第29話 再び
第29話 再び
「ご名答。しかし、当然たどりつくべき結論とも言える。」
「家族をなんだと思ってやがる!」
「さっきも言ったかな。『研究対象』だ。」
こいつ、狂ってる。
「そろそろ、向こうの世界に行ってもらう。何か他に欲しいものがあるか?」
「ふぅー、ふぅー…」
頭に血が上って、動悸が治まらない。
しかしこのまま感情に身を任せて、わめき散らすのはダメだ。わめき散らしたらここから出れるのか? 違うだろう。
戦力は、チトセとセックスピストルズ一丁では足りなかった。そして、再び戻ってくるにはアラン一行の協力が不可欠だ。
同時に奴の戦力を少しでも削る。いつか戻ってきたときのために。
冷静になれ。交渉するんだ。
「その、お前の銃を渡せ。」
「これか。」
「そうだ。」
奴の白衣の下にも、銃のホルダーがあった。
「もう一丁欲しいとは、強欲だな。」
もう一丁のセックスピストルズ。一つ持つのと二つ持つのでは生存率が大幅に違ってくるだろう。
僕が死ぬのはあいつに取っても痛手のはず。
「そいつは僕が生き延びるのに必要なものだ。」
「くくく…何を考えてる?」
「戻ってきて、お前に報いを受けさせてやる。」
「ほぅ、それは面白い。わかった。持っていけ。」
奴はセックスピストルズのトリガーに指をかけた。
「所有者変更。」
『了解しました。』
そして、こちらに銃を投げ入れた。続いて、銃弾のケースも。
「お前の記憶を見ているときに思ったよ。『さすが私の息子だ』と。生き延びるための決断力、冷静さ、合理的思考。しっかりと私の血を受け継いでいるようで誇らしいよ。お前が必要というなら、そうなのだろう。お前の中にある私の血を信じよう。くくく…。」
最後に、例のキーホルダーを投げ入れてきた。コロコロと、眠り続けるチトセと僕の間の辺りに転がる。
いくら向こうの世界で時間をかけても戻ってくる時間は『今この時』、同じだ。母さんに寂しい思いはさせない。
次、戻ってくるときは、入念な準備をする。この研究室から脱出するための準備だ。
これから、僕にとっては長い時間が流れるだろう。対して奴は戻ってくる僕を一瞬待つだけだ。
そして、再び――。
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