第24話 自動迎撃システム

第24話 自動迎撃システム


「君……ちょっと頼みたいことが……」


 僕はポケットの中の『オモチャ』を意識した。


「お前馬鹿か!?ゆっくり話聞いてる暇なんかあるかよ!」


 そう言うと、雷の子の手足からバチバチと稲妻が走り、彼は浮いた。

 稲妻の束は地面に落ち続けている。


「人ってこんな風に浮けるんだ……」


 その状態からまた地面に吸い付くように降りて、腰を落としてから、飛び上がった。


 またしても3分も経たずに僕は一人ぼっちになった。


 だけど、それもすぐに終わるかもしれない。


 雷龍が、あの炎龍がそうしたように、『大きく胸を膨らました』。


「あ。」


 雷龍の口が開き、光を発したのを見てから、僕の視界は真っ白になった。


 ドカンと雷の落ちる音、そして『落ち続ける』音だ。


 目をつぶっても真っ白な視界、耳を塞いでも鳴り続ける「ゴロゴロ、バチバチ」という轟音は僕をパニック状態寸前にする。


 だけど不思議と痛くない。


 それが救いだった。


 痛くないなら攻撃を受けていないはずだ。


 周りに避雷針などはなかったか? 山の木が近かった? それとも雷の子の方に攻撃したか?


 少なくとも僕に攻撃が来ていないのは確かだろう。


 僕は周りが見えない中、地面に膝をつき、伏せる。


 だんだんと、光と音が弱まって来た。轟音が収まり、代わりに時々「ビリビリ」と細かな音がする程度だ。

 僕は恐る恐る目を開く。そして視界がじんわりと戻って来た。

 必死に目を慣らしていると肩にビリッとした感覚があった。

 グイと仰向けにされ、馬乗りにされ押さえつけられた。

 例の雷の子だった。


「お前今のどうやった?」

「どうやったって、何が?」

「どうやって防いだんだよ!?」


 雷の子はイラついている。


「知らないよ!それよりドラゴンは!?」


 仰向けの状態から顔をあげて、ドラゴンを確かめる。

 雷龍は黒く、『固まっていた』。


「なんでお前はあの雷を受け続けて、無傷なんだ!オレでさえ…くそっ!」


 雷の子はそれより先を言うことをためらった。


「僕が?」


 僕が雷を受け続けていた?


「……もういい。もう少し見させてもらう。」


 雷の子は底から飛び出し、山の木々の中へと姿を消した。

 僕は、固まった黒いドラゴンを恐る恐る見る。

 死んだ?いや、そんな馬鹿な。


「熱っ。」


 なんだ。ポケットの中がとても熱い。

 僕はその原因であろうテレポート装置を取り出す。


「熱っ。あっつ。」


 そのキーホルダーはとても熱くなっていて、目が緑色に光っていた。


「…? …あ、そうだ。」


 僕は見たことのない生物には必ずこれをやると決めている。

 僕は銃を取り出して、動かないドラゴンに向けた。


『爬虫類です。先の炎龍と同じような見た目ですが……燃焼ではなく、発電しているようです。よって中の仕組みは炎龍よりも電気ナマズに近いと考えられます。』


 雷を落とすナマズがいてたまるか。


「生きてるか?」

『生きています。ただし、仮死状態です。』


 動かないのはそのせいか。さきほどの放電でエネルギーを使いすぎたのだろう。


「弱点は?」

『炎龍の死体の解析結果から推測すると、「逆鱗」が弱点です。』

「逆鱗?」


 ことわざでしか聞いたことがない言葉だ。確か、「逆鱗に触れる」。


『顎の下に一枚だけある逆さのうろこのことです。』

「刺せば殺せる?」

『その通りです。ただし、あの防御を対策できればの話ですが。』

「あの防御って……仮死状態だろ……?」

『よく見てください。』


 僕は注意深くドラゴンを観察する。その龍は黒いけれど、稀に小さな光を発している。


「稲妻……」


 セックスピストルズの上部に仮想ディスプレイが出る。そこに映っているのは落ちていく葉っぱだ。

 ひらひらとドラゴンへと落ちていく葉っぱ。そして、それはドラゴンから発せられた稲妻により撃ち落とされた。


『イスラエルの開発した自動迎撃システムに似ています。』


「自動迎撃って…」


 その仮想ディスプレイにはドラゴンからの放電により、ハエや蚊が撃ち落とされる様子も映し出されていた。


「うん、今のうちに逃げよう。」


 しかし僕の決断は遅すぎた。

 なんですぐに逃げなかったんだ。

 決断と同時に、ドラゴンが、ゆっくりと、動き始めた。

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