特別編です 日本一有名な御伽噺とのコラボになっています。
特別編 シンデレラと桃太郎? 1
この世には不思議なことがたくさんある。森の魔女さんの使う魔法がそうだし、笛吹さんの人や動物を操る力だってそう。言葉を話す動物なんてモノもいた。
考えてみればエミルと出会って、こうして二人で旅をしているのだって不思議なめぐりあわせと言える。
これはそんな不思議な縁が結んだ、本来決して出会う事の無い人と出会ったお話。
旅を続ける私とエミル。だけどある時、海沿いの街からほど近い場所にある道を歩いていると、あたりに突然霧が立ち込め気づいた時には道に迷っていた。
その後何とか人のいる場所へと出たのだけど……
「だめだ。誰に聞いても知らない地名ばかりで、ここがどこだかさっぱり分からない」
エミルが困った顔で言った。これまでにも何人かに道を尋ねたのだけど、エミルの言っていた通り、返ってくる答えはどれも知らない地名ばかりだった。
森の魔女の知恵を借りようようか。そう思ったんだけど、通信用の水晶玉は圏外になっていて連絡を取る事が出来なかった。
途方に暮れた私達は、とりあえず道端にある大きな木の下に腰を下ろすことにした。
「本当にここはどこなのかしら?それに、何だかみんな見慣れない格好をしているわよね」
行きかう人たちの格好は、私達のそれとは似ても似つかない。それになんだか私達と比べて皆小柄で肌の色も違っている。
まてよ、この人達の格好、どこかで見たことがあるような気がする。どこで見たんだっけ?
頭をひねりながら思い出そうとしていると、不意にエミルが尋ねてきた。
「ところでシンデレラ、その手に持っているのはなに?」
そう言って私がさっき近くのお店で買ったそれを指さした。
「これ?お味噌とお醤油」
「それって、前に言ってた東の国の調味料だよね」
「そうなの。私も驚いたけど、この辺りでは普通に売られてるみたいなんだけど……」
東の国……そうだ。
「ねえ、ちょっと気が付いたんだけど、ここの人達の服装って前に本で見た東の国の物とそっくりなの」
あれは確か着物って言ったっけ。
「東の国の?でもそれって相当遠くでしょ?いくら道に迷ったとは言えそんなところに迷い込むなんてあるかな?」
そう、常識で考えたらそんなことあるはずがない。でもそれなら私達は今どこにいるのだろう。
「とりあえず少し休んだら、今晩泊まれる所を探そうか。さっき道を尋ねた時に聞いたけど、最近この辺りは物騒らしいんだ」
「あら、夜盗でも出るの?」
旅をしている以上、そう言った危険は常に付きまとう事になる。だからこそそう言う情報はこまめに集めて気を付けるようにしていた。
「それもあるけど近くに鬼ヶ島って所があって、そこから時々鬼っていう奴がやってくるって言ってた」
「鬼?」
聞きなれない言葉に思わずおうむ返しになる。だけどちょっと待てよ、それもまた前に読んだ東の国の書物に書いてあった気がする。たしかあれは……
「頭に角が生えた、赤や青の体をした怪物よね」
「僕が聞いたのもそんな感じだった。それに、聞いた話だと白いのももいるらしい」
白鬼。それは初耳だ。
「僕達知っている伝承に出てくるゴブリンみたいなものかな?」
そんな物が本当にいるのだろうか?真偽は分からないけどそんな話を聞いたら外を歩くのも不安になってしまう。
しばしの休憩を終え、私は一抹の不安を抱きながらエミルと一緒に来今日の宿を探そうと歩き出した。
それから少し歩いた時だった。
「おなかすいたー」
「ごはん食べたいー」
「だれでもいいからお恵みをー」
そんな声が聞こえたと思ったら、突然目の前に三人の行き倒れが現れた。ううん、三人って言っても彼らは人間じゃなかった。
「犬さん、猿さん、それと……鳥さん?」
鳥には違いないけど、何だか見た事の無い種類の鳥だ。すると鳥さんは何だか不満そうな顔をした。
「キジ、雉です。これでもこの国の国鳥なんですよ」
「あ、そうなんだ。ごめんなさい」
「まったく。国鳥ってことはこの国で一番偉い鳥と言っても過言じゃないんですからね」
それは流石に過言だと思うけど。それにしても、この子達は一体何をしているんだろう。
人間の言葉を話す三人の動物達。彼らはみんなぐったりと地べたに寝そべっていた。
「君達はこんなところで何してるの?さっきお腹がすいたって言ってたけど」
すると三人は目を潤ませながら訴えてきた。
「聞いての通りです。僕等お腹がペコペコなのです」
