再び、シンデレラとカボチャの煮付け 12

 綺麗に形作られたオープンカフェの一角で私とラプンツェル、それに魔女さんはお昼をとっていた。それぞれ思い思いの品を注文した後、私達は近況報告に花を咲かせていた。


「それじゃあラプンツェルは、ちゃんと御両親に会えたんですね」

「まあ、ね。今は上手くやってる……と思う」

 少し顔を赤らめながら、だけどどこか嬉しそうなラプンツェル。彼女と彼女の両親の事は私も気になていたから、無事再会できたと知って一安心だ。

「だけどちょっと過保護すぎるのよね。今回の旅行だって、危ないからダメだとか、どうしても行くなら自分たちもついて行くって言いだすんだもの。仕事を休むわけにもいかないのにさ」

「それだけラプンツェルの事が大事なんですよ。だって今まで会いたくても会えなかったんですから、目を離したくない気持ちも分かります。それで、どうやって許可が下りたんですか?」

 そう尋ねると、ラプンツェルに代わって魔女さんがそれに答えてくれる。


「通信用の水晶玉を渡してきたんじゃよ。それを使って毎日連絡するのが旅の条件なんじゃ。まあ親孝行だと思って付き合ってやるんじゃな」

「はいはい。親孝行なら仕方がないか」

 そう答えるラプンツェルの目は笑っていて、なんだかんだ言いつつも彼女もご両親の事を大事に思っていることが分かる。私には両親がいないから、こういう姿を見るとちょっと羨ましいな。そうだ、両親と言えば。


「そう言えば魔女さん、ヘンゼルとグレーテルは、ご両親と上手くやっているんですか?」

 ヘンゼルとグレーテル。以前食いぶちを減らすために、実の両親に森の中に捨てられてしまった事のある兄妹だ。その後両親は反省して、仲直りをしたのだけれど、たまに思い出しては気になっていたんだ。

「あいつらも元気さ。今は父親がジャガイモ畑で働いているんじゃが、この前班のリーダーになったと、グレーテルが嬉しそうに言っておったよ。ヘンゼルもたまに母親と一緒にお菓子も作ってると言っておったし、もう心配しなくても大丈夫そうじゃな」

「なら良かったです。ヘンゼル、お菓子作り頑張ってるんですね。大きくなったらパティシエになりたいって言ってましたし、今度会うのが楽しみです」

「ああ、そう言えばあんたに会えるかもって言ったら伝言を頼まれたよ。自分もお菓子作りを頑張るから、あんたも料理の修業を頑張れと言っておった」

 ヘンゼルの励ましはとても嬉しい。だけど同時に、ふと思ってしまった。今の私は、ヘンゼルのように真っ直ぐに頑張れているのだろうか。最近はエミルのことが頭から離れず、集中できていない気がする。


