ゆきさき

この風が僅か残った冷たささえも失う前に、僕は何処まで往けるだろうかと考えた。ひとのようには萎えることのない脚も、主人を失えば油を挿されず見掛け倒しのガラクタと成り果てる。僕の躯の一部分たりとも、生まれた時から僕のものではない。使役され愛でられ、そうでなければ、僕らは一歩も動く資格も必要もない。けれども僕は不自由な安寧を蹴飛ばして欠けた脚で、吹きさらしの荒野を往く。そして嫌というほど覚えた。賞賛されるだけ、哄笑されるだけ、どちらの選択肢も存在などしない。僕はただ、選んだだけで、それはあってもなくても同じようなものであった。枯れた脚に棘を刺しながら最果てまで這いずるか、道半ばで尽き果てるか、選択の後先にしかヒトは興味を持たない。だが、哀しかな僕の瞳には前も後ろも、宵闇だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る