勇者と魔剣の輪舞
ステフ
プロローグ
空は荒れ重厚な雲が覆う。
大地には怒号や悲鳴があちこちを飛び交い多くの屍が転がっている。
屍は人間だけでなく、異なる風貌のものもある。
角や尻尾が生えていたり、獣に似た顔だちのものも。
人はそれらのものを魔族と呼んだ。
その魔族と人間の間で戦が起こりはや二月が流れた。
そしてその戦いも終幕の様相を呈していた。
もともとは森であっただろう地。
辺りは木々は倒れ、燃え上がった火が覆っている。
中心には大きな城がなんとか形を保ちながら建っている。
その城の最上部にある玉座の間で二人は長らく対峙していた。
黒い髪を乱しながら剣を握る青年。
その瞳に映るは、金色の髪を揺らしながら不敵に笑う女性。
気をふるわなければ意識を刈り取られそうになってしまう美しさを持つ彼女。一見、人間と思える容貌だが開けた背中からは翼を宿していた。
その彼女が沈黙をやぶった。
「さすがにやるのー、勇者よ。」と目の前の青年に言う。
続けて、「だがその分ではもう限界じゃろ。」と。
勇者と言われた青年の衣服ボロボロになり、体には傷ややけどが絶えない。
傍から見れば倒れてもおかしくない状態であろう。
だが彼は彼女の言葉を一笑し言う。
「三人の高魔族も仲間が倒したし、外のやつらも残りわずかだ。まずいのはあんただろう魔王。」
問いかけられた魔王はしかし変わらず笑を浮かべている。
「われが一人いれば十分よぉ。お主もお主の仲間も屠ってくれるわ。」と両手を掲げる。
彼女の手の先に光が集まりだしたかと思うと、瞬く間に巨大な火炎の球が浮かんでいた。
そして手を振りながら「先に行くがいい。」と叫んだ。
青年の頬を血が伝わる。彼は目を閉じた。
すると一人の女性や男性の姿、数人の人たちの姿が浮かんでくる。
(守りたいやつがいる・・・信じてくれるやつがいる・・・)
彼は目を開いた。
(だから俺は・・・)
瞳に光が宿る。それと同じくして彼の手にしている剣が強い光を放っていく。
「俺はみんなのために負けるわけには行かない。」と火炎に向かって駆け出した。
勢いをつけ、床を強く蹴り飛びだった。
剣を強く握りしめ構える。
そして迫り来る火炎を切りつけた。
火炎は二つに切り裂かれた。
そのまま彼は進み魔王に迫る。
彼女は目を見開き驚愕する。
「これで終わりだー。」と叫びながら勇者は魔王を一閃した。
そして彼は弧を描くように地に着地する。
魔王、彼女の腹部からは鮮血が吹き出し、体は地に落下し衝突した。
床には衝撃でクレーターができている。
勇者はそこへゆっくり近づいた。
彼女が横たわっている姿がそこにはあった。
吐血しゆっくりと口を開けた。
「ここまでとはな・・・勇者よ。」
体がどんどん透けていく。「だがお主はきっと人間を救ったことを後悔するだろう。」
勇者は怪訝な顔をする。
「どういう意味だ?」と彼は問う。
「さてのぉ。我はここまでのようだ。さらばだ。」と答え彼女は笑を漏らす。(これで・・・ったの。)
そして消えた。
勇者は何かを言いかけ手を伸ばしたが止まった。
彼は一瞬考えたがすぐにやめた。そして火炎で壊れた壁に歩を進める。
そらは見上げると、雲の隙間から光がさしていた。
勇者は剣を掲げ勝どきの声を上げた。
すぐさま辺りは人間の声と熱気で埋め尽くされる
そしてそれはしばらく止むことはなかった。
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