会談
「何のおつもりです?」
ジェド様の声は硬かった。それはそうだ。意味が分からない。
実際問題として、強い者を求めているのであればそこのゲオルグ卿で事足りる。
指揮官としての技量であってもジェド様より上の実力を持った者がいないということはないだろう。将来性と言っても今回はほとんど活躍らしい活躍はしていない。
アルフが実際の攻撃の指揮を執っていたので、ジェド様と同時に彼を取り込むのであればわからなくはないが、そもそも主従関係ではない。直接アルフと交渉すればいいだろう。
あまり良くもないあたしの頭をフル回転させても結論などは出るわけもなく、ふと目線を上げると大公が苦笑していた。
「まず、一つ詫びることがある。お主が追放された一連の陰謀だがな、とばっちりなのだよ」
「「「はい??」」」
「うむ、実はドーリア王国に当国を攻める動きがあったのでな、まあ、あっても小競り合い程度なのだが、正直無駄にコストがかかるのでな」
「それで?」
「主戦派の勢力を削るために謀略を仕掛けたら、アホ極まりない主戦派が想像以上の暴走を見せてな。事実上クーデターまがいの状況なのだ」
「情報は断片的にですが取得しておりました。王は幽閉されバラスが専横を振るっていると」
「まあ、あれだ。逆にあそこまで混乱すると交易などの利益に支障が出る。正直なところな、あのバラスを排除するという点において利害が一致するのだよ」
「俺を旗頭にしてドーリアを傀儡国家にするおつもりか?」
「さて、黙って傀儡になってくれるようなやわな国か?」
「うむむ」
「君の家柄と境遇であれば、王を奉じて反抗するにちょうどよいと思ったのだがね」
「私は盤上の駒ですな」
「まあ、ありていに言えばその程度の認識だ。それがポーンなのかナイトなのかはわからないがね。実はキングというオチもあるな」
「それは買いかぶりでしょう」
「だがね、君の周囲の人材は素晴らしい。君単独であればこの話はなかった。故に仲間の皆もこの場に来てもらったのだ。ゲオルグの闘気を浴びても反撃を試みるような貴公らにな」
「それは……光栄の極み」
「それにだ、貴公の護衛の女戦士はクィーンになりうる。それをよく覚えておくがよいだろう」
「は、は?」
「ひゃい!?」
唐突にあたしが話題に上って驚きの声を上げてしまった。
「それでだ。今の話を踏まえたうえで重ねて問う。我が配下にならぬか?」
「我が忠誠は陛下のみにある。ドーリア騎士の端くれとして、ニ君にまみえることはできぬ」
「ふむ、なれば如何にする。今のお主の力では祖国を取り戻すこと能わぬ」
「ですね。正直殿下の御助力は喉から手が出るほどほしいのが実情です」
「ふははははは、自分の弱みを晒すか。正直だな」
「オルレアン公にはこれ以上のご迷惑をおかけできぬ。それに、私の手の内などすでにご存じでしょうに」
「違いない。すまんな、試すようなことを言ったこと。許せ」
「許すも何もないでしょう。妥協案としてですが、客将として働かせていただくのはいかがでしょうか?」
「ふむ?」
「国王派をまとめ上げるための旗頭として利用されましょう。代わりに私は親ジェノバ主流派としてまとめ上げましょう」
「その条件で助力しろと?」
「であれば、一方的に借りを追う形となります。投資という形はいかがでしょうか?」
「ほう? ものは言いようであるな」
「そこは否定しません。ですが私の名に箔が付きます。あの大公が投資をしたと」
「ふむ、そうなれば貴公のもとに……」
「そう、虚名でも利用できるものはするべきでしょう」
「面白い。まず何が必要だ?」
「資金を。あとはクラン設立の許可を」
「ふむ、冒険者をまとめ上げるか」
「この国ではそれが一番手っ取り早いでしょう」
「いいだろう。ギルドに通達を出しておく。ジョゼフ経由で資金を提供させる。あとは、この印綬を授ける」
大公から受け取った印綬をゲオルグ卿がジェド様に手渡す。
「こちらは?」
「大公の一族であるということを示すものだ」
「そのようなものを!?」
「お主は面白い。我の義弟となれ。主従ではなく、個人としての付き合いを望むが如何?」
「我が信念に反しないのであれば、お受けしてもよい」
「ふふふ、我との個人的つながりはそれこそ王族が頭を下げてくるのだがな」
「私は私の信ずる道をゆきます」
機嫌よさげな大公の笑い声に見送られ、私たちは居室を後にした。
ジェド様がなんだか遠くに行ってしまったようだった。
「シェラ、少しばかり疲れた」
「ああ、久しぶりですねえ。あんなにしゃべったの」
「うむ、今日は速めに休むよ」
普通ならば有頂天になってもおかしくはない。あの大公からの助力を取り付けたのだ。
けれどジェド様は自然体だった。今回はこれが功を奏したのかもしれない。
クラン設立や、反バラスのための活動などやることはいくらでもある。それこそ寝る間もないかもしれない。だから今日はひと時の休息をとることにしたのだった。
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