第3章 開催、バトル大会NEX
記者会見
例の女は、あの後警察に逮捕された。
一応、ユウが雷パンチを喰らわせたことを伏せて、あくまでアビリティリングによる能力の現実化、そしてその能力が暴走して、女は勝手に自滅した、警察にはそう説明した。
あの日から数日間、毎日電撃女に関するニュースが放送されている。新聞の一面も、この事件で持ちきりだ。
ただの痴漢・痴女なら、これほど大騒ぎにはならなかっただろう。
問題は、あの女が電撃女だったこと……つまり、能力者だということが問題なのだ。アビリティリングによる能力は架空世界限定のもの。それが現実化・リアライズ化した。
リングの暴走。メディアはそう考えたらしい。
そしてリングを開発したディノコーポレーションには連日、報道陣が押しかけた。
デマなどの混乱を避けるため、DCは後日会見を開くと発表した。
そして、今日、全国生放送でDCの会見が放送される。
私も事件の当事者なので、真実が気になっていた。
テレビの前に正座して、チャンネルを合わせる。
『これより、ディノコーポレーション社長、ディーノ氏による会見が行われます』
アナウンサーの声がスピーカーを通して私の耳に入ってくる。画面の奥から、高そうな背広を着た男性が一礼をしつつ登場した。
この人がディーノ。第一印象は若い、だった。社長というからもっと老人だと思っていたが、このディーノさんは三十台くらいの見た目だ。もしかしたら私のお父さんより若いかもしれない。
社長さんはもう一度一礼しつつ、席に着いた。礼の瞬間、たくさんのフラッシュが焚かれた。少し目がくらむ。『フラッシュの点滅にご注意ください』というテロップが流れたが、もう少し早くしてほしかった。
最初は社長による簡単な挨拶が行われた。
『それでは、ディーノ氏に質問がある方は挙手をお願いします』
進行役の人が記者達に言う。
多くの記者のうち一名が手を上げ、社長さんに質問をする。
『今回の痴漢事件、犯人の女性はアビリティリングの使用により、電撃を操れるようになったとのことですが。この件に関して、社長はどのようにお考えですか?』
ディーノさんは少し間を置いてから、答えた。
『結論から申しますと、今回の事件とアビリティリングには一切の関連はありません』
はっきりとそう宣言した。
私はじっと静かに、テレビ画面のディーノ社長を見つめる。
『では、今回の一件、ディノコーポレーションに責任はないと?』
別の記者がディーノ社長に質問する。『世界と歴史に視野を広げれば、超常現象はいくつも事例があります。人体自然発火現象などがそれです。今回の事件の犯人にも、その超常現象が作用したのです。犯人はそれを、アビリティリングの暴走による能力の実体化と勘違いした、それだけです』
社長は話を続ける。
『そもそもアビリティリングは着用者を電子化し、一時的に電脳世界へと誘うものです。能力が実体化などありえません。ですが……今回の一件で、人々はわが社に、アビリティリングに不信感を抱いてしまったのは事実です。なので、ある催しを開きたいと思います』
ある催し? 何だろう。
記者達もざわつき始める。
『ディノコーポレーションはこの夏、アビリティリングを使用したバトル大会NEXの開催を、ここに宣言します』
社長さんの声が部屋に響き渡る。
私は目を丸くして、画面を見つめていた。
記者達のざわつきも更に大きくなる。
『大会の詳細は後日に発表します。ですが、これだけは言っておきます。大会優勝者には、その者が望むどんな願いでも叶える、と』
そう言うと、ディーノ社長は席を立ち、そのまま会見会場を後にした。
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