あなたの金星

人形創りはヒトの業と呼べる。あの人は一度だけわたしに語った。理想の器、既存しない夢、幻想の美談を求め尽くした人は、やがてヒトの世に対の歯車は存在しえないと気づく。噛み合わない理想を注しても、触れたところから錆が拡がるだけでちっとも回りはしない。自分に合う歯車。自分の凹凸にぴたりと嵌って生命を動かす部品は、探すより造った方が余程良い。その虚妄に取り憑かれたのが、絡繰の創り手ということ。皆、本当はそんなものなのだろうとわたしは飲み込んで、あの人の胡乱な瞳に映るものを探した。

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