第2話 地球人との出会い

 ◇

【NASA】

ハワイ沖で発見されたジオ号の破片の分析調査は難航を極めていた。破片は発見された当初から非常に強い放射能を発していたために作業は放射線除去装置内でロボットによって破断した僅かな破片を分析装置にかけていた。

金属部分は地球上に存在するものとそうでないものが混在した合金でできていた、樹脂のような部分は地球上に存在しない耐久性にすぐれたプラスティックのような物質でありNASAの学者も組成を解析してもその分子構造を理解することもできなかった。


 ◇

エトロとサンドラはサンディエゴのダウンダウンに住む場所を探した。アパートを求めて不動産のエージェントを訪問した。看板には外国人向けアパートを斡旋してくれると書いてある。眼鏡のような形をした文字認識トランスレータをかければ看板も書類も新聞も読むことができるのだった。

不動産エージェントではトランスレータを使って会話する2人はおおいに怪しまれたが、結局グリーンカード、就労ビザなどの提示がなければ契約は難しく、ましてや出身国不明の外国人となれば借りられるアパートなど皆無と言って良かった。しかし2人から何か特殊な気配を感じたエージェントの男はある人物を紹介すると言ってくれた。それは難民や亡命者を救うNPO法人団体の代表者だった。

その代表者の事務所は不動産エージェントから3ブロック先とのことなのですぐに行ってみるとちょうどエージェントの男と電話しているところだったので、すんなりと面会ができた。NPO団体の代表の男はカスティーヨと言い20年前にキューバから亡命した人物だった。カスティーヨは2人がどこか得体の知れない外国からの亡命者だと思ったが高性能のトランスレータを所持していることや彼らの話す内容が非常に知的であることから単なる亡命者ではなくスパイやテロリストである可能性を感じた。カスティーヨは日ごろのNPO活動に賛同してくれる協力者達からの援助で自分の斡旋できるアパートをサンディエゴだけでも5棟所有していたため、彼らに居住場所を斡旋することは容易な事なのだが事件に巻き込まれたくはない。


カスティーヨは2人に正直に聞いた。


「アパートは準備してあげられる。すべて家具付きだ。但し君たちの身分を明らか にして欲しいのだ。亡命者なのか、スパイなのか、テロリストなのか、身分を隠

 した警察官なのか、麻薬の運び屋なのか。もちろん私はどのような者であっても

 口外しない。」


エトロは答えた。


「スパイでもテロリストでも警察官でもない。スパイならわざわざ一般人に接触し て住居を探すことはしない、テロリストなら男女2人で行動するような目立った 事はしない。そしてもしも我々が警察官なら君がそこの隣の部屋に大量の麻薬を

 保管をしている事でとっくに逮捕している。」


サンドラは小型解析装置でこの事務所の奥の部屋に人類を覚醒させる物質が大量に保管されていることを確認でしていた。カスティーヨは驚愕した。


「わかった。言うとおりにするから私の協力者になってくれ。しかし君達は一体何 者なんだ!」


カスティーヨはサンディエゴのダウンタウンにあるアパートの201号室を貸す事にした。彼らはデル星と交信をし、最終的にはデル星に帰還することがミッションである。これは長期的なミッションとなることは間違いなくまずは地球人にまぎれて生活していくことが重要な事なのだ。そのためにも住居を確保できたことはありがたかった。


 ◇

マルチターミネータの1台が無くなった事に気付いたサンドラはすぐにGPSで場所を確認したところ、装置がある場所はダウンタウンの中でその表示はゆっくりと街中を移動している。誰かが所持して歩いているようだ。この端末機が地球人の手に渡り解析されてしまうと地球には存在しない装置なので大騒ぎになってしまうかもしれない。エトロとサンドラは装置の位置を確認しながらダウンタウンに向かった。

