第27話 肉壁

第27話 肉壁


「奥へ急いで!」


 チトセの声に従って、僕は雷龍の口内の奥へ。

 血と唾液の酷い匂いだ。

 肉の壁の外から、「バスッ」という音が聞こえ、甲高い銃弾の音は鳴り止んだ。

 と同時に聞こえるバチバチという音。

 暗い口内がピカピカと光る。

 コマ送りされるように、視界が真っ暗になったり、明るくなったりする。

 そのうち、僕のいる空間の上部の赤い皮膚が「グググ」と膨らんできた。

 そして膨らむに連れて鮮明な赤は半透明のピンク色になっていく。

 その皮の下には、細い無数の羽をバタつかせている銃弾があった。

 雷龍の肉のおかげで銃弾の勢いが大分削がれたようだ。

 やがて銃弾の速度はほとんどゼロになり、皮膚のふくらみも治まってきた。

 しかし、その下で銃弾が暴れ、雷龍の死骸の残留した電気が放電しているのかバチバチと音を鳴らしてチカチカと光っているのがわかる。

 皮膚がこちらに向かって、伸びたり、縮んだりしている。

 その銃弾はドラゴンの肉の中でも、まだこちらに向かおうとしているのだ。

 ドラゴンの口内の皮膚はどのくらい削れば穴が開くのだろうか。


 止めなければ!


「フゥー、フゥー。」


 口で深呼吸をして心を落ち着かせる。

 腰につけた銃を痛みのない方の腕、左腕で掴み、伸び縮みする皮膚へと向けた。

 銃の先に内蔵されたフラッシュライトが点灯し、安定した光を供給した。

 口の外からチトセの声が聞こえる。まるで随分遠くで喋っているみたいに微かに。


「解除して!」

「わかってるって!……銃弾を解除しろ!!」

『了解。』


 皮膚が弾けて血と銃弾が飛び出してきた。


「うっ。」


 とっさに頭を倒し、避ける。

 間一髪だった。僕は口内の隅々をフラッシュライトで照らし、停止したであろう銃弾を探した。


「どこだ……?」

『うーん、もっと右?もうちょい上かもですね。』


 なんでだろう。

 この喋る銃は最初に比べて随分とフランクな話し方になってしまった。

 足元に見つけた。赤い皮膚にポツンと転がる銃弾。もう二度と僕を追いかけたりはしないだろう。

 この銃から放たれた銃弾は、この世界では一瞬で、あの世界の時間では数日を挟んで、


 同じ銃によって停止されたのだ。


 僕は銃弾を無力化したのを確認した後、口の入り口に向かって這いずった。

 さっさとこの臭い口内から出たい……。

 すると、入り口から手が伸びてきた。


「あ、チトセ、ありが……」


 待てよ。ちょっと腕がゴツ過ぎやしないか。

 その腕は僕の髪の毛を掴んで、強引に引きずり出そうとする。

 待って。ハゲる!ハゲるから!

 髪と襟を掴まれ、あっという間に全身を引きずり出された僕はうつぶせに、腕を背中に回され、地面に押さえつけられる。


 視線の先にはチトセが同じように地面に抑え込まれていた。

 僕との違いは、向こうは三人がかりで押さえているということくらいか。


『お前らなんなんだ!クソ!俺の腕を返せ!』


 『ボス』の声が聞こえる。

 この状況を頭で整理しようとする前に、首に強い衝撃を受けて目の前が真っ暗になった。

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