シンデレラとお菓子の家 6
ヘンゼルとグレーテルと出会ってから数日が経ち、お菓子の家もだいぶ完成に近づいてきた。最初は上手くお菓子を作れなかったヘンゼルとグレーテルだったけど、慣れてきたのかちゃんと出来るようになっていた。
「お姉ちゃん、お鍋のキャンデー、もう良いみたいだよ」
「それじゃあ丸めて冷やしましょう。綺麗な照明になるよ」
「姉ちゃん、椅子や机はどうするんだ?」
「バームクーヘンをベースに作りましょう」
「それじゃあパウンドケーキを使ったベッドなんてどう?フカフカで気持ちよさそうだぜ」
子供と言うのは覚えるのが早く、尚且つ想像力も豊かで、時には私が思いつかなかったアイディアを出すこともある。キャンデーを照明に使うのもグレーテルのアイディアだった。
おかげでお菓子の家は当初の予定よりもずっと綺麗でおいしそうな仕上がりになってきている。これなら魔女も喜んでくれるだろう。
そうして三人でお菓子作りに励んでいると、箒に乗った魔女がやって来た。
「作業は順調のようだねえ。ずいぶん美味しそうにできてるじゃないか。流石シンデレラだ」
「私だけの成果じゃありませんよ。ヘンゼルもグレーテルも頑張ってくれましたから」
そう言うと二人は照れたように笑う。本当に二人はこの数日で驚くほど上手くなった。簡単なお菓子なら私がいなくても作れるくらいだ。すると魔女は二人を見て言った。
「こいつらが来た時はどうなることかと思ったよ。そう言えば、こいつらの親が見つかったよ」
「え?」
魔女は『午後から雨が降る』というくらいにあっさりその事を言ってきた。あまりにあっさりしすぎていて反応が遅れてしまった。
「私達のお家の場所が分かったの?」
最初に口を開いたのはグレーテルだった。グレーテルは楽しそうにお菓子を作っていても時々両親を思い出してか遠くの空を見る事があったから、よほど嬉しかったのだろう。だけど反対にヘンゼルは苦い顔をしている。そして。
「俺、家には帰らない。帰りたかったらグレーテルだけ帰ればいい」
そんな事を言い出した。途端にグレーテルが泣きそうな顔になる。
「そんな、一緒に帰ろうよ。お父さんもお母さんもきっと心配してるよ」
「するわけないだろ、だって俺達を捨てたんだぜ」
「そんな事……」
無い、と言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。『すべての親が子供の事を好きとは限らない』そう言っていた王子の言葉が頭をよぎり、無責任な事が言えなかった。
「なあ、シンデレラ」
黙っている私にヘンゼルが向き直った。
「俺、もっと頑張ってお菓子作るから、このまま弟子を続けさせてくれないか。シンデレラと一緒にいたい」
ヘンゼルの申し出に戸惑う。ヘンゼルの言う通り、一度子供を手放した親の元に帰って二人が幸せになれる保証はない。それならいっそのこと私が保護者になった方が良いのではないか。そんな考えが頭をよぎる。
「頼むよ、何でも言うこと聞くから。あんな家には帰りたくないんだ」
ヘンゼルはすがるような目で私を見る。グレーテルも祈るように私を見て、魔女も成り行きを見守っている。
何と答えれば良いのだろう。私はヘンゼルにもグレーテルにもこれ以上悲しい思いはさせたくない。だけど、このまま家に帰さないのが果たして正解なのだろうか。
私は考えた挙句、ヘンゼルの肩をがっしりと掴んで言った。
「ヘンゼル、ちゃんとお家に帰りなさい」
「そんな……」
ヘンゼルの目に涙が浮かぶ。私はそんなヘンゼルをギュッと抱きしめた。
「ヘンゼルの事が嫌いでこんなことを言っているんじゃないよ。ヘンゼルが弟子を続けたいって言ってくれて、とても嬉しかった。でもね、ちゃんとお父さんやお母さんと話をしないと、きっと後悔するよ」
亡き母の事を思い出す。私が小さい頃に無くなってしまって、もっといろんな事を話しておけばよかったと今でも思う。勿論私とヘンゼルやグレーテルでは事情は違うけど、それでもやっぱり親子なのだ。
「お父さんやお母さんと一度ちゃんと話して。それでどうしてもうまくやっていけないと思ったら、その時はちゃんと弟子にするから。家を出るっていう事は大事な事なんだから、ちゃんとけじめをつけないと。グレーテルも」
私はそっとグレーテルを抱き寄せる。
「辛い事があったら私のところに来てね。お菓子でもシチューでも、好きな物を作ってあげる。だから今は家に帰って、この数日の間に何があったか、グレーテルが何を望んでいるのかを、お父さんやお母さんに話してみて」
グレーテルは静かに頷く。ヘンゼルはまだ何か言いたそうだったけど、小さく「分かった」と言ってくれた。
話を終えた所で、そばでそれを聞いていた魔女が言った。
「どうやら決まったようだね。すぐに案内できるけど、シンデレラはどうする?」
「私も行きます。二人がどうなるか、ちゃんと見届けたいんです。家造りは中断してしまいますけど、連れて行って下さい」
私は強く頭を下げた。
「もうだいぶ家もできてるし、少し留守にするくらいかまわないよ。二人の事が気になってお菓子作りに身が入らなくなっても困るしね」
「ありがとうございます!」
笑顔で顔を上げる。するとヘンゼルとグレーテルが申し訳なさそうに私を見た。
「ごめん姉ちゃん、俺達のせいで迷惑かけて」
「ごめんなさい」
そう言って謝る二人の頭を、私は笑顔のまま撫でた。
「迷惑なんかじゃなくて、私がそうしたいの。だって二人は、私の可愛い弟子なんだから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます