シンデレラとお菓子の家 7
魔女に案内されてやって来たのは、森を流れる川を下った先にある小さな村だった。煌びやかな城下町とは違い、よく言えば落ち着いた雰囲気の、悪く言えばさびれた印象がある。
「どうだいお前達、この村に見覚えはあるかい?」
魔女がそう言うと、ヘンゼルとグレーテルはすかさず答えた。
「ここだよ、間違いない」
「村の奥の家が私達のお家なの」
どうやらこの村で合っているようだ。
「それにしても魔女さん、良く見つけられましたね」
そう聞くと、何故か魔女は浮かない顔をした。
「森の近くの町や村で情報を集めてたら、最近住んでいるはずの子供の姿が見えないっていう家があったんだよ。ちょっとした騒ぎになっていたから、早いとこ戻らないとヤバいかもしれないよ」
「え?それってどういう……」
そう言いかけた時、村の奥に向かって数名の兵隊さんが向かっていくのが見えた。
「こんな村に兵隊さんだなんて。何かあったのかしら」
首をかしげていると魔女がそれに答えた。
「さっきも言っただろう。子供が消えたって騒ぎになっているって。大方不審に思ったやつが通報して調べに行ったんだろう」
「ええ、それって」
この国では当然子供を捨てるなんて許されていない。となると、そのことがバレたらヘンゼルとグレーテルの両親は捕まってしまうだろう。
「お父さんとお母さん、捕まっちゃうの?」
グレーテルがギュッと私のスカートを握る。ヘンゼルも不安そうな目で私を見ている。
「きっと大丈夫だよ。二人とも、早く家に帰ってあげよう」
今はそう言うしかなかった。私達は魔女に先導され、さっき兵隊さんたちが駆けて行った方に歩を進める。
しばらく歩いたところで、一軒の家の前に人だかりができているのが見えた。
「あれ、俺達の家だ」
ヘンゼルが声を上げた。集まった人達は家の中をのぞき込んでいるけど、ここからでは中の様子はわからない。
「二人はちょっとここで待ってて。私が様子を見てくるから」
そう言って家へ近づき、集まっていた男性に話を聞いてみた。
「あの、いったい何があったんですか?」
「アンタ、この村の人間じゃないな。大きい声じゃ言えないが、どうやらこの家の夫婦が、口減らしのために子供を捨てたらしいんだ。それで今兵隊が来て取り調べをしてるらしい」
魔女の言ったとおりだ。ヘンゼルとグレーテルの両親は兵隊に何と説明しているだろう。中の様子を伺おうとしていると、家のドアが開いた。
中から出てきたのは先ほどの兵隊が三人。そして手を縄で縛られた夫婦だった。
あの人たちがヘンゼルとグレーテルのお父さんとお母さんだろうか。でも、どうすればいいのだろう。今ヘンゼルとグレーテルを連れてきて、縄を掛けられた両親の姿を見せてしまっていいのだろうか。どうすればいいのか分からずに、連行される二人を見ていると。
「お父さーん」
「お母さーん」
幼い声が響いた。集まっていた人たちは声のした方を振り返り、当然私もそっちに目をやる。そこにあったのは待っているように言っていたヘンゼルとグレーテルの姿だった。
「ヘンゼル!グレーテル!」
連行されていた二人のお父さんが二人の名を呼ぶ。彼は手を縛られているというのに、取り押さえようとする兵士を振り切って二人の元に駆け寄って行った。
「二人とも、無事だったんだね。ごめんよ、怖かっただろう」
お父さんは涙を流し、グレーテルも同じく泣きながら父親に抱きつく。ヘンゼルは抱きつきこそしなかったけど、その眼には涙が浮かんでいた。
やっぱり、ヘンゼルも本当は親が恋しかったのだろう。お母さんの方に目をやると、彼女も三人の様子を見ながら涙を流していた。
「どういう事だ、お前たちは子供を森の奥に置き去りにしたんじゃなかったのか?」
兵隊さんが困惑してお父さんに聞く。だけど彼はヘンゼルとグレーテルとの再会に感激しているのか、それには答えない。私はそんな彼にそっと近づいた。
「ヘンゼルとグレーテルのお父さんですね。この子達はこの数日間、私の所にいました」
「君の所に?」
「はい。二人にはお菓子を作るのを手伝ってもらったりして、大変助かりました」
そう言うと、今度は傍にいた兵隊が怪訝な顔をする。
「という事はつまり、お前が子供達を誘拐して働かせていたという事か?」
「え?違いますよ!」
誘拐犯にされたのではたまったものではない。集まっていた人たちも怪訝な目で私を見ている。これは早く誤解を解かないと。そう思ったその時。
「彼女は誘拐犯なんかじゃないよ。僕が保証する」
そう言って人込みをかき分けて現れた青年が一人。それは私の良く知るエミル王子だった。
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