かみなりパンチ

「くぅっ……!」 


 ユウの身体に電流が走る。比喩とかではなく、文字通りの電流が。


「あら、よけないのね?」

「……後ろにやつでがいるからな。よけるわけにはいかない」

「それはそれは。じゃあ、頑張って守ってみなさいな!!」 


 ユウの後ろに私がいるから、彼はよけようとしない。それを良いことに、彼女は何度も電撃をユウにめがけて右手から放つ。何度も、何度も。 


 やがて、ユウは膝をアスファルトに着いた。


「ふぅん。なかなかタフじゃない。これだけの電撃を受けて気絶しないなんて。……でももう終わりにしてあげる」 


 ユウがぜぇぜぇと虫の息になっている。


「アンタを殺してから、そのお嬢ちゃんと遊ぼうと思ったけど……なんかしらけちゃったわ。次の特大の一撃で、二人ともあの世に送ってあげる。お嬢ちゃんには顔と能力を見られたから、元々後で始末する予定だったしね」

「ふっ、特大の一撃だと……くだらんな」 


 膝を伸ばし、よろよろとユウが立ちあがる。


「たった一人の男を気絶させられない弱小の電力で粋がるな。お前の電撃は全く効いていない。大方、特大の一撃とやらも大したことないのだろう。いいか、もう一度言う。お前は、弱い」 


 ユウが相手を挑発する発言をする。 


 私には彼の意図がすぐに分かった。 


 二人まとめて始末するという言葉を聞いて、ユウは焦ったんだ。だからわざと相手を怒らせるような発言をして、全ての攻撃を自分に向けさせる気だ。 

 私に攻撃が向かわないように。私を電撃から守るために。


「随分と大口を叩くじゃない……。……だったら、この電撃! 耐えられるのもなら耐えてみなさいな!」 


 女性は電撃を空に放つ。雨雲は女性の電撃を吸収し、雷雲へと進化した。 

 雲はゴロゴロと雷鳴を轟かせながら、点滅する。


「知ってる? 雷の電圧って強力なものは億単位を超えるのよ。そのやせ我慢がいつまでもつかしら?」


 女性は右手を上から下に振り下ろす。


「喰らいなさい、十億ボルトの落雷! 『ビリオン・ビリー』!!」 


 それに反応して、雲から雷が落ちてくる、ユウめがけて。 

 ユウが強大な光に包まれる。


「ユウ!!」

「あははは、所詮ただの人間が能力者に勝てるわけがないのよ!」 


 女性の笑い声が響く。


「言っただろう、お前は弱いと。その理由を教えてやる」 


 閃光の中からユウの声が聞こえてくる。 

 その声を聞いて、女性の笑い声が途絶えた。


「お前は、電撃をずっと右手から発生させていた。連続で攻撃した時も、左手を使わず、右手だけだった。お前は右手からしか電撃を発生させることができない。それは、つまり――」 


 ユウは閃光から女性に向かって飛び出す。


「――お前は右手以外は電気耐性のない、普通の人間の身体ということだ!!」 


 帯電しながら、ユウは拳を女性の腹部に喰らわせる。 

 電撃を帯びたパンチが、女性を襲う。 


 女性は言葉では言い表せないような悲鳴を発しながら、黒焦げになりその場に倒れた。


「な、んで……億ボル、トの電撃を喰らっても、平気なのよ……」 


 口から黒煙を出しながら、黒こげ女が言葉を発する。 

 その質問にユウは端的に答えた。


「俺は、お前の言う『ただの人間』ではない。そういうことだろ」

「なによ、それ……」 


 そこで電撃女の意識が途絶えた。 

 そしてユウも、力を使い果たしたのか、その場に倒れこむ。


「ユウ!」 


 私はユウに駆け寄り、彼を抱き起こす。


「やつで、怪我は、無いか?」 


 私は涙を流しながら頷く。そして、今度は私がユウの安否を確認する。


「心配ない、俺は死なん」

「無茶しすぎだよ、ユウ……」 


 遠くからサイレンの音が近づいてくる。おそらく本物の警察だろう。 


 ユウは小さく笑う。


「俺はお前を守る、それが俺の役目だからな」

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