第15話 死の数

第15話 死の数


「アキの世界では平均寿命が80歳だって?」

「そうだ。」

「それはおかしいねぇ。自然の法則に反している。」


 56歳の老婆がしわがれ声で応える。


「衛生環境の改善と医療の発達のおかげですよ。」

「この世の摂理を捻じ曲げるような、強い魔術が使われているに違いないねぇ。」

「そんなことはないです。科学のおかげですよ。」

「あたしも薬学で『龍の毒』を作るけどねぇ。80まで寿命を延ばす薬は作れないねぇ。」

「そうですか…」


 魔法でなんでも解決できるわけではないらしい。

 そこで、アランが思い出したように話し始めた。


「ばあちゃん、アキの持っている武器、銃って言うんだけど、見たことないかい?アキ、出してくれ。」


 僕は腰のポーチに入れていた拳銃、セックスピストルズを取り出し、机の上に置いた。

 老年の魔女は目を見開いて、銃を見つめる。

 しばらく、見つめてから、こう言った。


「わかったからもうしまっとくれ…」


魔女の目が曇るのを見て、僕は銃を腰のポーチにしまった。


「何かわかったか?ばあちゃん。」

「それに施されている魔術回路には興味があるけどねぇ、この老体で詳しく調べるのは無理だねぇ。」

「何でだ?」

「それの記憶を見たよ。…それは人を殺し過ぎている。しかも何の罪もない人をだ。」


老婆が僕をキッと睨む。


「ばあちゃん、それをやったのはアキじゃないよ。」

「わかっとるわ。前の持ち主だろ。」


あいつはどれほどの人を殺してきたのだろうか。


「というわけで、これ以上は見たくないねぇ。」

「そうですか…」

「これ以上は見ても仕方ない。複雑すぎてお手上げさ。」

「ま、アキ。それの『仕組み』はわかった方がいいに越したことはないけど、すぐに使うわけじゃないだろ?」

「ああ」

「今回は魔術回路が使われてるということがわかっただけで良しとしよう。」

「えっ。あっそうか。」


確かに老婆はそう言っていた。


「科学と魔術は案外近いものなのかもしれないな。銃は緊急のときのために取っておこう。ここぞという時だけ使うんだ。」

「わかったよ。」

「ところで、銃弾はあといくつだい?」

「そうだね。確認しておかなきゃ。」


そう言えば数えるのを忘れていた。

僕は銃を取り出した。

(老婆は目を背けた。)

そして回転式リボルバーのシリンダーをズラし、中身を確認する。


「えっ。」


そうだった。銃弾に毒を塗った時に見たはずだったが忘れていた…。


セックス・ピストルズのたったひとりの開発者は『4』という数字を異常なほどに嫌っていた。「自分の周りでは『4』という数字が絡むといつも悪いことがおこる」と。

そのため、この銃は銃弾の残りが4発にならないように設計されている。


つまり、そのシリンダーには弾を詰める穴が3つしかなく、従って今この時点で残りの銃弾は、1発だけだった。

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