散骨ののち

旧き我が家の裏手、誰のものとも言いきれず、時々訪れる私が手抜きながらに面倒を見る藤棚の下には、数年前からヒトガタの欠片が見つかるようになっていた。ある人には価値があるのかもしれないし、ある人には忌避の対象なのかもしれないけれど、幸か不幸か古民家育ちの私はそうした怪談じみたものにも特に心揺さぶられることがなく、またこれといって蒐集の趣も持ちえず、それは年月をまたいで少しずつ貌を見せてきた。手入れをすれば美しかろう艶やかな髪はおかっぱにも満たない短髪。硝子玉の瞳は深い奈落の色に似て、しかし光にかざせば紫紺の煌きを返す。しなやかに、だが不思議と女性体特有の華奢さを持たない造形。それこそ怪談めいて人形の持つ魔力というものか、あるときから私の中に、その体躯のすべてを見てみたいという好奇心が芽生えた。

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