クラン設立

「なんだこれ……?」

 あたしのつぶやきは虚空に溶けて消えた。

 って別に文学的表現がしたかったわけじゃない。ジェド様がギルド経由でクランの立ち上げを宣言した。同時に大公とのやり取りがひそかに出回っており、あの大公を後ろ盾にしたとのうわさが広まった結果、ギルドには参加希望者がうんあの如く押し寄せているのである。

 多分にというか間違いなくギルドマスターが手を回したのだろう。商人なども資金提供を申し出ている者も多い。

 アルフたちがてんやわんやで参加希望者の情報を聞き取り、記録している。そんな連中と面談をして参加を認めるかの判断をしないといけない。うん、気が遠くなってきた。

「シェラ! お前も受付してくれ!」

「了解!」

 若い女とみて与しやすいと思ったのか、あたしの前にも人が並び出す。

「じゃあ、ここに名前を。それと得意な武器とランクを書いてね」

 まだ年若いその冒険者は素直に書類に記入してゆく。よく考えたらすごいことだ。ドーリアでは半分以上の冒険者が読むことはできても書くことはできなかった。

 依頼書を読まないと仕事ができない。そして、代読では騙される危険がある。故に冒険者となるにあたり、読み書きの講座が開催される。ただし無料ではないため、その資金すらない駆け出しが騙される事案が発生し続けている。

 ここジェノバでは、後払いで読み書きほか、初期知識の講座が受けられる。それによって、駆け出しの死亡率は大幅に下がるのだ。冒険者によってなる国ならではの発想であろうか。


「だあああああああああああああ……」

 アルフがだれている。こっちもくたくただ。ジェド様はしれっとしているように見えるが微妙に目が死んでいる。

 まあ、一番相談を受けていたのだから当然か。大量の資料を抱えて同時進行で頭を抱えていた。

 さて、テーブルの上には山のような資料が積みあがっている。書かれている情報が本当かはわからない。まあ、ギルドカードとのすり合わせを行うことである程度はわかるし、ギルドランクである程度の実力は計れる。

 実力以外の部分が重要になる。というのは祖国を取り戻すためには信頼できる人材がいるのだ。そしてそういった信頼関係って言うのは、修羅場をくぐることで培われるのだ!(断言

 さて、テストを執り行うことにした。各自がなんかいろいろな項目を出し合う。

 リースの考えたテストはなかなかにえげつなかった。待合室に金貨を落としておいてそれに対する対応を図るというものだ。懐に入れた者は問答無用で落選。まあ、ある意味妥当かなあ?

 実際問題このテストで3割くらいは弾くことができた。まあ、金に汚いのは願い下げである。

 ほか、大公に頼んで回してもらった騎士団の採用プログラムを使い、面接を実技テストを行う。

 後は資金提供を申し出てきた商人と話をして、見返りについての希望を聞き入れる。大公への紹介は謹んでお断りとなったそうで、ごっそりと希望者が減った。

 というか、むしろそれでも残った商人がいたことが驚きだ。

 ドーリア出身の商人が多く、祖国の情報が入ってくると、ジェド様は舞うを潜めて考え込む時間が増えた。

 彼らには新たなドーリア政府で政商としての身分を提示している。実際問題として空手形っぽいことこの上もない。それでも協力を申し出てくれた彼らには感謝しかない。

 彼ら自身が見返りを求めているとしてもかなり分の悪い賭けになる。そのうえでジェド様に賭けてくれたのだ。ならばあたしたちがジェド様を助けることで、彼らの目が正しかったことを証明するのだ。


 そうこうしてすでに3か月。構成員も決まり、クランの立ち上げが宣言された。マスターはジェド様。サブマスターはアルフ。あたしとリース、レザはマスター直属のメンバーとして発表された。

 こうして、あたしたちはジェノバ最大のクランの構成員となってしまったのだ。まあ、あれだ。どうしてこうなったんだろう?

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