コーヒー入れ忘れたとか、洗い物がくさいとかたいしたことないんだ」
「将来のことは話さないのか?」
「将来? 僕の将来のことか?」
「そう。代議士の息子として……とか」
「なんだそれ。僕のママとパパがよく話すのは、あと少ししたら歩けるようになるとか、言葉をちゃんと話せるようになるとか、応援してくれてるんだ」
「応援だ? そんなこと言われたことないぜ」
「というか、君の親、代議士だったんだな。そういえば、君と同じ苗字の代議士、ニュースで聞いたような」
「余計なこと言うんじゃねえよ。ママが暗い顔をしてしまうだろ」
「もしかして、なにか悪いことでもしたんじゃないのか?」
「そんなことしないさ。俺のパパは、世界レベルで有名な代議士なんだ。悪いことなんてしてるわけないだろ」
「別に、僕はそんなことで差別するような人間じゃないから」
「なにいい人ぶってんだよ。俺のパパの名前が出ただけで、驚くくせに」
「知らないね。少なくとも僕は知らないね。君のパパなんてどうでもいいよ。そういえば、この前もらったおむつのことだ」
「ああ、どうだった?」
「履き心地抜群だったよ」
「だろ? これからお前も俺とお揃いにするか?」
「それはできないな。お金がもったいないよ」
「確かに高いけど、いいおむつなんだぜ」
「いくらいいおむつでも、消耗品にお金はかけられない。そんなことに金かけてるんなら、子どもとの時間作りでもすればいいのに」
「は? 急に何言ってんだ? 主婦きどりか?」
「ママが言っていたことだよ。おむつは消耗品。高いのなんていらないっていうのが僕の家庭だ」
「そうか。それは残念だったな。いつまでも貧乏ごっこをやるといい」
「どうしたんだよ。そんなに怒ることないじゃないか」
「別に怒ってなんてないさ。お前が貧乏くさいことばかり言ってるから疲れただけさ」
「貧乏貧乏ってうるさいな。僕はこれでも毎日楽しいんだ。ママもパパも笑ってるし、それでいいじゃないか」
「うるせえ。貧乏人は黙ってろ」
「なんだよ」
「ふん」
◇◆◇
「君が怒ってる理由わかったよ」
「なに?」
「君のパパ……」
「言うんじゃねえ。ママが悲しむだろ」
「だから君のママ、みんなに避けられてるのか。君のママがいないときに、みんなこそこそと話してたよ」
「別にママが悪いわけじゃないだろ。そんなことで避ける他のママのほうがおかしいだろ」
「それはそうだけど」
「所詮、君のママも他のママと一緒だろ。陰で俺のママの悪口を言ってるんだ」
「そんなことないよ。僕のママは誰の悪口も言わないから」
「うそつけ。女は怖い生き物だってママが言ってたぞ」
「それは僕のママも言ってるよ。でも、僕のママは人のことをとやかく言う人じゃないんだ。だから、誰にでも優しいんだ。君のママとも仲良くしてるだろ」
「それはそうだな」
「もう君のパパのことを訊いたりはしないよ。悪かったよ」
「……」
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