第2話 お風呂体験
「よう!」
「なんだ、君か」
「このガラガラは、この前買ってもらったやつか?」
「そうだよ。いいだろー?」
「羨ましくもなんともないね。俺はそんなので喜ぶほど幼稚じゃないからな」
「そんなこと言って、お風呂入りにきたんじゃないか」
「それは俺がお風呂に入りたいから来たんじゃねえよ。俺のママとパパが俺を正しくお風呂に入らせるために体験しにきたんだ」
「正しくお風呂?なんだそれ」
「赤ちゃんっていうのはな、自分ではなんにもできないだろ。だから親にお風呂に入れさせてもらう。そのときにお湯が熱すぎたり、お風呂で溺れたら、大変なことになってしまう。だから、親っていうのは正しい入浴法というのを勉強しなくてはいけないんだ」
「お風呂っていうのは大変なのか」
「そうだ。お風呂は危険なんだぞ。くれぐれも、暴れるんじゃないぞ」
「お風呂は痛くないからね。暴れるどころか、泣いたりもしないよ」
「そうか。泣き虫君が泣かないとは、雨が降るんじゃないのか?」
「僕が泣かないときは、雨が降るのか?」
「なに、雲一つない青空みてんだよ。たとえ話も知らないのか」
「君はどうして雨が降るのか知っているのか?」
「ああ、知ってるとも。それは、水蒸気がかたまって、重くなったら落ちてきているんだ」
「水蒸気?」
「お前が垂らしたよだれは、時間が経つと乾くだろ? これは、水蒸気になって空にいっているからなんだ。その空にいった水蒸気のかたまりが重くなって、地面に落ちる。これが雨なのさ」
「つまり、僕のよだれのかたまりが雨ってこと?」
「……と言われると気持ち悪いな。でも、そんな感じだ」
「おっ、なんか始まったぞ」
「裸になるのか。めんどくさい」
◇◆◇
「気持ちいいなー」
「こんな小さな桶の湯で喜んでるのか」
「いつもどういうお風呂に入ってるんだよ」
「俺のお風呂は大きいんだぜ。パパの抱っこで入ってるんだ」
「僕だって、たまにはパパの抱っこでお風呂に入ってる」
「お前のパパ、足を曲げて入ってるだろ? それは小さいお風呂。俺のパパは、泳げるほど大きなお風呂に入ってるんだ。俺はその大きなお風呂の中で、湯の景色を堪能してるんだ」
「赤ちゃんなんだから、小さくても大きくても入れるは入れるだろ」
「なあに。大きいお風呂のほうが入り心地がいいだろ」
「君のお風呂は、このお風呂のように透明じゃないのか?」
「ああ、そうだけど」
「僕のは、色がついたお風呂なんだ」
「色?あー、浴槽の色のことか」
「違うよ。お湯の色のことだ」
「お湯の色? お湯と言うのは水を温めたものだ。色がついているわけないだろ」
「ついてるんだよ。僕のお風呂には、温泉のような気分と匂いが味わえるんだ。大きいだけじゃ、できないことができるんだよ」
「温泉のようなって、温泉に行けばいいだろ」
「温泉に行く余裕のない人だっているんだ。だから、温泉気分を家で味わってる。いいだろ?」
「お金のない人は、これだからね。温泉は温泉。温泉のような気分じゃなくて、温泉の気分を味わいたいね、俺は」
「あっそ。わかってくれなくてもいいもんね。あー、温泉気分じゃないけど、気持ちよかった」
「あー、小さい桶の中だから微妙だった」
◇◆◇
「俺はもう寝るよ。お前、ばたばたしてないで着替えろよ。湯冷めして風邪ひくぞ」
「お風呂上りは気持ちいいんだ」
「じゃあな、おやすみ」
「おやすみ。僕もママに抱っこされたら眠くなりそうだ」
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