「このままじゃもう狩りをする他ありません」
いや、狩りをするしかないって……
「すれば良いんじゃないかな、狩り。だってそれが普通でしょ」
エミルが正論を言う。私もそう思う。
「えぇーっ。狩りなんてしたら動かなきゃいけないよ」
「動いたら余計お腹がすくよ」
「ゴロゴロしたままご飯だけ食べたい」
何だかニートか私の義姉さんみたいなことを言っている。
働かざる物食うべからずという言葉もあるし、簡単に物を与えてはこの子達の為にならないと思う。だけど目の前でこんなにお腹を空かせているこの子達を放っておくのも忍びない。
「しょうがないな。少しだけだよ」
迷った私は、結局三人に食べ物を与える事にした。と言っても、今持っているのはさっき買ったお味噌とお醤油を除けば、あとは取っておいたビスケットくらいしか無い。
「これくらいしか無いけど良いかな?」
そう言ってビスケットを差し出すと三人は不思議そうな顔をする。
「なにこれ?」
「お煎餅かな?」
「食べられるなら何でもいいや」
どうやらビスケットを知らないみたいだ。それでも私の手からビスケットを受け取り口へと運ぶ三人。すると……
「甘くてサクサクしてる」
「凄く美味しい」
「もう一枚……いえ、もう十枚下さい」
さすがにそんなには持ってないけど、それでも残ったビスケットを全て渡す。三人はそれを美味しそうに食べていた。
「シンデレラ、嬉しそうだね」
「こんなに美味しそうに食べてくれるんだもの。料理人としては何より嬉しい瞬間だよ。エミルに美味しいって言われた時だって凄く幸せな気分になるもの」
「そ、そう?だったらこれからもっと言った方が良いのかな」
「えーっ、だめだよそれじゃ。ちゃんと本当に美味しい時にだけ言ってくれないと」
「それもそうだね。けど、君の料理がどれも美味しいのは本当だよ」
そんな事を言われたら思わず顔がほころんでしまう。そんな事を話していると再び三人が私に向かって言った。
「あの、あなたは料理人なんですか?」
「ええそうよ。って言ってもまだ修行中なんだけどね」
そう答えると三人は何やら身を寄せ合いコソコソと話を始めた。どうしたんだろうと首をかしげていると、三人は再び私へと向き直った。
「あなたのお名前は何ですか?」
「私?シンデレラよ。こっちはエミル」
すると三人は一斉に私に向かって頭を下げた。えっ、何が始めるの?
「シンデレラさん、どうかボク達をお供にしてください」
「えぇっ⁉」
お供って、一緒についていくってこと?急にそんなこと言われても。驚く私に三人はさらに続けた。
「こんなご恩を受けて何も返さないというのは失礼です」
「なにとぞボク達にもっとおいしいものを食べさせて…じゃない。恩を返させてください」
「報酬は朝昼晩のご飯で結構です」
懇願する三人。だけど話を聞いていると、何だかこれって恩返しというよりも……
「完全に食べ物が目的っぽいよね。しかもきっちり三食要求してるし」
私もそう思う。だけど三人はなかなか引き下がろうとしなかった。
「お願いします。僕等見ての通り愛らしいのでそばにいるだけで癒されますよ」
「料理人ならお店を出すときに猫カフェならぬ、犬猿雉カフェができますよ」
「旅を続けるならボディーガードになります。相手が夜盗だろうと鬼だろうと追っ払ってやります」
この子達がボディーガードになってもどれほど役に立つかは分からないけど、でも動物カフェは悪くないかも。
いや、そんなその場のノリで大事なお店のコンセプトを決めるわけにはいかない。
「どうしようエミル。やっぱりちゃんと断るべきだよね」
「うん。こう言っちゃ失礼だけど、何かの役に立つとは思えない。可哀そうだけど、この子達の事は忘れよう」
すると三人は涙ながらに訴えてきた。
「お願いします。後生ですから」
「この通りです。楽な事なら何でもします」
「三食おやつ付きでお供させてください」
叫びながらしがみついてくる三人。図々しいよこの子達。食事だけでなくおやつまで要求してるし。あ、でも何だかモフモフして気持ちいい。って、ダメダメ。はっきり断らないと。
「何というか、面倒なのに絡まれたもんだね」
エミルが疲れたように嘆息し、私もビスケットを上げた事を後悔し始めてる。だけどその時だった。
「待てえぇぇぇい!!!」
急に私達に向かって野太い声が降り注いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます