陰謀のオーク討伐戦
「オークどもの討伐?」
「そうね。オルセリア家が軍を出して、オークの巣穴を焼き払うんだって」
「そんで? あたしにどうしろって言うのよ?」
「騎士様だからね、物見がいないんだって。今回は嫡子のジェラルドさまが指揮を執るみたいでね」
「ふーん、少なくとも周囲の確認をしようってだけマシじゃないか」
「報酬も悪くないのよ。どう?」
「んー……乗った!」
ギルドのなじみの受付嬢に仕事がないか聞きに行ったその日。あたしの運命は動き出した。
「止まれ! 何者だ?」
「ギルドからの紹介で従軍する冒険者だ。シェラザードという」
「ギルドカードを見せろ……なるほど、たしかに。失礼した」
驚いた。騎士様と言うのは尊大で、あたしら冒険者なんぞちり芥程にしか思ってない奴が多い。
「私はジェラルドさまの副官で、ロカという。よろしく頼む」
「あ、ああ。こちらこそ」
「案内しよう。こちらへ」
あたしはロカの後をついてゆく。今までの習い性から周囲への警戒は怠ることはない。
冒険者が集まる陣屋に案内された。移動しながらって言ってもそれほど広い陣じゃない。すぐに目的地に着いた。
オルセリア家は元々は王家につながる名門で伯爵家だ。だが先代伯爵が国境の小競り合いで敵の奇襲を受けて戦死。跡継ぎの嫡男がまだ若輩と言うことで家督相続を保留されている。
そして、街道沿いにオークが集まり、行商人や近隣の村に被害が出ているとの報告を受け、討伐軍を編成した。
騎士10名、歩兵150と冒険者が50人と200を超える兵力で、オークの数は100ほどらしい。オークは巨体で繁殖力が強く、一度集まると周辺の動植物を食い荒らす。その捕食対象は人間も含まれる。要するにオークの被害に遭うということはそういうことだ。
簡単な武器を使うため、並の兵では1対1では厳しい。冒険者も腕はピンキリであるが、アイアンクラスのものが多く、オーク相手に遅れは早々取らないだろう。
「シェラザードだよ。クラスは盗賊。よろしく頼む。武器は短剣、ショートボウ、スローイングダガーだ」
「よろしく。この臨時パーティのリーダーのアルフだ。クラスは剣士。片手剣と盾を使う。こっちは白魔導士のリース」
「よろしくね。シェラザードさん」
「シェラでいいよ。よろしく頼む」
「私は黒魔導士のレザ、よろしく頼む」
「ああ、こちらこそ」
話を聞いて驚いた。このアルフってやつ、年は私より一つ上だけども、クラスはスチールの上位、もう少しでシルバーに手が届くらしい。あたしはアイアンである。
ちなみに、冒険者のランクはノービス、ブロンズ、アイアン、スチール、シルバー、ゴールド、ミスリルがある。さらに上にはオリハルコンなんてのもあるらしいが、ここ100年くらいは出てない。
アルフとリースはヒューマンだが、レザはエルフらしい。わたしは猫獣人だ。夜目が効き、敏捷さに優れる。
ほかにも犬獣人、熊獣人、リザードマンなどがいる。神話によるとはるか昔大魔王と女神が相争った。魔王に与した者と女神に従った者は光と闇の陣営に分かれて激しく戦ったらしい。
魔王の加護を受けた者は彼らだけに通じる言葉を離し、光のものとは意思疎通ができない。本能的に闇は光を憎み、光は闇を忌み嫌う。そういうものだという認識でこれまで生きてきたのだ。
ここドーリア王国は森と川が国土の大部分を占める。森を切り開き、その恵みをもって暮らす人々が多い。また、貴族や王族はエルフである。長命な種族である彼らは変化を嫌い、歴史と伝統を旨に生きていた。
「諸君、オーク討伐軍への参加、ありがたく思う。手柄をたてた者には篤く報いるがそれもまずは生きて戻ることが先決である。諸君ら勇士はオークごときと引き換えにするには惜しい。奴らを軽く片付けて生きて勝利の祝杯を上げよう!」
いかにも、ざ・貴公子って感じのエルフの青年が宣言する。兵を使いつぶさないっていう言い分には好感を持った。けれど貴族様だからね。あたしたちとは住む世界が違う。
「3部隊にわかれてオークの退路を断ち、一気に殲滅する。本隊はジェラルドさま率いる80名。もう1部隊は騎士バラスが率いる80名、搦手を冒険者諸君に任せる。我らが攻め寄せて逃げてくるオークを迎え撃つのだ」
「へえ、矢面に立つ気なんだ」
「まあ、手柄立てないと家督継げないらしいしな。焦ってるんだろ」
「ふーん。まあ、偵察を命じられてるから後で行ってくるよ」
「ああ、そうそう、これを持っていけ」
「これは?」
「匂い消しだ、奴ら鼻が利くからな」
「なるほど、ありがたく」
あたしは親指を立ててアルフに感謝の意を伝えた。そのまま数名の冒険者と偵察の任に付く……そこでふと気づいた。あまり評判の良くない連中が混じっている。冒険者と言うよりもごろつきっていうような奴らだ。いやな予感がしたので、そのことを心にとどめておくことにした。
木の上からオークの集落を見る。数は……おかしい。少なすぎる。それどころか棍棒を手に数名ごとにまとまって集落を出ようとしている……方向は本隊の方だ。
どうする? オークどもの考えていることなんてわからないけれど何か嫌な予感がする。ひとまず直感に従ってアレフたちのところに戻ることにした。
「シェラ、何があった?」
「オークどもの数が少ない。どころか出撃していってる。今攻めれば集落は落とせるけど、本隊が攻撃を受けるか、もうすでに受けてる可能性がある」
「まずいな。ちょっと待っててくれ」
アレフはあたしたちに割り振られていたテントを出た。そして冒険者部隊のリーダーと、本隊からくっついてきている騎士様と話をしている。
しばらくしてアレフが戻ってきた。
「どうなったんだい?」
「20人ほどで本隊に向けて動く。もし本隊が攻撃を受けているようなら救援する。問題ないようならそのままこのルートを通って集落に攻撃をかける」
「時間差をつけての挟撃っぽくなるね。わかったよ」
「先導を頼めるか?」
「ふふん、お任せだよ!」
アレフはこの冒険者部隊の中でも事実上のナンバーツーだったらしい。だから半数を率いて別動隊になれた。そしてこの決断は結果的には正しかった。なぜなら謀殺されかけているジェドを救うことができたから。
けれど、そんな少し先の未来すら見通すことなんてできやしない。あたしは妙な胸騒ぎを押さえつつ、部隊の先頭に立って歩いていった。
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