シンデレラとカボチャの煮つけ 1
「シ、シンデレラ。今何と?」
あんぐりと口を開きながら、目を丸くする魔女のお婆さん。
ええと、何って。舞踏会があるからお城に行きたいって言ったんだけど。
「アンタ、分かっているのかい? 今日の舞踏会は王子がお妃を決める、大事な場なんだよ」
「はい。そんな大事な舞踏会なんですから、きっと出てくる料理も豪華に違いありません。だから私は行きたいんです……お城の厨房に!」
だって私には、叶えたい夢があるから。
私の名はシンデレラ。
継母や義姉達に毎日虐められているけど、そんな私にだって夢はあるもの。
それはいつか自分の手で、レストランを開く事。だって私、お料理が大好きなんだもん!
掃除や洗濯、義姉さん達の世話と毎日忙しいけれど、料理だけは作っていて楽しかった。
そうして私は一般的な家庭料理はもちろん、遥か遠い東の国の料理まで、様々な料理を勉強していったわ。
料理の本を読んだり、実際に作ってみたり。
だけど貴族の食べる宮廷料理だけは、触れる機会が無かったの。
だって宮廷料理よ宮廷料理。そんなの庶民の私には、とても手が届かないもの。
だから今日、義姉さん達が舞踏会に行くのが羨ましかった。
本当は私も行って、本物の宮廷料理を見てみたかったのだけど、意地悪な姉さん達が連れて行ってくれるはずもなくて、家で沈んでいたの。
だけど、一人留守番をしている私の前に彼女は……森の魔女は現れてくれた。
魔女のおばあさんはとっても親切な人で、何と私の願いを、何でも願いを叶えてくれると言ってくれたのです。
だから私は即座に願いを言いました。お城の厨房に行きたいと!
「呆れたよ。あんた料理が目当てでお城に行くのかい? けどそれにしたって普通に舞踏会にいけばいいのに、厨房だなんて」
「何をいってるんですか!? だって厨房ですよ厨房。舞踏会場だと出来上がった料理を見る事は出来てもレシピは分からないじゃないですか。厨房だったら目の前で作るんですよ!」
「そりゃあそうだけど……アンタには王子をゲットしようって考えは無いのかい?」
「え、何で?」
ビックリして思わず目をパチクリ。
だって王子様がレシピを知っているなんて思えないし。やっぱ料理を学ぶなら、王子様よりもコックに聞いた方が良いよね。
首を傾げていると、魔女さんが溜息をついてくる。
「アンタが馬鹿だってことはよくわかったよ。わたったよ、魔法で厨房に入れてやるから、せいぜい学んできな」
そう言って杖を振ったらあら不思議。私の着ていたみすぼらしい服は、途端に厨房服へと姿を変えた。
「わあ、すごい! まるで魔法みたい!」
「魔法だって。そう言うボケはいいんだよ」
真新しい厨房服を見ると、ついテンションが上がっちゃて、くるんと回転してみる。
ああ、夢にまで見た厨房服だ。
「そういうポーズは普通、綺麗なドレスを着てからやるもんだねどねえ」
「良いじゃないですか厨房服でやっても。コックになりたいって言うのは女の子の夢としては割とポピュラーだと思いますよ」
「本当に小さい幼女ならそうかもね。けどあんたくらいの年になれば、料理は自分で作るよりも彼氏に奢ってもらうものって考える奴も少なくないよ」
そう言えば義姉さんもよくそんな事を言っていたっけ。
義姉さんは胃袋がブラックホールになっているのかと思うほどよく食べるからねえ。奢らされた男性は毎回涙目になっていたみたいだけど。
「本当はアンタをドレスアップさせようと思っていたんだけどね。他にもお城に向かう馬車も用意しようと思っていたんだけど、馬車はいらないね」
「確かにコックに馬車というのは変ですね。それはそうと魔女さん、さっきから手にしているそのカボチャは何ですか?」
実はちょっと前から気になっていたのだ。だって魔女さん、何でか大きなカボチャを抱えているんですもの。
「ああこれかい。こいつに魔法をかけて馬車にするつもりで持って来たんだけど、どうやら無駄になっちゃったみたいだね」
「無駄? そんなことありません」
私はそっと、そのカボチャに手を伸ばす。
「これ、良いカボチャですよ。色といいツヤといい、きっと甘味があって美味しいカボチャですよ。馬車にするなんてとんでもない、ぜひとも調理するべきです!」
「だ、だったらアンタにあげるよ。どうせあげようと思って持って来たんだからね」
熱弁を振う私に、魔女はちょっと引き気味でそう答えた。
「ありがとうございます。でも、本当に良いんですか? こんな立派なカボチャまでもらっちゃって」
「ああ。もう好きにするといいよ」
ため息をつく魔女さん。
ああ、なんだか至れり尽くせりだ。けどこんな立派で大きなカボチャ、うちだけで食べるというのはちょっともったいない。
「あの、このカボチャ、お城に持って行っても良いですか。これを使う機会があるかもしれません」
「何でも良いから、早く行くよ!」
こうして私はお城の厨房へと入った。
お城の入り口で魔女さんが用意してくれた偽の履歴書を見せると、バイトとしてすんなり入れてくれた。
魔女さん曰くそれは魔法の履歴書だそうで、見せたらたちどころに雇ってくれると言う素敵アイテム。
こんなものを用意してくれるなんて、魔女さん素敵すぎです!
