夜に女子高生が1人で出歩くのは危険

 数時間が経って夜、私はシャワーを浴びようと思ったが、シャンプーを切らしていることに気付いた。

 仕方ないから私は近所のコンビニに買いに行くことにした。


 痴漢のことは気にならないわけじゃない。でも、コンビニは家から歩いて五分の所にある。もし痴漢に出くわしても、走って家に逃げ込めばいいだろう。私は陸上部ほどじゃないけど、足の速さには自身がある。


 コンビニについた私はしばらく雑誌を立ち読みをし、買い物を済ませた。シャンプーだけ買うのもなんなので、ついでにアイスも買っちゃった。


 棒アイスを咥えながら、私は夜道を歩く。雨が降るのだろうか、少し曇っていた。

 ユウもこの空を見ているのかなと、乙女チックなことを考えてみる。

 でも公園暮らしのユウのことだ。きっとジャングルジムの上でボーっと眺めていることだろう。


「あの、すみません」 


 そんなことを考えていると、後ろから声を掛けられた。 

 振り返ると、そこには二十代後半くらいの女性が愛想笑いを浮かべながら立っていた。


「私、警察のものなんですが……」

「警察?」 


 私がそう聞き返すと、女性が胸ポケットから黒い手帳を見せてサッとしまった。


「最近、この辺で痴漢が出没しているでしょ? それで私達警察も警戒して、一人で歩く女性に注意を促しているんですよ」

「はぁ、そうなんですか」 


 適当に返答をしながら、私はふと女性の足元を見る。 

 女性は高価そうな黒靴を履いていた。その靴はとても綺麗で、街灯の光が反射して、私の顔が小さく写っていた。 


 それを見た瞬間、私は全運動神経に命じて、全力で走り出した。 


 あの女性は、警官ではない。嘘をついている、そう確信した。

 手帳を一瞬しか見せなかったことも勿論怪しかったが、昔読んだ小説でこんな描写があった。


 ある男が自分は警官だと名乗った。でも主人公は男が警察官ではないことを見抜いた。その理由が靴だ。仕事上たくさん歩かなければならない警察官の靴が綺麗なはずがない、主人公はそう言い放ったのだ。


 それを思い出したから、女性から私は逃げ出したのだ。あの女性の靴はとても綺麗だった。

 つまり警察官ではない。

 まあ、もしかしたら本当に彼女は警察官で、たまたま綺麗な靴を履いていただけかもしれない。走りながら、その可能性を考えていた。


 でも、その可能性はゼロだとすぐに分かった。


 突如、何か閃光のようなものが横切り、私の前の街灯に命中した。閃光を浴びた街灯はまるで、回路が狂ったかのように何度か点滅し、ショートして電球部分が破壊された。


「きゃあっ!?」


 電球が割れたことに驚いて、私は転んでしまった。


「ちょっと、ちょっと。いきなり逃げるなんてヒドイじゃない? お姉さん、ちょっとショックだなー?」

「あ、あなた警官じゃないでしょ……!」

「大正解。そしてこの私が噂の痴漢ってわけ。まあ、私は女だから痴漢っていうより痴女だけどね」 


 この女が犯人……。てっきり男の人が襲っているとかと思っていたけど、まさか女だったなんて。 


 不気味な笑みを浮かべながら、コツコツと綺麗な靴を鳴らしながら女性が近づいてくる。 


 その笑みに恐怖も感じていたが、それ以上に私は驚愕していた。 


 彼女の右手がバチバチと火花を帯びている。まるで右手が花火のように。

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