「そうそう、王子にも伝言を預かってきたんだ。シンデレラをしっかり守ってやれって。そう言えば王子は今どこにいるんだい?」

「たぶんお城で棘姫さんと会ってると思います。最近は良く二人で会っているみたいですから」

 二人がいったいどんな話をしているのかはとても気になる。だけどそれを聞くわけにもいかず、結果胸の中にもやもやとした気持ちだけがたまっていってる。

「そうだ、王子と言えば、あれからどうなったの?何か進展はあった?」

 ラプンツェルが興味津々とばかりに聞いてくる。だけど進展どころか……

「進展も何も、私じゃエミルと釣り合いが取れませんよ。エミルの隣にいるのはもっと良い人じゃないと誰も納得しません。今だって棘姫さんとお見合いの最中でしょうし」

「はあっ?」

 とたんラプンツェルが目を丸くする。紅茶を飲んでいた魔女さんもその手を止めて私を見る。


「お見合いって、あいつ何やってんの?アンタの事が好きなんじゃなかったの?」

「えっ?ラプンツェル、どうしてその事を知ってるんですか?」

 まさか私の知らない間に、二人して恋バナでもしてたのだろうか。だけどラプンツェルは呆れた顔をする。

「そんなもの態度を見てりゃわかるわよ。そもそもエミルの気持ちに気付いてなかったのなんてアンタくらいよ。ねえ婆ちゃん」

「その通り。ワシらだけでなく、ヘンゼルやグレーテルもみんな気付いておった。逆にどうしてアンタが気づかないかが不思議じゃったわ。まさかとは思うが、アンタ悪い魔女に鈍感になる呪いでもかけられたんじゃないじゃろうな」

「呪いっ?私の鈍感さって呪いレベルなんですか?」

 いくらなんでもそれは無いだろう。いや待てよ、けど魔女さんもラプンツェルも、ヘンゼルやグレーテルも気付いてたって言ってるし。それなのに私はこれっぽっちも気付いていなかったなんて。これってちょっと問題じゃないかなあ?


「でもちょっと待って。さっきエミルがアンタの事を好きだってこと、ちゃんとわかってたよね。ってことは気持ちに気付いたの?鈍感女王のアンタが?やっと!ようやく!」

 ラプンツェルの言い回しにはちょっと引っかかったけど、私は小さく頷いて肯定した。

「そうかあ、とうとう気付いたか。でもいったい何きっかけで?」

「それは……エミルが好きだって言ってくれたから」

「告白されたの?それじゃあいくら鈍感なアンタでもわかるよね。あれ、でもさっきエミルはお見合いしてるって言って無かったっけ?いったいどういう事?」

 頭にハテナを浮かべるラプンツェル。それは話すと長くなるから、私は先に結論を言うことにした。


「告白はされました。だけどその後フラれたの。だから、もういいの」

 そう口にした途端、急に悲しみが込み上げてきた。ついさっきまで魔女さんやラプンツェルと会えて楽しかったはずなのに、エミルのことを考えるとまたこんな気持ちになってしまう。

 そして私の話を聞いたラプンツェルは見て分かるくらいに腹を立て始めた。

「エミルはお城にいるんだよね。よし、今から行って一発殴ってくる」

「やめてラプンツェル、エミルは何も悪くないの」

 ラプンツェルなら本当にお城に殴り込みをかけても不思議じゃない。慌ててしがみついて取り押さえると、彼女は直も怒った声を出す。


「そんな事言って。だいたいフルならどうして告白なんてしたの?それにアンタもアンタよ。何で黙ってるわけ?」

「それにはいろいろ事情が。エミルの告白は私のせいでせざるを得なかったようなものだし、それに私じゃエミルとは釣り合わないし」

「はあ、どういう事よ?わけ分かんない」

 そんな問答をしていると、一人様子を見守っていた魔女さんが近づいて来て言った。

「身分の違いじゃな。なんせ相手は一国の王子じゃからそもそも住む世界が違う。そう言いたいんじゃろう」

 魔女さんは全てお見通しのようだ。私は無言で頷き、それを見た魔女さんはため息をついた。


「じゃが今回はワシもラプンツェルの言う通りじゃと思う。あの王子、アンタの為なら地位や立場を捨てても良いって言うような奴かと思って負ったけど、見込み違いだったようじゃの」

「そんな、エミルは何も悪くありません。国の事を考えたら、やっぱり私といるいちゃいけないんです」

「そうは言ってもねえ」

 私達の意見は真っ向から衝突している。私も魔女さんもラプンツェルも黙ってしまい、気まずい空気が漂う。何か言わなくちゃ、頭を回転させて言うべき言葉を探していると……

「なあ、ちょっといいか?」

 何やら背中の方から聞き覚えのある声がして、私は後ろを振り向く。すると――

「笛吹きさんっ?」

 そこにいたのは派手な衣装に身を包んだ、ハーメルンやブレーメンで出会った笛吹きさん。どうして彼がここにいるのだろう?

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