最終手段

 言っておくが、決して三人が手加減したわけではない。

 彼らは理解していた、本気の相手には本気で攻撃しなければ、止めることはできない。ユウは本気で三人を殺そうとした。だから皆も本気で攻撃し、ユウを止めようとしていた。


「なっ! 効いてないだと……!」 


 にも関わらず、ユウを止めることは出来なかった。 

 ユウは炎を纏いながら、三人に攻撃をした。 


 一瞬だった。まず空くんを膝蹴りで消沈させ、次に氷華ちゃんを回し蹴りで圧倒。最後に車田くんを右ストレートパンチでノックアウト。


「ぜぇぜぇ……」

「くっ……!」

「……うぅ」 


 三人は堪らず、ダウンした。 

 ユウは自分の身体に着いた炎を振り払う。


「終わりだ」 


 ユウはそう言った。 


 でもまだ終わりじゃない。 

 戦う力を持つ者が、まだここにいる。


「アビリティリング、発動」 


 私は自分のリングを発動させる。そしてポケットからある物を取り出した。 


 ゼンマイだ。ネジ巻き式の玩具なんかに使われている、ネジを回すためのもの。 

 私はそのゼンマイを地面に突き刺し、回した。


「おいで。ゴーレム」 


 地面が揺らぐ。 

 地盤が粘土のように盛り上がり、やがてそれは巨大な人型になった。 


 私の新しい力、『機械仕掛け』。ディーノ社長に用意してもらったアビリティリングに入っていた能力。 

 この能力はゼンマイを巻かれた無生物は、生物となり私の意のままに操ることができる。 


 もともとアビリティリングの戦いは見る専門で、エンダーとの戦闘経験が無い私に、この能力はピッタリだった。自分ではなく別のものに戦わせる。直接私が戦うわけではないから、ユウも安心な能力だ。 


 でも、今はそのユウを止めるために戦わなければならない。


「お願いゴーレム、ユウ止めて!!」

『ゴォォ』 


 私の声に応えるかのように、ゴーレムは雄叫びを上げる。 

 巨大な土の身体を動かしながら、ゴーレムはユウに攻撃を仕掛ける。 

 ユウはゴーレムの攻撃をかわすために、三人のもとから離れる。


「皆、大丈夫!?」 


 私はゴーレムにユウのことを任せて、三人のもとに駆け寄った。


「全然大丈夫、とは言い難いですわね」

「分かってはいたけど、ユウの野郎強すぎだぜ……!」

「……ピンチ」 


 まだ死んではいないけど、おろらく動くことはできないほどのダメージを負ったようだ。


「ねえ、皆……」 


 私は三人に問いかける。


「私ね、ユウを止めることは、ユウが人類を破滅させるのは止めることはできるの。でも、その先はどうする? きっとユウが言ったエンダーの数は本当のことだよ。それでも皆は戦い続ける?」 


 私ならユウを止めて、この状況を打破することはできる。 


 でも、その先はどうにもならない。 

 もし一兆のエンダーが攻めてきたら……。 

 もしかしたら、ここでユウに殺された方がマシなのかもしれないと思った。 


 だから、皆に尋ねた。 

 ここで楽に死ぬか。血を吐きながらも生きるために戦うか。


「……愚問、ですわね」 


 少女が小さく笑う。


「私には目的があります。恵まれない子供達を救うという、大きな目的が。それを邪魔する者は、たとえ一兆のエンダーだろうと倒して、子供達を守ってみせますわ!」 


 氷華ちゃん……。


「オレだって!」 


 少年が傷口を抑えながら答える。


「オレは今まで漫画の主人公に憧れて、それに倣って生きてきた! だったらこれからもそれを貫く! ヒーローはな、最後まで絶対に諦めないんだ!!」 


 車田くん……。


「……僕は」 


 小さな声で幼い少年が答える。


「……お母さんを助けたい。だから戦う」 


 空くん……。 


 三人の眼は決意に満ち溢れていた。 

 確かに氷華ちゃんの言う通り、これは愚問だった。 

 私はふふっと笑う。 


 そして私は、先の尖った手頃な石を拾う。


「やつで、さん……?」 


 キョトンとした顔で、氷華ちゃんが私を見る。


「皆、絶対に夢を叶えてよね。応援してるから」 


 私はそう言って、石の尖った先を自分の方に向けるように持つ。


「やつでっ!」 


 ユウが私の様子を見て、どよめく。 


 どうやら気づいたらしい。 


 でももう遅い。ユウはゴーレムの相手の真っ最中、私の行動を止めることはできない。 


 これしかない。ユウを止めるには、この方法しかない。 

 私は自分の喉目掛けて、鋭利な石を刺した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る