第4話 地球人がミサイル発射
◇
地球の事前調査を終え、いよいよ着陸ミッション開始のためにエトロとサンドラはバーディ号に移動した。最終チェックを終えたところでニスラムのカウントダウンが始まった。
「10,9,8,7,6,5,4・・・」
エトロは将来地球人がデル星人を受け入れ、友好関係を結び永遠に共存していくことができる事を祈った。
サンドラはこのミッションが成功する事だけを祈り大きく息を吐いた。
「3,2,1」
ニスラムが叫んだ
「ミッション2スタート!」
バーディ号はジオ号の開口部からゆっくりと放たれた。そしてステルスバリヤと非可視光線バリヤで船体を覆い、地球の重力を利用して一気に地球上へと向かった。
その同じ瞬間、リチャード大統領は各国首脳がリアルタイム映像で見守る中、新型ミサイルの発射ボタンに指をかけた。
「ミサイル-発射!」
すでに宇宙船にロックオンしているミサイル3発は次々と発射台を離れ不気味に白い煙を残しながら上空に飛び立ち、ジオ号が静止している方向に少しずつ軌道を合わせるように方向を変えていった。
エトロは非可視光線で覆われたバーディ号で地球の大陸を目指して降下していた。
その時、ジオ号司令室のレーダーは地球上から高速で近づいてくる熱物体を捕らえていた。
「なんだ?これは?バーディ号への攻撃なのか?」
この熱物体の発熱量と速度はロケットであることは明白だった。
「ロケット?」
弾頭を積んでいればそれは攻撃用ミサイルを意味するものだった。
「サンドラ、ロケットが地球から発射されたようだ!ジオ号に向かっている!いや ロケットじゃない!ミサイルだ!」
地球へ降下を続けるバーディ号からエトロはミサイル3発が地平線からジオ号に向かっているのを発見した。一瞬それが何を意味するのか理解できなかったが次の瞬間エトロは背筋が凍りつく思いがした。すぐにニスラムに告げる。
「ニスラム!ミサイル3発がそっちに向かっている!ジオ号を撃墜するために地球人 はミサイルを発射させたんだ!ニスラム、全速力で大気圏外に逃げるんだ!」
「私も確認できている!すぐに待避する」
ニスラムは大気圏外に緊急移動すべくエンジンを始動した。ジオ号はバーディ号を開口部から放出した際、微妙に体勢を崩し更にイオンエンジンのバランス調整のトラブルが重なり体制を大気圏側ではなく地球側に向けてしまっていた。エンジンを急加速させたジオ号はその初動は地球に向かって降下したがすぐに上昇するよう方向転換を図った。大気圏に急上昇するジオ号と高速で上昇を続けるミサイル。
そのミサイルはぐんぐん迫ってくる。
ジオ号は直線的に上昇を続けたがミサイルが近づいたために一気に90度軌道を変えた。
しかしミサイルは一瞬遅れるだけですぐに方向を変え追尾を再開する。1発目のミサイルが接近した。ここでも90度の瞬間的方向転換を行った結果1発目はジオ号から外れ大気圏で爆発した。そして2発目のミサイルが接近してきた。
1発目のミサイルがかわされたジオ号の瞬間的方向転換を学習しており僅かな動きを先回りして追尾するシステム。これこそがアメリカの最新鋭ミサイルだった。
すでに上空で旋回しているロシア軍とイギリス軍の偵察機はアメリカ軍の新型ミサイルが大気圏外に必死で逃げる宇宙船の軌道を確実に捉えているデータを各国に送信していた。
ミサイルに搭載したカメラに写る宇宙船は地球の飛行体ではありえない角度に方向を変えたり自在に加速度を変化させたりしていて時折飛行船周囲から不気味な光を回転させて放っている。
◇
エトロとサンドラはバーディ号から叫び続けた。
「ニスラム!放射線バリアでジオ号を包囲して!」
「化学レーザー砲を放射して迎撃するんだ!」
しかし、放射線バリアは酸素と窒素が存在する大気圏ではバリアの発生が不完全なため今のジオ号には役に立たない。また化学レーザー砲も酸素が多い大気圏内ではミサイルを破壊する威力は発生できない。ジオ号は戦闘を目的としていないため武装をしていないのだ。
ニスラムはデル星に向けて緊急信号を送り続けているが、大気圏内からでは遥か2300万光年離れたデル星には届かなかった。
「カプセルだ。せめてこの調査だけでもデル星に届けなければ」
ニスラムはデル星に向けて緊急カプセルを発射した。緊急カプセルとは、ジオ号が生還できない場合でも、ジオ号のこれまでのミッションの内容をデータ化して強靭なカプセルに自動保存されているもので、カプセルから発信される微弱電波を宇宙開発局の宇宙船が傍受すれば回収、分析されるものだ。
しかしデル星から2300万光年離れたこの地球という星から宇宙開発局の別の宇宙船がカプセルの電波を傍受する可能性はほとんどなかった。
ニスラムは次に地球に向けメッセージを送った。地球の周囲に取り巻く短波の周波数は分かっている。地球人はデル星人と同様、電波に乗った音声をレシーバーで聞いていることも分かっている。
「英語」と呼ばれる言語にトランスレーターを介してニスラムは叫んだ。
「地球人のみなさん、我々はあなた方と共存を目指しはるか2300万光年先からやってきたのです。決して危険な者ではない。我々を攻撃せず話し合いをしようではありませんか。すぐに攻撃を止めてください!」
傍受した電波からニスラムの声は国防総省の指令室に響き、指令室内のみならず同時に聞いていた各国首脳はお互い目を合わせ驚愕した。リチャード大統領は目を丸くしたまま叫んだ。
「攻撃はすぐに中止だ!」
すぐに攻撃停止を指示したのだが、それはあまりに遅かった。
大気圏外へ緊急避難の際にジオ号が僅かに方向転換に時間を要してしまった遅れは取り返しが付かないものだった。ミサイルはロックオンした宇宙船との距離をみるみる縮めていった。
リチャード大統領がミサイル自爆スイッチに手をかけた瞬間、2発目のミサイルはジオ号の開口部に激突した。
エトロもサンドラも必死で叫び続けたが成層圏で大爆発とともに無数の光を帯びたジオ号の破片が大空に飛び散っていくのが見えた。
「なんと言うことだ!」
呆然とするエトロの隣でサンドラは泣き崩れた。エトロとサンドラはこれまで支えてくれたニスラムだけでなくデル星に帰還する宇宙船をも失ったのである。
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