命令

 後日、ネット、新聞、テレビ、ラジオなど様々な情報メディアを通して、能力バトル大会NEXの詳細が発表された。 


 ルールをまとめると。  

 ・アビリティリングを所持していれば、誰でも大会に出場できる。  

 ・バトルはトーナメント式。  

 ・バトルは一対一によるものとする。  

 ・大会中に使用できるアビリティリングは一人に一個のみ。  

 ・異空間で、どちらかが気絶または死亡した時点で、残った方を勝者とする。  

 ・チームを組んでも良い。ただし、バトルできるのは代表者一名。  

 ・優勝者したチームは、一つだけ、どんな願いでも叶えてもらえる。 

 とまあ、こんなところか。 

 私はスマホのメモ帳に、NEXのルールを簡潔に書きとめておく。 


 そして、最後の項目。


『どんな願いでも叶えてもらえる』 


 この一文に、私の目が奪われる。 

 どんな願いでも……。


「私、NEXに出ようと思うの」 


 私はジャングルジムの頂上で鎮座しているユウにそう告げる。


「意外だな。お前が自分からバトルを挑むとは」 


 確かにユウの言う通りだ。私はバトルをほとんどしない、見る専門だ。 


 でも、どうしても叶えたい願いがあった。 

 他人から見れば、私の願いは「何それ」と嘲笑われるものに違いない。 

 それでも関係ない。 

 私の意志は固い。


「そうか、分かった」 


 ユウは軽く返事し、ジャングルジムから飛び降りて私の隣に並ぶ。 

 そしてこう言い放った。


「俺も出る」

「……はい?」 


 私は、自分の耳がおかしくなったのかと思った。 

 一瞬、思考が停止した。ニ、三秒経って思考が戻ってきた。 

 そしてユウに聞き返す。もしかしたら、聞き間違えかもしれない。


「今なんて?」

「俺もNEXに出る。そう言った」 


 聞き間違えじゃなかった。


「ユウも何か叶えたい願いがあるの?」

「いや」 


 ユウは否定する。 

 願いがないのに、どうして大会に?


「やつでが出るから。それだけだ」 


 ユウの出場理由はそれだった。 


 というか、アビリティリングを持っていないユウは大会に出られないはずだ。


「リングは大会までにバイトをして買う。心配するな。大会に出ると言っても、やつでと戦うつもりはない。俺はやつでのチームメイトとして、やつでをサポートする」 


 私は小さくため息をする。 


 そうだった。彼は、不動ユウというものはこういうやつだった。 

 自分のことは後回しで、私を中心にして物事考えてしまう。正直申し訳ない。


「私はユウと組むつもりはないよ」 


 私を手助けするというユウの気持ちは嬉しい。 

 でも今回はユウの手を借りるわけにはいかない。 

 借りたら私の願いが、全てとまでは言わないけど、ちょっとだけ無駄になってしまう。 

 だから私はユウの提案を断った。


「だが、俺は……」 


 私を守らなければならない、ユウはそう言った。


「ユウ、これは命令だよ。私は一人で大会に出る。ユウの力は借りない、いい?」

「……分かった」 


 ユウは渋々だが、了承してくれた。

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