シンデレラと動物達の音楽隊 11
奏でられる優雅な音楽が、聴いている人達を虜にしている。ステージの上では笛吹きさんと動物達が楽器を演奏し、私達は最前列でそれを聞いていた。
「綺麗な音色だ。前にお城にブレーメンから楽団を招いたことがあったけど、これはそれと比べても引けを取らないよ」
隣にいたエミルも感心した声を出す。昨日も練習中の演奏は聞いたけど、会場の雰囲気もあってか、今奏でられている演奏はその時よりも心に響くものだった。
こんな演奏を最前列で聞くことができたのは、笛吹きさんが手回しをして私達の席を用意してくれていたおかげだ。事前に世にも珍しい動物達の音楽隊と銘打っていたこのステージは物珍しさから見に来る人が多く、他のステージ以上に人でごった返していた。
だけどそうして集まってきた人達も、このクオリティの高さには驚いた事だろう。珍しさだけの色物ではなく、しっかりとした演奏になっている。実は笛吹きさんが動物さん達を操る事で完成させているのだけど、その事は今は忘れよう。疑問をはさんでいたらせっかくの音楽を堪能することが出来なくなってしまう。
やがて最後の曲の演奏鵜が終わると、観客たちは立ち上がって笛吹きさんや動物さん達に惜しみない拍手を送った。勿論私やエミルも同じように拍手を送る。
「音楽をこういう風に聞いた事なんてなかったけど、良いものね」
たった一回演奏を聞いただけで何かが分かったわけじゃ無いけど、彼らの演奏には素直に感動した。すると横にいたエミルが私と目を合わせる。
「楽しんでくれて良かった。もしかして君は焼き鳥を売っていた方が楽しかったんじゃないかってちょっと心配だったんだ」
「いくら何でもそこまで料理の事しか頭にないわけじゃ無いよ。けど、音楽を聞いてここまで楽しいって思ったのは初めてかも。後で笛吹きさんに音楽の事を教えてもらおうかな。興味が出てきたし」
客席からはアンコールの声が響いている。こんな素敵な演奏、次はいつ聞けるか分からないんだから、もっと聞いていたい気持ちは私も同じだ。そんな事を考えていると、ふとエミルが聞いてきた。
「興味……ね。ねえシンデレラ、君は料理以外に興味がある事って何かある?例えば……」
エミルが何か言いかけた時、ステージの上の笛吹きさんが客席に向かって声を上げた。
「それじゃあ声援に応えてもう一曲演奏しよう。最後まで楽しんで行ってくれ」
笛吹きさんがそう言うと、客席から歓声が上がる。私はそんな様子を見ながらもエミルの言葉に耳を傾けていたんだけど。
「ス…きナ…ヒと……とか…いナイ…の…」
歓声にかき消されてうまく聞き取る事が出来なかった。
「ごめんエミル、よく聞こえなかった。何て言ったの?」
すぐに聞き返したけど、エミルは何やら言いにくそうに顔を背けた。
「ゴメン、やっぱり何でもない。今聞くような事でもないし」
「そう?ならいいけど」
エミルが真剣な表所をしていたものだから、何を言おうとしたのかちょっと気になったけど、無理に追及するわけにもいかない。
「それじゃあ、最後まで彼らの演奏を楽しもうか」
そう言われて、私は再びステージに目を向ける。
笛吹さんは手にした笛を口に当て、ロバさん達もそれぞれの楽器を構える。大勢の観客の見守る中、笛吹きさんと動物さん達の最後の演奏が始まる。
奏でられた美しい音楽が空間を支配していく。私も今だけは料理の事を忘れ、エミルと共にその音色に耳を傾けるのだった。
音楽の街ブレーメン。その近くの森には動物の音楽隊が住んでいるという噂が、まことしやかに囁かれている。
料理修業をしている女の子の紹介で旅の笛吹きに音楽を習ったという彼等が、女の子や笛吹きと別れた後腕を磨いて一人前の音楽隊に成長したのか、はたまた練習をサボってばかりのダメ音楽隊になってしまったのか。
彼らがどんな未来をたどっていったのかは、また別のお話。
シンデレラと動物の音楽隊 終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます