第2話 変容


 Nはどこにでもいる平凡な人間だった。まず、容姿が平凡だった。高過ぎず低過ぎない身長、太過ぎず、細過ぎない体型、イケメンでもブサイクでもない顔、全てが平凡だった。かといって話が面白いわけでも、人に聞かせる武勇伝もない。人が羨む能力や学歴もない。当然彼女はいなかった。Nはせめて人を惹きつけるような容姿であれば彼女の一人くらいはできるのではないかと考えていた。


 そんなある時NはP博士から妙な薬を受け取った。なんでも自分の理想の容姿を手にいれることができるらしい。いかにもうさんくさい薬だ。しかしNはこれまでの平凡な人生に絶望していた。そんな自分の人生を変えたくてリスクを承知でその薬を飲んでみることにした。


 その薬は苦くもなく、甘くもなく、味がしなかった。ちょうど自分の人生のようだとNは自虐気味に思った。


 飲んだ後に痛みや幻覚などもなく体に悪影響を及ぼすような薬ではないと感じ始めながら鏡を見た時、異変に気がついた。


 理想の容姿などぼんやりとしか考えたことはなかったが目の前に写る姿はまさしく自分の理想とする姿だった。きっとこれからの人生はバラ色だとNは直感的に感じ取った。


 それからというものNの人生は変わった。街を歩けば誰もがNに注目し、声をかける女性も増えた。そしてNに彼女ができた。それまでのNでは声をかけることもできないような美しい女性だ。


 しかしその女性にはすぐにふられてしまった。原因は会話が続かないことだ。Nには女性を満足させるような受け答えができなかった。Nは最初は相性が悪かっただけだと思っていたが同じことが何度も続き、原因は自分にあることに気がついた。



 そんな時P博士はまた現れた。今度は高いコミュニケーション能力を得ることができる薬らしい。Nはためらうことなくその薬を飲んだ。


 すると息を吐くように相手を満足させる話ができるようになった。Nは今度は長く女性と付き合うことができるようになったと思った。


 しかし薬を飲んだ直後に付き合った新しい彼女にもふられてしまった。前よりも付き合った期間は長かったがNは満足できなかった。彼女は

「かっこいいし、話も面白いけどなんかつまんない。なんでだろうね?君という人間の中身が見えない。」

と言っていた。Nには彼女の言っていることの意味がわからなかった。自分には何が足りないのかわからなかった。


 するとまたP博士は現れた。魅力的になるための新しい薬をもってきたのだという。Nは効果もよく聞かずP博士から薬を奪い取り、飲んだ。


 Nは自分がもっと魅力的になったと思った。これで理想の人生を送ることができると思った。



 それから数年後Nは最近自分と似た人を多くみかけるようになったと思った。イケメンで身長が高く、会話が面白い。もちろん顔は自分とは似ても似つかないし、話の内容も異なる。しかし、どことなく自分と似ている気がするのだ。




 Nはふと思う、自分は誰なのだろう、と


 現在Nに彼女はいない。

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