第2話『こんな物騒な異世界ってあるんですか⁉︎』
「君……君、大丈夫かい?」
カシスは女の顔を覗き込みながら問う。
「ここは……どこ……?」
女が目を覚まし呟いた。
「そりゃあこっちが聞きたいね」
カシスは頭をかきながら言う。
「貴方は……?」
と、女は不思議そうに言った。それはそうだ。
知らない男性と何故こんなところにいるのか。不思議である。
しかし、女は一つのことを思い出した、いや思い出してしまった。
「あっ‼︎ラスラ……皆んな……っ!」
と言って女は顔を落としてしまう。
「あの……君?なにか気を落としている時にすまない。聞きたいことがあるのだが」
女は顔を落としながら、ええ、良いわよと答える。
「ここは……どこだ?」
女は顔を落としたまま、
「何処かの森の中なんじゃない……?」
と呟いたが、
「いや、俺が聞きたいのはこの世界だよ」
その時女は顔を上げた。
「あなた……何言ってるの?ここは武装と魔法の世界、デファリエスでしょ?」
その次の返答は女は完全に予想していなかった。
「何処だ……そこ?物騒な世界だなぁ……?」
「貴方……ふざけているの?」
カシスは頭を横に振り
「いいえ?全くの本心ですが」
女はため息をつき言った
「一応聞くわ。あなた、出身はどこ?」
「えっと、地球の日本ってとこ」
「そっちこそ何処なのよ……」
女はそんなのありえないと言いながら頭を横に振る。
「そういやぁ君の名前を聞いてなかった、教えてくれるかい?」
カシスが言う。
「本当は嫌なんだけど……しょうがないわね
ミリエラ=ヴァルアインスよ」
ミリエラと名乗った女は次は貴方よ、と言いたげな目で見てきた。
「あ、あぁ、俺は
「で、なんだが……何でお前は狙われてるんだ?」
カシスが意味のわからないことを言う。しかし、狙われているのは事実。
「なんで……それを知ってるの?」
ミリエラが王女という事はカシスにはまだ言っていない。
言っていないので彼が知るはずがない。
「だって、周りの木に3人いるじゃん」
カシスがそう言った途端、周りから3人の人間が飛び出して来た。
「え?嘘っ⁉︎」
ミリエラはもうダメだと思った。カシスが何故気がついたかは知らないがカシスは普通の人間。勝てるわけがない。相手は特殊訓練を受けた兵、しかも奇襲ときた。
(皆んな……ごめん——私ここで死ぬかもしれない)
ミリエラが思った途端、カシスが心を読んだようにミリエラの耳元で言った。
「大丈夫。君を死なせはしない」
ミリエラがその言葉の意味を知る前に——戦闘が始まった。
その時、気づけたのはきっとミリエラだったからだろう。
カシスの漆黒の左目が真紅の色に変わったのに気がついたのは。
敵兵3人は右、左、真ん中の順番で近い。
敵兵の武器は全員短剣、ダガーと言われる武器。
まず右の兵が短剣を心臓目指して突こうとする。
カシスは3呼吸してから行動を開始した。
心臓目指して突かれた右の兵の短剣の腹を叩き、
軌道をそらしてから右の兵の腹に一発お見舞いする。
右の兵は音もなく地に倒れる。
左、真ん中の兵はそれを見て距離をとる。
しかしカシスはステップを踏み、耳をすまさなければ聞こえないような声で言った。
「≪加速せし・精霊よ≫」
その瞬間、その場所にカシスはいなかった。
更に、左の兵が不意に後ろに飛んだ。
左の兵が元いた場所其処にはカシスがいた。
これまで数々の魔法を見てきたミリエラは分かった。
あれは加速魔法、それも最上級術式。
通常はあの呪文はこの世界の最高位の魔術師でも6節で唱えなければいけない。
それをカシスは2節で唱えた。
カシスはゆらりと真ん中の兵へ狙いをつける。
「あ……あぁぁ……あぁ……し、死にたくない……」
真ん中の兵は完全に戦意を喪失している。
「≪幻想よ・眠りに誘え≫」
カシスがまた唱えた。今回もミリエラはその魔法に覚えがあった。
あれは幻術魔法の類の物。
しかし、相手を眠らせる魔法というのは相当上位のはずだ。
それをカシスはまたもや2節で唱えた。
ミリエラはカシスに戦慄を覚えた。
カシスはミリエラの所に歩いてくる。
「ミリエラ、大丈夫?」
と、手を差し伸べてくる。左の目は元の漆黒に戻っている。
「カシス……あなたは一体……?」
するとカシスは肩をすくめて言った。
「さぁ?俺はただの異世界転生者だよ」
——空には翠玉色の月が浮かび、カシスを明るく照らした。
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