人類皆友達

 私が、死ねば、ユウはきっと止まるはず。 

 そう思った。


「あ、あれ?」 


 でも、どんなに石を刺そうとしても、喉に達しなかった。


「……ダメ、だよ。やつでお姉ちゃん」 


 空くんだ。きっと空くんが喉と石の間にどこでもドアを展開して、私の自殺を止めたんだ。


「やつでっ!」 


 ゴーレムを振り払い、ユウが私のもとに駆け寄ってくる。 

 そして私の手から石を奪い取り、遠くへ放り投げた。 


 その時、ユウに隙ができた。私はそれを見逃さなかった。


「ゴーレムっ!」 


 ゴーレムがその巨大な腕で、ユウを地面に押さえつける。


「ぐっ……」 


 重心を押さえつけられて、ユウは動くことができない。


「やられた。自害するふりをして、俺を動揺させる作戦か」

「……違うよ、ユウ」 


 私は首をゆっくり横に振った。


「結果的にユウを止めることはできたけど。私は本当に死ぬつもりだった。それを空くんが阻止してくれたんだよ。……どうして空くんがそうしたか、分かる?」

「……やつでを救うことで、俺やマーザに取り入り、生き残るためか?」 


 残念不正解だ。 

 正解を空くんに答えてもらう。


「……やつでお姉ちゃんは友達だから、助けたかった」 


 彼のその言葉に、ユウは驚いた顔をする。


「俺達だって……!」

「わたくし達も、空くんと同意見ですわ」 


 車田くんと氷華ちゃん。二人が這いずってこっちに来る。


「もしわたくしがH2Oではなく、空くんと同じ能力を持っていたならば、絶対にやつでさんを助けましたわ。何故なら……」

「俺も身体が動けば、凩を羽交い絞めにして止めたぞ! だって……」

『友達だから!』 


 二人は声を合わせる。


「ありがとう、皆。私も同じ気持ちだよ。立場が逆だったら、私だって皆を助けた」 


 皆に感謝の気持ちを述べ、私はユウの方を向く。


「ねえ、ユウ。もし私が人類を守るためにエンダーと戦うって言ったら、ユウも戦ってくれる?」

「何故だ。この戦いはあまりにも無謀だ。エンダー側につけば、やつでは生き残れるのに」

「確かに、そうすれば私は生き延びられるかもしれない。そこにはユウもいるかもしれない。でもね、皆が……車田くんや氷華ちゃんや空くんや家族もいないと私は嫌だ」

「……理解できない」 


 ユウが頭を悩ませている。 

 彼は本当に理解できないのだ。ユウの人生は、私を中心にして回っていた。他の人間はいなくてもいい、私さえいればそれでいいとユウは思っていた。 

 だから、理解できないのだ。誰かと誰かが相互に関係し合って生きるということが。 

 私はユウに教えなければならない。


「ユウはもし、私がいなくなったらどう思う?」

「俺はやつでを守るための存在だ。やつでがいなくなったら、俺は存在する意義がない」 


 即答だった。


「そう言うと思ったよ。……人間はね、その気持ちをたくさん持っているの。いろんな人の気持ちが重なって、人類は繋がっているの」 


 私は優しく諭すように、ユウに語る。


「ゴーレム」 


 私はゴーレムにユウを解放するよう命令する。そして役目を終えたゴーレムはただの土に戻った。


「ねえ、ユウ。あなたには一人で私を守るんじゃなくて、皆で皆を守る存在になってほしい」

「皆で皆を……?」 


 ユウは自分が私を守る存在だと認識している。 

 でもこれからは、私だけではなく皆を守る存在になってほしい。それも一人で、ではなく誰かと協力して守る存在になってほしい。 

 その旨を伝えた。


「できる?」

「……分からない。だがやってみる」 


 ユウはそう答えた。彼の眼から、三人に向けた敵意は完全に消えていた。 

 その時だった。


『どうやら、作戦は失敗したようだな』 


 ユウのつけた通信機から、声が聞こえた。 

 その声に聞き覚えのあった私達は、どよめいた。 


 間違いない。これはエンダーの長、マーザの声だ。

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