テヒョンは彩とともに愛車のクーパーで映画を観にダウンタウンに出かけていた。

路上パーキングに駐車して車を降りようとした時だった。


「あぶない!」


彩が助手席から叫んだ瞬間、後ろから走ってきたバイクがテヒョンの左腕にぶつかった。テヒョンはその場で倒れたが腕の肘から二の腕あたりに大きな切り傷を負ってしまった。


「テヒョン、大丈夫?」

「あぁ大丈夫だ」


幸い他には怪我はなかったが切り傷は深く大量に出血している。

駆け寄った彩は血の気が引いたがスマホから911に連絡した。ぶつかったバイクの運転手は若い男だったが倒れたバイクを起こしてそのまま立ち去ってしまった。現場の周りには人が集まり親切な女性がスカーフで腕の付け根から止血してくれた。


GPSでマルチターミネータの行方を追っていたエトロとサンドラはいよいよ装置に近づいたところで前方の道路には人だかりができていることに気付いた。人垣の間から覗いてみると若い男が腕から血を流し、若い女性はうろたえている。エトロは人垣を割ってテヒョンに近づき腕を見るやテヒョンに言った。


「静脈が切断されているが特に命に別状はない、血管を再生させ傷口を塞げばすぐ に元に戻る。」


エトロはこの数日間で英語というこの国の言語をほぼ覚えてしまっていた。

サンドラはバッグからスプレーとポーチを取り出し、さらにポーチからは薄い湿布材のようなシートを取り出しエトロに渡した。エトロはスプレーを良く振ってからテヒョンの傷口に噴射しシートを密着させた。そして1分ほど経ってからシートを剥がした。するとテヒョンの傷は魔法のように全くなくなっていてうっすらと出血した部分が内出血のように紫色になってるだけになっていた。周りの人々は驚き大きな声を出して拍手した。

エトロとサンドラは到着した救急隊員に怪我は軽るかったと話して帰し、テヒョンと彩を連れて人ごみから離れた。


サンドラはこの若い女性がマルチターミネータを持っていることを確信していたがまずは2人の素性を知りたかった。


「あなた方は普段は何をしているの?」


サンドラの若干たどたどしい英語に、テヒョンは「学生です」と答え、3人でルームシェアをしていて親元を離れて留学中のアジア人だという事も話した。エトロとサンドラは2人との会話の中に危険を感じず親近感すら沸いてきていた。彼らは我々の今後のミッションのために役に立つかもしれないとも考えていた。サンドラは彩に尋ねた。


「あなたは小型の端末機のようなものを持っているわね?」


彩は驚いてバッグから取り出した。


「あなたの物なの?」

「この装置は便利なものよ。きっとあなた達のお守りになるわ。大切に持っていて ね。但し絶対にこれを人に見せたり預けたりしてはだめ。そして悪用することも

 だめ。その時はあなた方に危険が訪れてしまうことになるわ。わかった?」


彩はテヒョンの顔を見てから頷いた。

テヒョンと彩は魔法にかかったような気分だったが、さっきの怪我をどうやって治したのかが気になって仕方がなかった。彩は、エトロとサンドラの話に夢中になってしまい、聞くことを忘れてしまっていた。そしてテヒョンがそのことを尋ねると、エトロは言った。


「細胞を活性化させて急激に成長させてやっただけだ。怪我はほうって置けば細胞 が成長して治るだろ?その速度を極端に速めただけなんだ。簡単な事さ」


テヒョンはエトロの知的な雰囲気と茶目っ気な笑顔に引かれ興味を持った。


「もっと話を聞かせてください」


と頼むと、エトロはサンドラに向かってデル星語で囁いた。


「地球人の知人を持つことはこれからのために役に立つのかも知れない」


サンドラも笑顔で頷いた。


4人はコーヒーショップに入ったがエトロは慣れない店に戸惑っているとテヒョンが尋ねた。


「コーヒーでいいですか?」

「コーヒーって何?」


エトロが逆に聞いてきたから驚いた。


「この人達は何なんだろう。」


テヒョンと彩はますます興味を持った。

テヒョンはエトロとサンドラにコーヒーを運び席についた。コーヒーを口にしたサンドラは顔をしかめ、エトロは思わず苦笑いを浮かべた。


「本当に初めて飲んだの?おいしくない?」


彩は2人に聞いたが2人は軽く頷いた。

2人の素性は細かく聞くことはできなかったがまた再会する約束はしてくれた。テヒョンと彩の住所も伝えておいた。聞けばとても近いところに住んでいるらしい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る