王都包囲
「おお、ジェド殿。見事な戦いぶりであった!」
北東より近づいてきたのはゲオルグ卿の手勢だった。先頭に立ってこちらに合流してくる。
「お褒めに預かり恐悦至極」
「うむ、かなり急がせたのだが、我らが到着する前に敵軍を撃破するとは見事としか言いようがない」
どうせ様子をうかがっていたに違いないが、ジェノバへの過剰な借りを作らずに済んだのである。むしろジェド様が単独で敵を撃破したので、恩を売れないと慌ててやってきた公算が高い。
ジェド様もそれをわかっているようで、あたしにしかわからないくらい、わずかに肩をすくめていた。
ラフェルの手勢は町長に任せていったん引き返していった。数は減るが精鋭の高原騎兵がジェド様の周囲を固める。
ドーリアのバラス派の手勢は壊滅した。築き上げたネットワークを利用して情報を流す。それにより各地でバラス派に押さえられていた領主たちが挙兵する。形勢は一晩にして逆転したのだ。
ドーリア王都を望む小高い丘にはこれまでジェド様が水面下で取りまとめていた国王派の勢力が集結している。バラスは残された手勢で王都に立て籠もっている。
内戦ではあるがジェノバの兵も加わっている。良くも悪くもドーリアは元通りにはなれない。
けれどもはや後には引けないし、バラスを討つ意外に進むべき道もない。
などと思案に暮れていると、諸侯勢の中からごっつい男がにこやかな笑みを浮かべてやってきた。
「兄上!」
「おお、ゲオルグ、久しいな」
兄……上? 似てない!?
「ああ、シェラ。こいつはゲオルグで、弟だ」
「兄上の護衛騎士の方ですか?」
「うむ……まあ、そんなものだ」
ジェド様は微妙に口ごもる。
「兄上?」
大男はキョトンとしている。
「それはそうと、王都内部はどうなっている?」
「ええ、バラスの残存兵力1500が立て籠もっています。ただし、外壁を守るには兵力が不足しており、そこを突破するのは難しくはないでしょう」
「王宮に立て籠もられたら厄介だな」
「まあ、敵もそう考えますよなあ」
「包囲しつつ精鋭で侵入しかないか」
「此度は私も参陣しますぞ?」
「いや、お前は包囲の指揮を執れ。盟主としてな」
「や、ここまで戦いを引っ張ってきたのは兄上ではないですか?!」
「俺はすでにドーリアを離れている。仕上げはお前がやるのだ」
「兄上!」
「俺の未来はすでにこの国にはない。すでに閉ざされた。だがお前はそうではない。俺にできないことをお前が果たすのだ。頼む」
「……わかりました」
ゲオルグ卿は絞り出すような声で答える。その表情は苦渋に満ちている。
「私は、兄上を救いたいと、その名誉を回復するために戦ってまいりました。けれどそれは余計なことなのですね?」
「すまないな。だが俺の新たな生き方はすでにある。今は祖国への恩を返すためにここに在るが」
「ええ、何となくわかりました。なれば私は、兄上が心気なく新たな道に進めるよう全力を尽くしましょう」
「ああ、頼むぞ」
「はい!」
城壁は難なく突破された。こちらが兵を展開させると城壁上の敵兵はすぐに姿を消し、スカウトの技能を持つ冒険者数名の手に寄り城門は開け放たれた。
すぐに城内になだれ込み、王宮前の閲兵場に兵を展開させる。王宮の門は固く閉ざされ櫓には弓兵が上がっている。手勢を近づけると応射してくる。腕のいい兵を揃えているようで射すくめられて近寄れない。少なくとも城門を破るには相当の犠牲がでる事が予測された。
「ふむ、まあ予想通りの事態ではあるな」
「して、どうなさる?」
ジェド様とゲオルグ卿が今後の方針を相談し始めた。
「ゲオルグ卿はジェノバの手勢を率いて周辺の治安維持に当たってもらいたい。外部からバラスの残党が増援にやってくるかもしれぬ。そうなれば我らは逆に袋のネズミとなる」
「ふむ、まあ、そうよな。承った」
「ありがたい」
「ゲオルグ。諸侯の兵を取りまとめ閲兵場を封鎖せよ。出入りを塞げ」
「承知!」
「俺は最精鋭の手勢を率いて王家の墓より城内に潜入する」
「わかりました」
「ふむ、大公のご期待に背かれぬようにな」
そしてあたしたちはドーリア王都の北西にある王家の墓へ向かった。
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