月へ行ってきます
りーりん
月へいってきます
「コウ君……本当に月へ行くの? まだ安全が確立されてないのに早すぎるよ……ねぇ、考え直してよ」
「ごめん、もう決めたんだ。俺がずっと月へ行きたいと思ってる事、アカネは知ってるだろ?」
「だって……」
「第一船団は無料とか、これ以上無いチャンスだ。普通に行けばまだまだ億単位は必要になる。それが抽選で当選したんだ、運いいよな、ほんと」
「でも、第一船団て、要は先遣隊でしょ? 月での暮らしが出来るかどうかのお試し要員の集まりじゃない……いくら無料でも」
「それでも、俺は決めた。もし事故が起きて、最悪死ぬことになっても後悔はないよ、だって月へ行けるんだから」
「なんでそんなに拘るの? 別に月になんかいかなくてもいいでしょ?」
「言葉で言い表すのは難しいけど、宇宙に行ってみたいんだよね。なんでかな、ここでの暮らしに不満とか無いんだけど、宇宙に憧れがあるからかなぁ」
「……私より、宇宙が好き?」
「いや……アカネが好きだ。アカネとはこの先もずっと一緒にいられる。今は遠距離になるけどそんなに長い時間じゃない。でも、このタイミングを逃したら二度と宇宙へは行けないんだよ」
「ごめん、アカネ……泣かせたかったわけじゃないんだ。わかってもらいたかった」
「月から連絡するよ、毎日する。だから、笑顔で見送ってほしかったな……」
「俺、もう行くよ……ごめん。でも、アカネとさよならするつもりはないから、見守っててほしい。我儘で、ほんとごめんな。それじゃ、いってくるよ」
「……すきなら、離しちゃだめだよ……コウ君……」
☆☆☆
「月移住計画密着スペシャルを毎週お送りしてきましたが、いよいよ第一船団が月へ向けて出発するようです」
「いやぁ……人類の夢と希望が詰まった旅。実は僕も抽選に応募したんですが見事外れちゃいましてね、彼らが羨ましいですよ」
「月にはすでに居住食などの環境は揃っているんですよね?」
「えぇ、えぇ。今回の目的は、その環境で人が何の支障もなく暮らせるかを確認する為の、移住計画前期って感じですね」
「なるほど~。では中期は第二船団、後期は一般の人も移住出来るようになる……?」
「まぁそんなところでしょう。今回は地球圏の各国が総力を挙げて移住計画を進めていますからね、順調に進んでいくと思いますよ」
「まさに夢と希望が詰まった船ですね! あ、間もなくカウント開始です」
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「……発射されました! 今、世界の全ての人の夢を乗せた船が旅立ちました! 2日程の宇宙旅行を経て、これから人類が暮らしていく月を目指して!」
「いやぁ、歴史的瞬間に立ち会えて嬉しいかぎりです」
☆☆☆
「メールが届きました、メールが届きました」
「音声でお知らせ設定切るの忘れてたー、うるさいなぁもう。あ、コウ君からのメール……日付が昨日の8月2日になってる。送ってから届くまで一日かかるんだ。これじゃ通話は無理っぽいなぁ」
「宇宙すごいって内容ばっかり……置いていかれた私の気持ちなんて、わかんないんだろうな」
「返事、どうしようかな。置いていった事後悔させたいから少しスルーしよう、私の事心配になってきたら返事する。それくらいのいじわるいいよね……?」
☆☆☆
「8月20日、本日のニュースです。昨日起きた、月での大規模な爆発事故の詳しい状況をお知らせします。爆発の原因は発熱装置の誤作動によるもので、町や覆っていたドームは壊滅ですが船は無事だそうです。なお、被害状況は深刻で、移住者3000人のうち、約1000人以上死傷、約1500人は行方不明という事です。政府の発表によりますと、事故が想定を超える規模である為、救助船の派遣に数日要するとのことです。また、ドームの外へ放り出された人の捜索は極めて困難であるが、出来る限り尽力する、と発表しました」
☆☆☆
「メールが届きました、メールが届きました」
8月19日、19:00。
今日は朝から畑仕事だったよ。まさか月で農業やるなんて思わなかったから、変な感じしたよ。時間は朝のはずだけど、まわりが暗いから特にね。
地球の外にいるんだ、て実感出来る。それと同時に、なんか寂しくもなる。青い空が恋しいと思うなんて、ホームシックってやつなのかもしれないな。
重力にも慣れてきたよ。体が軽いこの感じ、アカネも体験したらきっと楽しめると思う。
いろんな国の人と翻訳機越しに話してるけど、いろんな文化圏の話が聞けて楽しいし、暗い場所だけど孤独感はない。
でも、アカネと離れてるのは辛いよ。
もうそろそろ付き合って2年になるね。お祝いとかしてあげられないけど、後数年経てば迎えにいける。アカネは嫌だって言うかもしれないけど、二人で暮らさないか?
月は、アカネが思ってるよりずっと住みやすいよ。
またメールする。明日も畑作業で朝早いんだ。おやすみ。
月へ行ってきます りーりん @sorairoliriiro
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