憧れていたお城の厨房で作られる料理はどれも華やかで、思わず目を奪われてしまう物ばかり。私はポケットから手帳を取り出し、レシピをメモしていく。
宮廷料理なんてもう目にする機会なんて無いかもしれないから、しっかり書き記しておかないと。
「こら、何をやっている!」
ひっ!
怒声が飛び、慌ててメモを取るのをやめる。
恐る恐る目を向けると、そこには眉間にしわを寄せた料理長がこっちを睨んでいた。
「ボサッとするな! 料理はいくらあっても足りないんだから、ぼさっとしてないで働け!」
「はい、すみません」
深々と頭を下げて。見ると他のコック達はちらちらとこっちを見ていて。うう、とても恥ずかしい。
「見慣れないやつだな。お前、名前は?」
「はい、シンデレラと言います。バイトで入ったばかりなんです」
「バイトか。今日は王子の妃を決める大事な舞踏会なんだからな。バイトといえども気を抜くんじゃねえぞ」
「はい、誠心誠意、お料理を作らせていただきます!」
しっかりやれと言い残して、調理に戻っていく料理長。
ちょっと怖い人だけど、お城の厨房の責任者だもんね。厳しいのも当然かも。
さあ、私もしっかり働かなくちゃ、せっかく連れてきてくれた魔女さんに申し訳ないわよね。
すると仕事に戻ろうとしたその時、血相を変えたウェイターが厨房に飛び込んできた。
「おーい、料理が全然足りねえぞ。なんだかえらくよく食う女がいて、持って行った端からなくなるんだ」
えらくよく食う女……ああ、きっとそれは義姉さんだ。
うちの義姉さんは驚くほど。本当にもう、信じられないくらいよく食べるから。きっと今ごろは舞踏会そっちのけで料理を食べあさりながら、周りの人達をドン引きさせているに違いない。義姉さんはそう言う人なの。
ウェイターから報告を聞いた、料理長も唖然としちゃってる。
「なんか、すごい怪物がいるみたいだな。おいお前ら、何でも良いから持って行け。バイト、お前も何か作ってみろ!」
「私ですか?」
バイトで入ったばかりなのに、まさか作らせてもらえるなんて。
驚いたけど、これはチャンスだ。私の腕がどこまで通用するか試してみたい。
ちょうど魔女さんからもらったカボチャがあったわね。来て早々冷蔵庫の野菜ケースに入れていたあれを使ってみよう。
「すみません、コンロとお鍋、お借りしますね」
鍋に水と調味料を入れて火にかけ、沸騰したところで切ったカボチャを入れる。さらに落とし蓋をしてしばらく待つ。
「始めちょろちょろ中ぱっぱ、赤子泣いても蓋取るな~♪」
「何だその呪文は?」
作りながら鼻歌を歌っていると、料理長が不思議そうに聞いてきた。
「遠い東の国の言葉です。たとえ赤ちゃんが泣いても落とし蓋をとってはいけないって言う意味ですよ」
私は料理マニアだから、この辺では誰も知らないような料理関連の言葉だって知っているのよ。さあ、そろそろ出来たかな?
満を持して蓋を取ってみると、とたんに良い香りがした。見た所に崩れもしてないし、上手く行ったみたい。
さあ料理長、いかがですか? 私の料理の出来映えは……
「おい、何だこれは?」
あれ、どうしたのかなあ? 何だか料理長は、怒っているような。
「何って、カボチャの煮付けですけど?」
鍋の中には茶色い煮汁に浸かったカボチャがあって、お醤油の香りが食欲をそそる。
自分では上手く出来たと思うんだけど……。
「カボチャの煮付け? そんなもの聞いたことも無いわ! こんな暗くて花の無い料理出せるか!」
「ええっ!?」
そんな、まさか料理長が、カボチャの煮付けを知らないだなんて。
ううん、この際知らないのはいい。出せないってどう言うことですか!?
「待ってください。これは東の国の由緒正しい料理なんですよ。ちなみに味の決め手はお醤油です」
常に持ち歩いているマイ醤油を見せる。旅の商人に掛け合って譲ってもらった九州醤油と言う甘味のある醤油で、大変貴重な品だ。
「何だこのシャバシャバしたソースは?」
「ソースじゃなくてお醤油ですって」
「どうでも良い! とにかく、こんな物を出すわけにはいかん! 王宮の品位が疑われる」
「そ、そんな。何もそこまで言わなくても」
「ええいうるさい。それと、もちろんお前もクビだからな」
「ええーっ!?」
嘘でしょう。せっかくあこがれの厨房に入れたのにもうクビだなんて。ううん、この際クビになるのは仕方がありません。けど。
「せめて一口、一口だけで良いから食べてみてください、クビになるのも嫌ですけど、カボチャの煮付けが悪く言われるなんて我慢なりません!」
食べてさえくれれば考えが変わるはず。そう信じてのお願いだったけど――
「そんな物食うまでもない! クビだクビ! 仕事の邪魔だ。さっさと出ていけー!」
結局食べてもらえないまま、ガタンと言う音と共に厨房の扉は閉ざされて、私は外に追い出されてしまった。
その手にあるのはタッパーに入った、さっき作ったばかりのカボチャの煮付け。結局ろくな勉強もできずに、これを作っただけだった。
そんな、せっかく夢にまでみた厨房だったのに。
だけどいつまでもここで佇んでいても仕方がない。私は悲しみにくれながら、とぼとぼと厨房を後にした。
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