第1話

柔らかな太陽の光が照らす。

目を開ければ眼前には限りない青い空が広がる。

心地よい風が微かに草を揺らす。

ここ、王都セントランの郊外にある低い丘でクロエは目を閉じ横になっていた。

戦争から一年の時がたち、戦場から遠くもあったこの地の人々の間ではその話題も陰りを見せた。

それでも未だに勇者であるクロエの活躍は酒宴の席なので発せられることがたびたびある。


微かな足音にクロエは気づく。それはだんだんとこちらに近づいて来た。

軽やかな女性のもの。思い当たるのは一人だけ。

彼はそのまま起き上がることもなくそのままじっとしていることを選んだ。

少しして声がかかる。

「やっぱりここにいた。」と。

声を発した人物は少し怒ったような顔をしている。

「またこんなとこでさぼって、ねぇ聞いてるのクロエ。」

女性はクロエの顔を覗き込む。

このまま寝たふりをしててもばれると観念したクロエはため息を吐きながら目を開く。

そこにはショートカットのりんごのように赤い髪をした女性がいた。

クロエと同じく20歳になる彼女は大人びながらも顔は僅かに幼さを残している。

そんな彼女にクロエは

「さぼったなんて人聞きの悪い。今日は何もなかったはずだぞレイア。」

と機嫌悪そうに言い放つ。

すると彼女、レイアと呼ばれた女性は頬を膨らませながらますます怒った様子になる。

「今日はわたしの剣の稽古に付き合ってくれるっていったじゃない。」

それを聞いたクロエは思わず口を開け「あっ。」と発する。

しかし、すぐさま顔を取り付くろい

「そんな約束はした覚えは・・・」と頬をかきながら小さな声で言う。

目の前の彼女の顔は赤らみそして

「クロエのばかぁー。どうせ私なんか・・・」と膝を崩しその場で泣き出してしまう。


クロエにとってこれは毎度のこととなりつつあるやり取りである。

けれども彼女をこのままにしておくわけにもいかず彼は立ち上がり彼女の頭に手を置く。

「悪かったって、今から付き合うから。あっ今度レイアが行きたがっていたお店にも一緒に行くからな。もう泣くな。」と彼女の頭を優しく撫でながら言う。

するとレイアは泣き止み、「ホント?」と潤んだ瞳でクロエを見る。

「あぁ、約束な。」と笑を浮かべながクロエは言う。

そして手を彼女の前に持っていき小指を立てる。

レイアも手を出し小指を立て契る。

ようやくレイアの顔に笑顔が戻る。


レイアは立ち上がりくるっと反転し「でも、」と続ける。

「みんなに尊敬される勇者様がこんななんてねぇ。」

とため息混じりに言う。

クロエは何も言えず気まずくなる。

それを言われるとすごく弱ってしまうのである。

本音を言えば一日中でも寝ていたい。

しかし、5年前レイアの父であり貴族でもあるコーランと出会い王都へ連れられて来た。

ここで暮らすにあたりクロエは彼に養ってもらっている立場にあり彼の頼みは断れない。

用がないときもあるがそんな時はレイアとの約束がある。

普段忙しい彼にとって内心悪いと思っていてもついここに来てしまうのだ。


そしてまた反転しレイアは言う。

「あと、お父様が王宮に来なさいって。」

クロエの顔つきが変わる。よっぽどのことがないかぎり王宮に直接行くことはないからだ。

普段はコーランの部屋で話を受ける。なのでこれは王からの命令があるとクロエは思った。

そんなこと考えてると、

「だから、稽古は中止だね。」と残念そうにレイアは言った。

そんな暗くなった彼女にクロエは

「何か俺にして欲しいこと考えとけ。なんでもするからさ。」と声をかける。

レイアの顔が晴れ

「なんでもいいのね。」と興奮ぎみに言う。

その気迫に押され、まずいと思ったが彼女はすでに何か呟きながら考えている。

ときどき、嫌な単語も聞こえてきた。

そんな彼女をおいてクロエはどんよりとしながら歩きだし、彼女に

「まともなの限定なと。」言って王宮に向かう。

少し離れたとこまでクロエが丘をくだるころ

「今度は必ず来るようにってお父様が言ってたからね。」とレイアが気づいたように叫んでいた。

それを聞いたクロエは「まだそれを引っ張るのかよ。」と一人呟きますます足取りが重くなるのだった。

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勇者と魔剣の輪舞 ステフ @sheira

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